8話:人間の街を目指して
サクッサクッパキッザッザッサクッサクッサクッ
落下した位置から歩き始めて3、4時間くらいだろうか?時計なんて便利なモノを持っていたりなんてしないし、太陽の位置から大体の経過時間予測するなんて特技を収めている訳でもないので勘でそうかなと思っている
まあ行き当たりばったりで森を歩き始めたにしては今のところこれといった問題もなく進めていた
森であるがゆえに起伏が激しいし普通の平地と違って足元も安定しにくいし視界が悪いしで快適とは言い難い道のりながらも吸血鬼の身体能力のおかげで疲れて歩けないなんてこともない
正直羽を使って飛んで移動したいところではあるが、不意に人間とかに見られた場合に追いかけ回される可能性がある。ゴスロリなんていう目立つ格好をしている以上は人間とかに発見されたくない。人間の街の方向に飛んで行ったからって、街で指名手配とかされていたら行動が辛すぎる
吸血鬼はそもそも普通の生き物と体の構造が違うのか汗もかかないし、快適な移動ではないという点に目を瞑れば魔物とかそういうのにも襲われないし結構快適と言って差し支えない
このまま順調な旅を続けたいところだ
サクッサクッサクッサクッホーホーザッザッザッザッ
陽が沈み月っぽい何かが顔を見せる。つまり夜だ
遠くの方では前世で言うところのフクロウみたいな鳴き声が聞こえてくるがここは異世界だ。私がイメージしている通りのフクロウが出てくるなんて期待しない方が良いだろう。迂闊に近寄って牛一匹を易々と運ぶような大梟みたいな化け物には出会いたくない
途中で本当にこの方向で合っているのか不安になったが、幸いにも月っぽい何かが昇ってくれたおかげで目印無しの割に正しい方向へ進めているのだと知れた。城から見えていた太陽と月モドキの位置的に同じ軌道で動いているであろうと思っている
また、他にも幸いな要素として夜なのにも関わらず昼間のように見えていることだろう。これのおかげで夜の森でも迷いなく突き進める。ただ逆に昼間は明るすぎて少し眩しいと思うが
まだまだ順調な旅路だ
コツコツコツコツコツコツコッ!コロコロ
月モドキが沈み再び昼の象徴が姿を見せる。つまり翌日だ
現在は森の中と言えば森の中ではあるが、足元は岩の岩場を歩いている。旅2日目にして手持ち無沙汰で暇になったのでそこら辺で見つけた石ころを蹴りながら移動している。あの石は夜明けの頃から蹴っているので地味に執着が湧いていた
休憩も飲食も無く歩き続けられる吸血鬼の体は非常に便利だ
コッ!コロコロコ・・・
あ、隙間に入って取れなくなってしまった・・・
サクッサクッサクッペシッサクッサクッ
照明は落ち世界は小さな宝石を散りばめた漆黒のカーテンに包まれる。つまり夜だ
そこら辺で拾った長めで丈夫そうな枝を振り回し、時折手の届く範囲の葉っぱを叩いたりしながら突き進む。さながら気分だけは勇者の剣を振り回し数々の障害を切り伏せる勇者様だ。まあ残念ながら私は吸血鬼なので勇者に倒される側の悪役なのだが
いや、私自身の姿を見たことが無いので断定はできないが容姿次第ではヒロインルートで生き残る可能性も・・・女勇者が相手なら前向きに考えるかもしれない
それはそうと一つ問題が発生した。大事に扱っているのでスカートは破れていない
実はお腹が空くような喉が渇くような感覚がしてくるようになった
今のところはちょっと小腹が空いたなーとか、水を一口含みたいなー程度の軽い欲求で済んでいるが・・・もしかしたらかなり深刻な問題になるかもしれない
なので夜明け頃から理想を言えば川、時点で湖や池を探している
川があるなら森小屋くらいなら見つかるかもしれないし、無かったとしても湖や池があれば水分補給くらいはできる。空腹の方もそこら辺から木の実を捥ぎ取って食べれば言い。最悪猛毒の身だったとしても吸血鬼だしたぶん死なないだろう
異世界モノだと吸血鬼は高い耐毒性能があるのはお約束みたいなものだ
不安な事としては吸血鬼らしく血液でしかそれらの欲求を満たせないとなった場合だ
この森の生き物の戦闘力が未知数な事と、出発してから一度も生物と出会っていないことを加味して不安だ
ザクザクザクザクザクペシッザクザクザク
帳は上がりスポットライトが舞台を照らしだす。光に照らされる世界はさながら歌っているようであった。つまり朝だ
あれからも歩き続け土が僅かに水気を持ったエリアに来た。そのせいで足を踏み出すたびにブーツが地面にめり込み少し歩き辛い。それにさっきから水っぽい音や匂いがしないか注意深くして歩いているが、成果は芳しくない
因みに、勇者の剣もとい木の枝は現役だ。たまに葉っぱだけでなく木の幹を軽く叩いて遊んだりしているのに未だに折れないことからかなり頑丈な枝を拾えたらしく地味に嬉しかったりする。吸血鬼のフルパワーで振り回したら速攻で折れる気がするのでしっかりと手加減はしている
それはそうと空腹感のような喉が渇くような感覚が強くなってきた。感覚としては朝ご飯を抜いた時の昼食前だろうか?我慢できなくはないが、できれば水を飲みたいと思う程度にはなってきた
ザクザクザクザクザクザクペシッ
人間達が出歩く時間は終わった、これより化生ども蔓延る時となる。つまり夜だ
相変わらず水気の多いエリアだが川も池も見つからない
いい加減に空腹感も口渇も酷くなってきた。一日何も口にせず居た感じくらいだろうか?耐えて生きるか耐え切れず死ぬかの二択ならまだ我慢できる範疇だが、何の意味も無くは我慢したくないほどになってきた
・・・血液なら何でも良いんだろうか?
ビューーーーーーーーッッ!!!
現在風の音からの暫定的な判断ではあるが、崖を落下していた時よりもずっと速い速度で走行中だ
何故こうなったのか。それは太陽が真上に差し掛かるころ突如として茂みが揺れる音がした
木の枝を勇者の剣だと言い張って振り回すのにも億劫になってきていた私はガサガサと揺れる茂みをボーっと見ながら通り過ぎようとしていた。だが次の瞬間に茂みから狼のような生き物が私の顔を目掛けて飛びかかって来たのだ
ボーっとしてはいたが幸いにも視線だけはそちらの方を向いていたのでギリギリ避けることができた。ちょっと髪の毛を持って行ったしちょっと熱かったのは許さん
ヒヤッとしながらも飛びかかって来た狼の方を睨むとなんか毛皮が帯電しているし、大きさも前世で言うライオンくらいの大きさはあった。そのことを認識した瞬間に「あっ、これは駄目な奴」だと判断し振り返って逃げようとするも、既に退路は同じ種類の狼に塞がれてしまっていた
挟み撃ちされた事にどうすべきかと怯んだ隙に周りの茂みから更にゾロゾロと20匹近い帯電した狼が集まりあっという間に四方八方を囲まれてしまった
死ぬか生きるかの瀬戸際
私は進みたい方向を塞いでいる狼に向かって腰に木の枝を構えて突貫した
木剣ですらないただの枝では横や縦に振り払ったところで牽制にもならないし、吸血鬼の力で振るえば狼に当たる前に折れてしまうかもしれない。ならば刺突武器として一か八かの賭けに出た
踏み込みの利きにくい足元ながらも吸血鬼の力で踏み込めばただの頑丈な木の枝は十分な威力を持つ勇者の剣へと成り代わった
狼も私からの急すぎる反撃に反応しきれず勇者の剣を首元に受ける結果となる。あれで殺せたかどうかは確認する暇など無かったのでわからないが、走りながら見た感じでは首元から血を流す狼は見当たらない
死んだか、移動不能になったか、どっちでも良いが約20匹から1匹減ったところで焼け石に水だ
それと勇者の剣は最後の役目は果たしたとばかりに半ばで折れてしまったので捨ててきた。意味も無く広い無駄に気に入って持ち歩いていた枝だが、最後の一撃は私にとってまさしく勇者の剣だった。途中で邪魔な枝とか思ってごめん
それはそうと無駄に格好良く稲妻を走らせながら疾走してくる狼達。落下している時よりも更に速く、少しでも集中を切らせば木に激突するほどの速度を出しているのに中々振り切れない。討伐ランクみたいなのがあるのならあの狼たちは絶対にAからSは堅いだろう
サラサラサラサラサラホーホーサラサラサラサラサラ
「はぁ・・・疲れてはおりませんが、精神的に少々参ったわね・・・」
途中から森の中を疾走することに慣れ始め更に速度を上げたことにより何とか帯電した狼達から逃げることに成功した
肉体的にはかなり余裕がある事からこの身体のスペックの高さが窺い知れるが、精神の方が疲れた
足元や障害物に気を使いながらの疾走はかなりの集中力を要した。どっかの鬼畜アクションゲーを遊んでいた時の方がまだ気楽に構えていたくらいだ
ただ、どうしても避け切れなかったり避けるよりも突っ込んだ方が速いと判断した茂みには何十回と突っ込んだ
そのせいで服がボロボロになるかもと思っていたのだが、走り終わって見下ろした洋服には裾のほつれどころか汚れすら付着していなかった
吸血鬼が使用するということで何かしら特別な魔法でも付与されていたりするんだろうか?今の私にはそれを調べる能力が無いので疑問に思うことしかできないが・・・。まあ予想よりもかなり荒く使ったとしても簡単には破けないと知れたので良かった。今後はもっと移動速度を上げても良いかもしれない
そんなことは置いておき、少し落ち着いたらまた空腹感のような口渇のような感覚が酷くなってきた
だが不幸中の幸い、逃げた先で川を見つけたのだ
川の上流は残念ながら人間達の国があると聞いた方向とは全く違う方に伸びているため川沿いに移動するというのは諦める必要があるが、これで水分補給だけでもできるはずだ
流水なので念のため指先を少しだけつけて様子見しつつ無事なことを確認して一口飲んでみた。結果は・・・
「・・・まあわかってはいたわね」
何となく予想通り空腹感も喉の渇きも一切癒えなかった
精々が久しぶりに何かを口にするという娯楽を満たせた程度で終わってしまった
となるとあの狼達のような化け物を殺して吸血することになる。たぶん吸血鬼パワーで殴れば倒せる。それまで仕方がないそう思い自身の右腕に歯を突き立てた
サッサッサッサッサッサッサッ
獣共から逃げる夜は明け、安らぎの光が身を包んだ。つまり朝だ
片腕が動かせないので少々不便ではあるが、この程度であれば問題ないと昨日までよりも進行速度を上げて森の中を走っている
そうだと良いなと希望をかけて牙を突き立てた右腕だが、希望通りある程度の誤魔化しが効いた
片腕を動かせないし味も可もなく不可もなく出し欲を満たす感覚は微妙だしと理由が無ければ取らないような応急手段でも今回みたいなときは助かる。真夏の暑い日に喉が渇いている時に出てきた飲み物が白湯だったときのような気持ちだ
水分を取れないことは無いし喉を潤せないことも無いが、これじゃない感が凄いみたいな感覚をしている
それでも何も飲まずに居るよりはずっとマシなので妥協して吸い続けた
ビューーーーーーッ
少し眩しすぎる昼間よりも適度な光量の夜の方が移動しやすい。それに多少は紛れた空腹感を無視しつつ動きやすい今のうちに速度を上げようということで森の中を疾走していた
あの狼達に追いかけられながら走った経験のおかげで、ただ森の中を疾走するだけなら気軽に走れるようになっていた
サッサッサッサッサッサッサッ
相変わらず腕を噛みながら森の中を走っている
血の匂いで私の餌になりそうなのでも来ないかなと少しばかり期待したのだが、残念ながら来てくれなかった。吸血鬼の血は獣達にとってあまり魅力的ではないのだろうか
まあ来ないなら来ないで変に時間を取られることも無いので人間の街に着くのが少しだけ早くなるかもしれない
あと本当に、吸血鬼の体が疲れ知らずで良かった
ビューーーーーッ
相も変わらず森の中を疾走する。されどかなり嬉しいことがあった
なんと森の木の密度が少し減ってきている・・・気がする
それに極々稀にではあるし走りながらなので詳しくは見ていないが、自然物かどうか疑問に思うようなモノを落ちているのを見た。もしかしたら人間の生存圏が近づいてきているのかもしれない。たったの数日で移動できるとは吸血鬼の身体能力万歳!
連日で浴びていると鬱陶しく感じる日差し、その源が頭上に上り切った頃
ようやく知恵のある生き物が居た形跡らしきものを発見した
というのも明らかに靴を履いていないとできないような足跡を見つけたのだ
たった数日間の移動でここまで来れるとは思いもしなかった。それにしても、こんな距離にある人間の街がどうして未だに滅びていないのだろうか?気まぐれで滅ぼしていないだけで何となく生かしておいているだけ・・・とかでないことを祈る
「さて・・・あとは・・・・・貴方達を始末すれば完璧ね」
ガサガサガサッ
何時の間に追い付いてきたのだろうか
毛皮が雷を帯びている狼達が再び茂みから20匹近く姿を現した
《Grururururu》
もしかしたら違う群れなのかもしれない。だがそんなことはどうでも良い。
ここ連日の微妙に癒えきらない空腹感と喉の渇き、何とも鬱陶しい程度に眩しい太陽光
私は地味にイライラしていた
八つ当たりだとか知らない。向こうが襲ってくるのだから私は返り討ちにするだけだ。そのついでにストレス発散ができたらな程度のもである。あと吸血も
何か武術を習っていたわけでもないのでこれと言った構えは無いが学校に行っていた頃の体育の授業で重心は軽く落とした方が動きやすいことくらいは知っている。腰を軽く落とし足は地面に踏ん張らずすぐに動かせるようにしておく
そうこうしている間に狼達の包囲網は完成したらしい。グルルと唸り声を出しながら徐々に私を包囲する円を狭めてきている
(さて、対集団戦でしかも相手は四足の獣・・・どう戦るのが正解か全くわかんない。わかんないから思いつく限り・・・)
じりじりと狭まる円、そしてその時は唐突に始まる
「思いっ切り叩きのめす!」
私の丁度背後に位置取っていた狼の1匹が勢いよく飛びかかってくる。少しタイミングをずらして前方に居た2匹も飛びかかって来た
(んじゃっ!)
上半身はそのままに左足を反時計回りに90度回しその状態から僅かに状態を反らして後方からのを避ける。避けながらその狼の背中を掴み背骨をへし折って行動不能にし、前方から来ていた2匹の狼は右手で薙ぎ払い頭の無い狼の死体を2つ作る
前方からの2匹の攻撃の陰に隠れるようにして1匹追撃が来たので、左手の中で動けなくなった狼諸共地面に叩きつける。すると今度は左手からの攻撃が来たので丁度地面についている左手を軸に右足を振り踵で蹴り飛ばす。勢いそのままに右腕を振り遠心力を上体を起こしながら反対側から来ていた更なる追撃を裏拳で殴る
(想像についてくる身体能力最高ッ!)
波状攻撃だったかを仕掛けてくる狼たち相手にこのまま真ん中で待ち続けるのは愚策。ゆえに今度はこちらから攻撃を仕掛けた
振り切った右裏拳を皮切りとして右手側の狼達に接近する
すると手前に2匹少し下がって1匹狼が待機している。なので取り敢えず左側の狼の顎を掴み勢いよく振り上げて頭蓋ごと中身をぶちまけて少し下がっている狼の視界を奪う。ついでに振り上げた左腕と対象になるように降り下げた右腕で右側の狼の頭蓋を撒き散らして後方への警告もとい牽制をする。残った1匹には前足の肩部分に右足で全力の蹴りを入れ狼の前半身そのものを吹っ飛ばして撒き散らす
「ふぅ・・・」
一息入れ振り返れば生き残っていた狼達は一目散に逃亡をしていた。仮に私を殺すことに成功したとしてもその頃には群れの数もかなり減ってしまい割に合わないと判断したのだと思う
ということで勝利
ついでに餌もライオンサイズの狼が9匹も手に入った。味には期待できないかもしれないが、これだけの量があればひとまずの問題は解決するだろう
(それにしても・・・)
「視力も聴覚も身体能力も高くて良かった・・・ですわ」
そして終わってからなんだが・・・
(はぁ・・・今更緊張してきた~・・・!)
イライラと戦闘中のアドレナリンで殺ってるときは楽しかったが、いざ終わってみれば息が震えて仕方ない。初めての命のやり取りであるはずなのに上手くいったのは異世界定番のアレだろうか?
何にせよ生き残れてよかった
(てか思い出したら帯電した狼殴ったの痛くなってきた)
(クッソ無駄にビリビリしやがって。・・・もう痛くないから良いけど)
吸血鬼あるあるの高い再生能力に感謝しながら久しぶりのご飯を吸った
正直わざわざ吸いたいと思うほどの味ではなかった。あと臭い
次回投稿予定:気分次第




