はろうぃん
駅のホーム。
今日はハロウィンだったか。
隣接している空間はすべて、人、人、人。
人はなぜ仮装をするのだろうか。
そんな思考回路を辿るのも億劫なほどである。
「お兄さん、とりっくおあとりーと!」
突然、小さな女の子が話しかけてきた。
一瞬、誰に話しかけられたかわからなかった。
「お兄さん、とりーとしてくれないの?」
「ん、ああ……お菓子のことかな?あいにく、今手持ちがないんだ。」
周りの空気が少し変化した気がした。
「そうなの…?まあ……どちらでもおなじなんだけどね。」
「え?」
「ううん、いいの。それよりお兄さんはどんなお菓子が好きなの?」
物怖じしない少女の質問に、思考を巡らせてみた。
「そうだね、わたあめがすきかな。子供の時にお祭りで買ってもらえるような。あんなに量があるように見えて、口の中に入れるとあっという間に消えていく、もどかしさがすきなんだ。」
どうしたんだろう?
周囲の人間が、まるでドーナツのように、自分を中心に輪を作っている、というより自分を避けている。
「私もわたあめ好きよ。掴みどころの無いところが、まるで人間みたい。」
いつの間にか、私の近くにいるのは少女のみ。
「どんなところが掴みどころがないかというと、嫌いなものを好きと言ったり、」
私が見えるのは少女の顔のみ。
「話を誇張して喋ったり、」
私に聞こえるのは少女の声のみ。
「存在そのものが嘘だったり。」
私には。
なにがあるのだろうか。
ホーム。××のホーム。
人々は仮装の残骸を地面に押し付けて、今日も笑顔と共に過ごしてゆく。
オレンジ色の空になるまで。