第14話:崩れゆく記憶と選択の重み
新たに現れたレールを目の前に、瑞樹はその光景に言葉を失った。前回の選択で終わりだと思っていたはずなのに、再び分岐点が現れるとは思いもしなかった。
「どうしてまた……?」
光るレールをじっと見つめていると、案内人の冷静な声が頭に響いたような気がした。
「人生は一度の選択で終わるものではない。選択の連続が、あなたの未来を形作る。」
その声に耳を傾けながら、瑞樹はふと疑問に思った。このレールはどこへ続いているのだろうか?
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瑞樹はその日、仕事が終わった後もずっとレールのことが頭から離れなかった。オフィスでの要との再会が胸に引っかかり、彼が歩む「選ばなかった未来」の行方が気になって仕方がなかった。
「結婚して、幸せそうだったな……。」
彼女は口の中で小さく呟いた。だが、それと同時に、自分が選んだ道への疑念が湧き上がる。確かにキャリアを選んだことは後悔していない。しかし、選ばなかった未来の方が正しかったのではないかという不安が、心の奥底に渦巻いていた。
その夜、眠りについた瑞樹の夢の中に案内人が現れた。彼女は静かに瑞樹を見つめている。
「またあなた……。どうして私の前に現れるの?」
「あなたの選択が、まだ終わっていないからです。」
案内人の声は冷たく響くが、その奥には何か深い意図が込められているように感じられた。
「どういうこと?私はキャリアを選んだわ。それなのに、また選べっていうの?」
「人生の選択は一度きりではありません。あなたがキャリアを選んだことで新たな道が生まれ、その中にまた別の分岐が現れる。それがこの世界の仕組みです。」
瑞樹はその言葉に言いようのない苛立ちを覚えた。
「何度も何度も選ばされて、私は何を得られるの?私は幸せになれるの?」
案内人は静かに首を横に振った。
「それは、あなた自身が決めること。私たちは道を示すだけ。選択の先に何があるかは、歩んでみなければわかりません。」
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翌朝、瑞樹は目覚めた後も夢の中の案内人の言葉が頭に残っていた。鏡の前で化粧をしながら、自分に問いかける。
「私は、このままで本当に幸せなんだろうか……。」
オフィスに向かう途中、瑞樹は突然激しい頭痛に襲われた。道端のベンチに座り込むと、頭の中に断片的な映像が浮かび上がる。それは選ばなかった未来の記憶だった。
要と一緒に笑い合う自分。二人で旅行に行ったり、結婚式でドレスを着たりしている光景が、まるで現実のように生々しく脳裏に浮かんだ。
「これは……なんで?」
記憶の断片は瑞樹の中で鮮やかに再生されるが、同時にそれが現実ではないことを彼女は理解していた。それは消えたはずの「選ばなかった未来」の痕跡だった。
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オフィスに着いた瑞樹は、上司の中村に呼ばれた。新しいプロジェクトのリーダーとして、彼女が指名されたのだ。
「堀田さん、君ならこの案件を成功させられると期待している。」
その言葉に瑞樹は感謝を述べたが、心のどこかに空虚さが残った。選ばなかった未来の記憶が、彼女の心を支配し始めていたのだ。
仕事が終わり、帰り道を歩いていると、再びレールが現れた。今回は以前よりも明確に光り、瑞樹を誘うように輝いている。
「またか……。」
瑞樹はそのレールをじっと見つめた。どちらの道を選ぶべきか――その答えを出すのが怖かった。
案内人の声が静かに響いた。
「選びなさい、堀田瑞樹。選択の先にある未来を受け入れる覚悟を持って。」
瑞樹は震える手でレールに手を伸ばした。どちらを選んでも、後戻りはできない。それでも、彼女はもう一度進むことを決意した。
「私は……選ぶしかない。」
その一歩が彼女の未来をどのように変えるのかは、まだ誰にもわからない。しかし、瑞樹の中には少しだけ希望の光が灯り始めていた――。
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