第9話:再会の予感
スマートフォンに届いた美幸からのメッセージ。
「会って話したいことがあるの。」
その一文を見た瞬間、彰人の心は激しく揺れた。
「あれは本当に夢だったのか、それとも……?」
美幸のメッセージは現実のものだ。だが、あの塔での出来事、美幸の言葉、そして彼女が消える瞬間の感覚――すべてが現実と夢の境界を曖昧にしていた。
「確かめるしかない。」
彰人はそう心に決め、返信を打ち始めた。
「俺も会いたい。場所と時間を教えてくれ。」
数分後、美幸からすぐに返信が届いた。
「明日の午後3時、いつもの公園で待ってる。」
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翌日、午後3時。
彰人は指定された公園に向かった。そこはかつて二人がよく訪れた思い出の場所だった。春には桜が咲き誇り、夏には木陰で涼を楽しむことができる穏やかな場所。
ベンチに腰掛け、美幸を待ちながら、彰人の胸は期待と不安でいっぱいだった。
「もし昨日の出来事が現実だったなら……彼女は何を話すんだろう。」
やがて、木々の間から美幸の姿が見えた。白いワンピースに薄いカーディガンを羽織った彼女は、少し緊張した表情を浮かべている。
「美幸……!」
彰人が立ち上がると、美幸も足を止め、軽く微笑んだ。
「久しぶりだね、彰人。」
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二人はベンチに座り、ぎこちなく会話を始めた。
「急に連絡してごめんね。でも、どうしても話さなきゃいけない気がして……。」
美幸が話し始めると、彰人は真剣な表情で耳を傾けた。
「最近、なんだか不思議な夢を見るの。あなたと別れたあの日から、ずっと選ばなかった未来を見ているような……そんな夢。」
「選ばなかった未来……?」
彰人の胸がざわついた。それはまさに、昨日彼が体験した世界のことと酷似している。
「夢の中で私は、新しい道を歩んでいるの。でも、その道の途中で、あなたの姿がいつも遠くに見えるの。私はその道が正しかったのか分からなくなる。」
美幸の言葉に、彰人は確信を得た。昨日の出来事は、彼女にも何らかの形で影響を与えていたのだ。
「美幸……俺も、似たような夢を見たんだ。」
そう言いながら、彰人は自分が体験した塔での出来事を語った。
「夢の中で俺は、君を追いかける選択をした。でも、その選択が君の未来を壊すんじゃないかって、ずっと悩んでいた。」
美幸は驚いた表情を浮かべた。
「それって……もしかして私たちの選択が交差しているの?」
彰人は頷いた。
「俺たちが今ここで再会したのも、何か意味があるのかもしれない。」
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二人はしばらく沈黙した後、美幸が口を開いた。
「彰人、もう一度やり直せると思う?」
その問いに、彰人は一瞬戸惑ったが、力強く答えた。
「やり直すことはできる。俺たちがそう決めれば、どんな未来だって切り開けるはずだ。」
美幸は微笑みながら頷いた。その微笑みには、これまでの迷いや不安を乗り越えた決意が見えた。
「ありがとう、彰人。私もそう信じたい。」
二人は再び歩き始めた。これまでの後悔や迷いを振り払い、共に新しい未来を選ぶために――。
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