第11話:分岐点の予感
あらすじ
25歳の堀田瑞樹は、広告代理店で働くキャリアウーマン。恋人の近藤要と安定した交際を続けながらも、結婚やキャリアの選択について心の中で葛藤していた。
ある夜、瑞樹の前に「案内人」と名乗る謎の女性が現れる。案内人は瑞樹に、彼女の人生に存在する「分岐点」を示し、選ばなかった未来が消える代償を伴うことを告げる。
キャリアを優先し夢を追う未来か、近藤と共に穏やかな家庭を築く未来か――瑞樹の選択は、どちらの未来も魅力的でありながら、同時に恐ろしくもあった。
選択の果てに待ち受けるのは、希望か、後悔か。それとも、その先にある別の真実か――瑞樹の選んだ未来が、やがて新たな運命を切り開いていく。
「私が望む未来は、本当にこれで良かったの……?」
決断の時が迫る中、瑞樹が辿る人生の軌跡が描かれる物語。
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堀田瑞樹は、忙しさに追われる日々を送っていた。広告代理店に勤めて3年目、彼女の仕事は順調そのものだった。担当するクライアントのキャンペーンが成功し、上司からの評価も高い。だが、どこか満たされない気持ちが瑞樹の心に影を落としていた。
「結婚、か……」
その言葉が頭をよぎるたびに、瑞樹は深い溜め息をつく。
恋人の近藤要とは3年の付き合いになる。要は穏やかで誠実な性格の男性だ。彼との関係には不満はない。しかし最近、彼が結婚をほのめかすような発言をするたびに、瑞樹は心の中で戸惑いを覚えていた。
「私、本当に結婚なんてして大丈夫なのかな……?」
結婚生活と仕事の両立。それは決して不可能ではないはずだ。だが、瑞樹にはどうしても自分がどちらかを中途半端にしてしまうのではないかという不安があった。
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ある夜、瑞樹は仕事を終え、深夜の街を一人歩いていた。静かな住宅街に入ると、急に目の前が白く光り始めた。
「何……?」
その光の中から、一人の女性が現れた。白いスーツを着たその女性は、瑞樹と同年代に見えるが、その眼差しはどこか冷たくも優しさを含んでいた。
「こんばんは、堀田瑞樹さん。」
瑞樹は驚きながら後ずさった。
「え、誰?なんで私の名前を――」
女性は微笑み、静かに近づいてきた。
「私は案内人。この先、あなたが進むべき道を見せる者です。」
「案内人?」
「そう。あなたは今、大きな分岐点に立っている。どちらの未来を選ぶのか――その選択を迫られる時が来ています。」
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案内人が手をかざすと、瑞樹の目の前に二本のレールが現れた。一方は右に向かい、もう一方は左に向かっている。それぞれのレールは淡く光り、行き先を示しているようだった。
「右のレールは、近藤要と共に歩む未来。穏やかな家庭を築き、安定した幸せを手に入れる道です。」
「左のレールは、キャリアを追求し、自分自身の夢を叶える未来。成功と挑戦が待っているが、孤独も伴う道です。」
瑞樹は息を飲んだ。
「こんなの、どうして私が選ばなきゃいけないの?」
案内人は冷静に答える。
「選ばなければ、どちらの未来も消える。それがあなたの運命だから。」
瑞樹の頭は混乱していた。どちらの道も捨てがたい。しかし選ばなければならないと告げられたことで、胸が締めつけられるような感覚を覚えた。
「……選ばなかった未来はどうなるの?」
「選ばなかった未来は、二度と手に入らない。それがこの選択の代償です。」
案内人の言葉は冷たく響いた。
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瑞樹は二本のレールを見つめながら、自分の中で葛藤を繰り返した。
「私が本当に進むべき道は……?」
その問いへの答えを出すには、あまりにも短い時間だった。
案内人は静かに微笑みながら、瑞樹に手を差し出した。
「時間は無限ではないです。さあ、選んで。」
瑞樹の心の中で、二つの未来が交差する。右か、左か。彼女の選択が、これからの運命を大きく変えることになる――。
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