4話:【閑話休題】猫耳メイド視点
話ごとのタイトルが思いつかなかったら「〇話」だけでも投稿しても良いですよね・・・?
ガタガタと震えて今にも力が抜けてその場に崩れてしまいそうな両足に、意識を強く保って力を込めて速足で歩く
(し、しにゃ。死にゃな・・・かった・・・!死にゃずに済んだ!)
新たに生まれた吸血鬼には力加減や感情を抑制するなんてこちらにとって都合の良い知識を持ち合わせていない。故に生まれたばかりの吸血鬼に初めてつけられた世話係は死ぬのが当たり前の常識である。運が良ければ人型を保った状態で痛みを感じる前に死体になれる。ちょっとばかり運が悪いと肉体の一部が欠損したりで誰か判別がつかなくなったりするがそれでもまだ幸運だ
もっとも不幸な世話役ともなれば幼子が力加減を間違えて人形の四肢を千切り中の綿をまき散らすが如く手足を捥がれ内臓を抉られ、あたりにまき散らかされた自分自身のピンク色の内臓達がグチャグチャと潰されて遊ばれる様を意識を失う間際まで見せつけられた果てに死ぬことだって少なくない
この城に攫われた者の戦闘力によっては、全力で抵抗すれば生まれたばかりの吸血鬼の遊びから生き残れる可能性もあるが・・・そこまでの戦闘力を持っていることなど極稀であり、仮にいるとすればそれは数十はある部族の中でただ一人の英雄クラスの化け物に片足を踏み入れた常識外の存在くらいである
当然ながら自分はそんな獣人型の理不尽みたいな能力は持ち合わせていない。ちょっと狩猟が得意なくらいの一般民だ
(そんにゃ、そんにゃアタシが生き残った!生きてた!幸運!今だったら千枚のコインを投げても全部表を出せる自信があるにゃ!)
死にたくないあまり同じくこの城に攫われたエルフを1人見殺しにすることになったが、自分が生きているのなら別に
(見殺し、に・・・・・い、いや!我が身が一番!例え、例え同じ部屋で幾夜を過ごした相手であろうと!)
攫われる前に住んでいた集落の仲間、家族、友人、特別な仲の相手、好きなモノも嫌いなモノ、例え種族の違う相手であっても何度でも語って何度でも笑いあって何度でも悲しんで、何時か、もしかしたら、集落の勇者たちが助けに来てくれるなんて話し合った相手であろうと
溢れる涙も、見捨てた後悔も、潰れてしまいそうなほどの罪悪感も、全部飲み込んで、そして何時か生きてここを出て死を弔ってやることだけが唯一の償いだと信じて今は歩く
道中でこれ以上化け物どもと出会わない内にさっさと皆が居るとこまで逃げ切りたい
だがこんな地獄の中でも数少ない救いは、世話役になればそれ以外の化け物からは殺される可能性がグッと下がる事だ
生き延びることさえできるのなら世話役になるのは圧倒的すぎるデメリットの所為であまりありがたみを感じないがしっかりとメリットだってある
(やっと!やっとここまで!あと少し!)
比較的マシな安全な部屋の扉の取っ手に手をかけようとしたところで
「ん?何をそんなに急いでいる」
ドクンッ
体が固まる
寒い、息苦しい、怖い
まるで人間の少年のような形をした圧倒的な化け物の出現に心臓が五月蠅いほどに高鳴る
「っ、は、そのっ」
「・・・口を開いて良い。と許可した覚えはないが」
「っ!?」
気が抜けていたのか犯した失態に死を覚悟する
(そんにゃ・・・まだ、あのエルフの事を伝えれて・・・アタシだって、まだ・・・!)
どれほど自分が望もうと関係ない。ただ化け物が気まぐれを起こして去ってくれる事だけを望む以外にできることなんてなかった
「ふっ、まあ良い。世話役に選ばれた己の幸運に精々喜べ」
「っ・・・はぃ・・・・・・」
返事を一つした後はこれ以上失言をせぬよう、化け物が気まぐれを起こさぬよう必死に口を塞いで余計な音が漏れないよう努める。獣人であるが故に優れた聴覚を全力で使い化け物の足音が遠のくまでひたすら頭を伏して待った
部屋の中に逃げ込みたい欲望も、緊張のし過ぎで途切れそうな意識も、泣き出してしまいそうな本能さえも抑え込んで待ち続けた
やがて何も聞こえなくなった
僅かに聞こえる風の音でさえ化け物が移動するときの風切り音なのではないかと何度も何度も何度も確認してようやく口元から手を離すと急いで扉を開けて部屋の中へ入った
バタンッ
「っ、はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
足が自分のモノではないみたいにガタガタと震えて立とうとしても力全く入らないし、首元にまで迫っていた死の気配涙は溢れて止まらず、過緊張を起こして何も入っていないのに何かを吐き出そうとして辛い胃液を吐き出す。もう成人済みだと言うのに尿が漏れて止まる無い
何とか顔を上げた先には、同じ部屋で過ごす仲間の顔にとうとう限界だったようで完全にその場に座り込んでしまった
胃液と尿の混じった水たまりに座り込んでいるにも関わずそんな些細な事を気にする余裕は一切なかった
「た、たす・・・え゛う。グスっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」
慟哭と聞き間違うほどの泣き声
こんなに全力で泣いたのは小さい頃イタズラのやりすぎで母親に家から閉め出されたとき以来だった
そんなアタシをエルフのアミエルが力一杯抱きしめてくれた
「お帰り゛っ!生きてて良かったよ゛!」
犬の獣人のカシが水と着替えを用意してくれた
「幽霊・・・じゃないんだよね」
人間の女の子ルイーズが嫌な顔一つせず掃除道具を持ってきてくれた
「カリンお姉ちゃんが、生きてて良かった・・・グスッ」
昨日までだったここにあと一人居たはずなのに
その事実がどんな鋭利な刃物で刺された時よりも鋭い痛みで心を貫いた
「ごめ、ごめんなさい。モニカ・・・っ!見捨てて、ごめん!!!」
謝罪なんて何の意味も無いとここに来てから何度も理解したはずなのにそれでもこの痛みから逃れたくて謝らずにはいられなかった。死んでしまった者にはどれだけ大きな声で叫んだって聞こえるわけがない。何百回謝ったところで一音たりとも届かないと知っているのに、自己救済のための謝罪を止められなかった
誰も何も言えない
何と慰めればこの罪の痛みから救えるのかを誰も知らないのだ
どれくらいの間泣いていたのだろうか
少なくとも半刻は泣いていた気がする
新しいメイド服に着替えてある程度落ち着いてきた頃。アタシにだけ鈴の音が聞こえた
この城の呼び鈴は一種の魔道具になっており、鳴らした本人の世話役にだけ聞こえる鈴の音を遥か遠くにでも届ける
「っ・・・。ごめん、行ってくる。さようなら」
本当は行きたくない
でもそんなことをすれば殺されてしまう
ならばほんの少しでも生き残る可能性がある方に賭けるしかない
「そっか・・・さようなら」
「さようなら」
「さようなら、カリンお姉ちゃん」
誰も無事を祈ったりなんてしない
だって、無事を祈るということは生きて戻ってくることを望むということだから
そんな事をすれば祈りが届かなった時が辛い
だからもしかしたらこれが最後かもしれないから、皆さようならとお別れを口にする
(そう言えばアタシも朝、こんな風に見送ったにゃあ・・・さようならって言えて良かったにゃ)
こんな場所の扉でも、また見られたら良いな
そんなことを思いながらアタシは死にに向かった




