第7話:揺れる影
彰人は光の塔へ向かうレールを選んだ。迷いながらも、美幸の姿を確かめたいという強い想いが彼を動かしていた。
レールは不規則にねじれ、まるで彼の心の迷いを映し出しているかのようだった。進むたびに周囲の風景が変わり、塔が遠ざかったり近づいたりする。それでも彼は足を止めなかった。
「美幸……本当に君なのか?」
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塔の入り口にたどり着いた時、目の前には巨大な扉が立ちはだかっていた。扉は奇妙な模様が刻まれ、まるで彼の選択を試しているように感じられた。
扉に触れると冷たい感触が広がり、低く鈍い音を立てながらゆっくりと開いていった。その先には長い螺旋階段が続いている。
「ここを登れば、あの姿の正体が分かるのか……?」
階段を登り始めると、不思議な感覚が彼を包んだ。頭の中に直接、声が響いてくるのだ。
「なぜ追いかける?」
「その選択は正しいのか?」
「彼女が望む未来を壊すことになるかもしれない。」
まるで自身の心の声が問いかけてくるようだった。
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ようやく頂上にたどり着いた時、彰人は息を切らして立ち止まった。そこには、美幸が確かに立っていた。
彼女は白いドレスを纏い、静かにこちらを見つめている。しかし、その瞳にはどこか冷たさがあり、まるで別人のように感じられた。
「美幸……?」
彼女は微笑みながら、静かに口を開いた。
「どうしてここに来たの?」
「君に会いたくて……俺は……」
彰人が言葉を詰まらせると、美幸は少し首をかしげた。
「でも、私はここで新しい人生を歩もうとしているの。あなたが来るべき場所じゃないわ。」
「どういう意味だ?」
彼女はゆっくりと近づき、彰人の手に触れた。その瞬間、彼の心に強い違和感が走った。
「ここにいる私は、あなたが選ばなかった未来の一部に過ぎないのよ。」
「選ばなかった未来……?」
「あなたが私と距離を置いたことで、私は別の道を歩むことができた。その結果が、この私。」
美幸は柔らかく微笑むが、そこにはどこか哀しみが混じっているようだった。
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「でも、俺は……君に会いたかったんだ!」
彰人の声に、美幸はしばらく沈黙した後、再び口を開いた。
「あなたがここに来たことで、私の未来は揺らいでしまうかもしれない。それでも、あなたはこの未来を壊してでも私を追いかけたいの?」
彼女の問いかけに、彰人は言葉を失った。この先に進むことで、彼女の歩むべき未来を壊すことになるかもしれない――。
その時、案内人の声が再び響いた。
「選べ。彼女を追いかけるか、それともここで引き返すか。お前の決断が未来を創る。」
美幸が静かに彰人を見つめている。その瞳に映る感情が何なのか、彼には分からなかった。
「俺は……」