第13章『交差広場の激突者達』
ぶつかり合うのは意志か矜持か。
それとも、ただの憂さ晴らしか。
『さぁ——始めようぜ!』
さて、どうしたものかと彼我の戦力を見極めるよう周囲に視線を巡らせる。
広場に通じる四本の大通りからは次々にホワイトケルベロスと称する輩達が集まってきている。
居合わせた者達は、彼等を恐れてか我先にと広場から逃げ出していく。
気が付けば、こちらを囲むように人垣が形成されつつあった。
——長引けば、物量差が面倒だな……
ギャングを気取っているようだが、せいぜいが街の不良グループレベルだろう。
そのような相手に後れを取るつもりはない。
すのぴもこれまでの訓練で、並大抵の相手ならば対処は可能であろうことは分かっている。
懸念があるとすれば、バニラだ。
バニラも昨日とは異なり、本来の獲物である騎士剣を所持はしているが、なにぶんコンディションが最悪だった。
今は気を張っているようだが、蒼白な顔色までは変えることは出来ていない。
「…………やれんのか?」
「舐めないで、くださいまし」
明らかにキツそうではあったが、やれるというのであればその気概を信じるほかない。
なるべく彼女への負担を減らすようにと、すのぴに目線を送っていると、
「てめぇらは手出しすんじゃねぇぞ!」
ピーゲルが集結しつつある配下達に向かって、声を張り上げる。
——馬鹿なのか……?
昨日の路地裏とは違い、このような開けた場所であるならば、物量に物を言わせて襲い掛かってくれば良いだろうが——
「さぁ、見せてやりましょうぜ兄貴! それと——ラージィ!!」
ピーゲルがチンギス、そしてこちらの背後へと視線を送り呼び掛ける。
周囲への警戒を維持したまま、視線をそちらに向けると、大通りを駆けてくる巨躯を捉える。
小さく見積もっても三メートルは優に越える巨体に、思わず舌打ちする。
「な、なにあの人!?」
「巨人族、ですわね……」
その威容に度肝を抜かれているすのぴに、バニラが苦悶の声を溢していた。
巨人族。
人族の倍以上の体躯を誇る種族だ。
成人した人族の胴体ほどもある四肢から放たれる一撃は、並の防御を紙同然に蹂躙する。
生存圏は北領の一部地域のみとされており、ノース・ダストとは遠く離れているはずだが——
——どういう訳か、ここにいやがるとはな……!
そのことに文句を言っても仕方がない。
相手はあの巨人族がいるから、配下の者達に手出しを禁じたということだろう。
——舐められたものだな……
巨人族は確かに強大な力を持った存在だが、大型の魔物と戦うことにも慣れている身としては、多少面倒ではあるが、脅威と捉えるにまだ足りない。
こちらが思ったほど動揺しなかったせいか、ピーゲルが頬を引き攣らせている。
「余裕でいられるのも、今のうちだからなぁ!」
ピーゲルが右腕を掲げると、裾が捲れて銀色の荘厳な装飾をあしらった腕輪が姿を現す。
彼だけでなく、チンギス——そして、ラージィという巨人族にも同様のものを見付ける。
「ブーストぉ!!」「ブースト」「……ブースト」
三者三様に声を上げると、それぞれの腕輪に填め込まれていた魔鉱石が眩い光を放つ。
帯状に伸びた光が枝分かれし、所持者を四方から包み込んでいく。
輝きが落ち着いてきたかと思うと、それぞれの肉体を高純度のマナが覆っていた。
「……強化術の魔道具——いや、そのサイズ、古代遺物か!」
「その通りだ! これでお前らなんて屁でもなくなったって訳だ!」
ピーゲルが下卑た笑みを浮かべて、こちらを舐め回すように見てくる。
何故そんなものを街の不良が持ち合わせているかは不明だったが、彼の言い分は最もだった。
彼等に付与された膨大なマナから強化術の威力が窺い知れる。
身体能力だけで言えば、良い勝負——下手をすれば上回られているかもしれない。
それならば——
「こちらも強化すれば——」
同じ考えに至ったバニラがすかさず、強化術の詠唱に取り掛かろうとする。
だが、向こうもそれを警戒していたのか、
「させるかよ!」
取り巻きから投げ入れられた槍を掴み取ったピーゲルが地を蹴った次の瞬間に、こちらの眼前へと肉迫してくる。
迎撃に大剣を横薙ぎで放つが、それを掻い潜りバニラへと穂先を突き出す。
バニラはそれをギリギリまで引き付けて、側面から払いのける。
ピーゲルが勢いを残したまま接近してくるのに合わせて、バニラが切り上げを放つ。
だが、ピーゲルは穂先を弾かれた流れに身体の動きを乗せることで、旋回し制動を掛ける。
タイミングをずらされたことで空を切ったバニラが無防備な胴体を晒し、そこにピーゲルがなぎ払いを打ち込もうとする。
対するバニラがとっさに手首を返して受けきる。
鍔迫り合いの状態で睨み合う両者が、互いに不敵な笑みを浮かべる。
「へっ、やるじゃねぇか!」
「そちらは——身体能力を強化してその程度ですの?」
「抜かせ!」
互いに距離を取り、再び得物が打ち合う音が響いたのを見て、あちらはバニラに任せることにする。
こちらは、
「お前さんが相手ってことか」
「大剣使い同士……それもまた一興というものだ」
悠々とした足取りで近付いてきたチンギスが、クツクツと笑いながら手にしたそれを掲げて見せる。
華美な装飾が施された柄と鍔に、白銀の刀身が街灯に照らされて怪しく輝いて見える。
「魔剣の類か」
「さぁ、どうだろうな?」
韜晦する態度に舌打ちする。
目の前のそれが魔剣であるならば、強大な力を隠し持っていると見て警戒しなければならない。
それに、先程の古代遺物の件もある。
——ただの不良グループが持つには分不相応すぎるだろ……
魔剣も警戒が必要だが、強化術を行使出来る古代遺物はさらに厄介だ。
魔道具にも同様の効果を齎すものも存在するが、魔道具は一つの例外を除いて小型化に至っていない。
実戦で利用するには大型過ぎるので、実用向きではない。
だが、それに代わる古代遺物を持っているとなると——
——バックに何者かが付いている、ってか……
得体の知れなさを感じるが、尻込みしている暇などない。
「すのぴ! お前はそっちのデガブツを頼む!」
「ええ!? りょ、了解!」
消去法でそうなることは分かっていたのか、一度は驚きを露わにしたすのぴが意を決して巨人族へと立ち向かっていく。
それを確認したところで、改めてチンギスへと向き直る。
「さぁ——こっちも始めるとするか」
お読みいただきありがとうございます!
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