7話:足元には要注意
ゴーーーーーーーーーーーー
周りの音どころか私自身の声すら聞こえない程の強風を受けながら私は落下していた
「―――、――――――――、―――――――――――――――」
吹き荒れる風に髪は乱れ、スカートはバッサバッサと凄まじくはためいている。実際の所は風の音が強すぎでスカートがはためく音など聞こえてもいないが、動き方的にたぶんそんな感じの音が鳴っている気がする
ケープも一緒に物凄い勢いではためいているが、飛んでいかれても困るのでしっかりと抑えている
空中において移動手段など持ち合わせていない私はなすすべもなく重力に引っ張られ続けているので、このままいけば30秒後かそこら辺後には地面のシミになっているだろう
落下している途中で切り立った崖の一部が頬をかすめた時は思考が真っ白になりその後すぐに崖に向かって思いっ切り飛んで良かったと思った。もしも少しでも躊躇して飛んでいたのなら今頃は首とかを切り落としていたかもしれない。いくら吸血鬼とは言え首が落ちれば死ぬと思うので当たらなくて良かった
まあそもそも窓から飛び出そうなんて後先を考えない行動をしていなければこんなことを考える必要は無かったわけだが
因みに落下しているにもかかわらず冷静なのには理由がある。前世での死因が自らによる飛び降りだったせいかこういう高所からの落下に対して変な耐性が出来てしまった。おかげで絶体絶命の状況においても非常にクールなのだ
「――――――――――――――――――、―――――――――――――――――――――?」
「―ッ―――、――――――――――――。――――――――!」
嘘だ。実は単にどうしようもさ過ぎる状況に頭がおかしくなっている
ふとその時、私の脳内に謎の使命感めいた何かが湧いてくる
(翼を・・・出す・・・?)
よく考えればあのスーパー変態おじさんもお姉様も吸血鬼だと言う割には翼のようなものが背中に生えていなかった。その時はそういうものくらいにしか思っていなかったが、今にして思えばそんなわけはない。もしかしたら服の中に畳んでいるとか、そもそも翼が無い系の吸血鬼の可能性もあるとかそんな可能性もあるが今は置いておこう
さて、上手くできるかはわからないが後は翼さえ出せればこの状況から助かる可能性が出てきた
(でも・・・)
にもかかわらず私は落下しながらその使命感に従うことを躊躇していた。なんせ従った結果が昨日の夜のロストハートリビングデッドエルフ事件だ。疑わない訳が無い
翼を出すだけで何の影響があるのかは知らないが、もしかしたら翼を出した瞬間崖に羽が引っかかって壁面に叩きつけられるとか。偶然羽を出しながら着地したところに吸血鬼討伐隊的な存在が居て「吸血鬼だ!殺せっ!!」という展開になるとか。吸血鬼の羽からは魔物的なのを呼び寄せるフェロモンが出るとか。碌でもないことが起きる気しかしない
(デッドorランダムイベント。どっちがマシかと聞かれたら・・・まあ、後者か)
きっと大丈夫、この世界の人間の平均が吸血鬼の城に居たメイド達くらいなら千でも万でも何とかなるはずだ。吸血鬼の身体能力なら大体何とかなる
自身にそう言い聞かせた私は覚悟を決めて羽を展開する
(羽開け!・・・?羽!ちょ、羽翅はね!どうすれば良いの!?)
助かるかもと思った方法を実行しようとするもうまくいかない。一度助かるかもと思ったのにそれがうまくいかないと気付き焦った
「――――っ!?―――――!!!」
続く謎の使命感めいた何かにより、今の私ではわざわざスキル名?とかそういうのを叫ばないと体が反応しないらしい。そういうのは事前にすべて教えて欲しい若干キレそうになりながらも今知ったスキル名を思いっ切り叫ぶ
すると突然体全体にふわりとした浮遊感を得る。代わりに肩甲骨付近で風か何かの抵抗を受けるような感覚がした
首を回して背中側を見るとそこには蝙蝠の羽のようなイメージ通りと言いたくなるような吸血鬼の羽が展開されていた
「おお!これが吸血鬼のはっォゴッフッッ!」
翅に注意を反らされていたのも束の間、地面の方を見て警戒していなかった私のお腹に衝撃が来た
(羽を展開すると・・・木から腹パンを喰らうが、正解だった・・・か・・・・・)
命が助かる対価は腹パンだった。風で飛ばされた洗濯物のように無様に木にいつまでも引っかかっている訳にはいかないと身を起こす
「はぁ・・・いった・・・・・あれ?くない」
衝撃を受けたお腹を前世の癖で摩って全く痛みが無い事に気が付いた。いくら羽を展開して大幅に減速できたと言っても相当な速度でお腹を打った。前世の感覚から言えば腹パン嘔吐をしてもおかしくないと感じていたのだが
「なんで?・・・・・あ、吸血鬼だからか」
少し考えてそう言えば私は吸血鬼だったことを思い出す。まだ普通の人間の体で活動していた記憶が新しいので羽を展開した直後だと言うのに忘れていた。とある存在とやらも精神とかを弄る暇があるのならそこら辺の記憶とか感覚も一緒に弄っておいてほしかった
「まあ良いや。よいしょっこらしょぉっ・・・ぅおとと」
気分を入れ替える意味も込めてわざとらしすぎる掛け声とともに地面に飛び降りる。あの衝撃で無傷ならざっと20m程度の高さくらい楽勝だろうとやったが、思ったよりも勢いがついて前のめりに倒れるところだった
目に見えて汚れているわけではないがパッパッと適当にはたきながら服全体の様子を見る。木から腹パンを貰いこそしたが幸いにも服は何処かが破れていたりということは無さそうだった
「ん~・・・よし、折角無事だったのに転んだせいで裾が破れましたとか最悪だし。良かった良かった」
「まったく着替えとかないんだから慎重に扱わな・・・・あ!やっば!着替えとか持ってないじゃん!」
お父様にバレる前にとか色々理由を付けて適当に飛び出したのが裏目に出た。別れ際にあの猫耳メイドが凄く驚いたような声を出していたが、確かに色々とびっくりしたことだろう。それでもあの崖を登ってまた降りることを考えると、自身の短慮を恨みながらもさっさと人間の国を目指す方が良いかもしれない
「旅の準備は念入りにとか、旅行ガイドブック的なのに書いてあったな~・・・」
ある程度荒っぽい移動方法をとっても大丈夫なようにと選んだ服装であったはずなのに、替えの服が無いという理由で大切に扱わなければならないと言う当初のコンセプトと矛盾するような結果になってしまった
「さて太陽はあっちか・・・お嬢様口調って続けた方が良いのかな?」
「さて、太陽の方向はあちらですわね」
多少は楽しい旅になると良いなと思いながら出発した




