第11章『スラム街の暗躍者』
闇の中で蠢く影をどうすれば見付けられるだろう。
気付いた時にはすぐそこに。
目を付けられたら、もう逃げられない——
『以後、お見知り置きをぉ』
「クソッ——あいつらどこ行きやがった!!」
夜の闇が深まった路地裏の片隅で、男が空を仰ぎながら悪態をつく。
手下を総動員させた人海戦術で街中を駆け回ったが、目的の人物達を見付けることは出来なかった。
やり場のない怒りが胸の内でくすぶっている。
流石にこの都市国家を一日足らずで隈無く探すのは無理があった。
だが、それを理由にこの怒りが収まる訳がなかった。
昨晩から夜通しで飲み明かし、いざホームに帰るところであの女騎士が猛スピードでぶつかってきたのだ。
良い気分が台無しにされてしまっただけではなく、変なオッサンが乱入してきて痛い目に遭わされてしまい、
——このままじゃ、ホワイトケルベロスの名折れじゃねぇか!
ホワイトケルベロスは、この都市国家の裏社会を牛耳っているといっても過言ではなかった。
組織の威信に傷が付いたとあっては、首領である兄貴分に申し訳が立たない。
「仕方ねぇ……兄貴やラージィの奴にも力を借りるか」
色々小言や、下手をすれば罰を与えられかねないが、背に腹は代えられない。
早速、二人にも助力を請うべく足を進める。
その時——
「おやおや……」
いつからそこにいたのか。
男は路地の闇の中から、
音もなく姿を現していた。
「何かお困りの様子ですねぇ」
不意に背後から声が掛かる。
勢いよく振り返り、身構えた。
視線の先には二メートル近くはあろう長身の、しかし痩せぎすな男がこちらを見下ろしていた。
この辺りでは見たこともない奇妙な装束を纏っている。
暗い生地には、不気味な幾何学模様が刻まれていた。
肉食獣を彷彿とさせる切長の瞳を不気味に細め、不敵な笑みを浮かべてこちらを伺う姿に、苛立ちを感じるが、
「何者だ、てめぇ?」
怒りに任せて襲い掛かることはせずに、警戒心を強めて男に問い掛ける。
距離を詰めることさえ躊躇ってしまう男の不気味さに心が粟立つのを感じる。
「そう警戒せずとも……しがない旅の者です。お困りの様子を見かねて、つい声を掛けただけですよぉ」
「ハッ、そりゃどうも……だが生憎、てめぇに付き合ってる暇はねぇんだ」
男の胡散臭さに、吐き捨てるよう言葉を放つ。
——ただの旅人がこんな路地裏に来るかよ……
関わると碌でもないことになりそうな予感があった。
早々にこの場から離れようと踵を返すが、
「それは残念……貴方の力になれるかと思ったのですがねぇ」
足早に路地裏を進むが、男は当然のように後を追ってきた。
「例えば、あの女騎士やギルドの英雄達にひと泡吹かせたり、などなどぉ」
男の発言に歩みを止める。
——見ていたのか……?
それはそれで良い気分はしなかったが、男の台詞につい耳を傾けてしまった。
振り返ったら、男が満面の笑みを浮かべてこちらの様子を伺っていた。
「興味が湧きましたかなぁ?」
「…………話してみろ」
そう告げた時の男の顔は、笑みであったはずなのに、底知れない恐ろしさを感じた。
「ではでは、商談と参りましょうかぁ」
お読みいただきありがとうございます!
少しでも気に入っていただけたり、続きが気になるなぁと感じていただけましたら、幸いです。




