第12話:選択の代償
瑞樹は二本のレールを前に立ち尽くしていた。案内人の冷静な声が耳に残る。
「選ばなければ、どちらの未来も消えます。」
その言葉の重さが瑞樹の心を締めつける。どちらを選んでも、もう片方の未来を失う――その現実を理解すればするほど、足が動かなくなった。
「どっちも捨てられないよ……そんなの、無理だよ……。」
瑞樹は声を震わせたが、案内人は表情を変えずに彼女を見つめているだけだった。その静けさがかえって彼女の不安を煽る。
「選ばなければ、時が止まるだけです。」
「時が……止まる?」
「そうです。あなたが選択しない限り、あなたの人生はこの分岐点から進めなくなります。」
瑞樹の心に焦燥感が走る。選ばなければ進めない、しかし選んだ後には後戻りもできない。
「私にとって、どっちが正しい未来なの?」
案内人は首を軽く横に振った。
「それを判断するのは私ではなく、あなた自身です。どちらが正しいかを決めるのは、あなたの意思だけ。」
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瑞樹は目を閉じ、自分の心の声に耳を傾けた。
要との穏やかな生活――彼はいつも優しく、彼女を支えてくれる。彼となら、きっと安定した幸せが手に入るだろう。
一方で、仕事への情熱――これまで努力して築いてきたキャリアを捨ててしまうのは怖い。まだやりたいことが山ほどある。
どちらを選んでも、後悔するかもしれない。それでも――。
「……わかった。」
瑞樹は深呼吸をし、レールに向かって一歩踏み出した。
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その瞬間、目の前の光景が変わった。彼女が選ばなかったレールが音を立てて崩れていく。
「待って、何で……?」
瑞樹はその光景に恐怖を覚えた。選ばなかった未来が目の前で消え去り、もう戻ることができない現実を突きつけられる。
案内人が静かに口を開いた。
「それが選択の代償です。選ばれなかった未来は、完全に消える――そしてあなたは選んだ未来を生きるだけ。」
崩れ落ちていく未来の残骸は、瑞樹の心に深い痛みを刻んだ。しかし、崩壊が終わると同時に、彼女の目の前には選んだレールが光り輝いていた。
「ここからは、あなたの選んだ未来が始まります。後悔することなく、進みなさい。」
案内人の声は静かだがどこか暖かかった。
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瑞樹は選んだレールを歩き出した。目の前には広がる光の道――その先に何が待っているのかはまだ見えない。それでも、彼女は心に決めていた。
「もう戻れない。だから、進むしかないんだ。」
瑞樹の足音がレールの上に響く。彼女が選んだ未来の扉が、ゆっくりと開かれようとしていた――。
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