12話:冒険者ギルド
石畳によりしっかり整備された街中を歩いていく
他を知らないから何とも言えないが、たぶん世界観的にここまでしっかり整備されているのはかなり珍しいと思う。知らないけど
シェードの指示に従い歩いているが、万が一にも私が白髪赤目という吸血鬼らしい見た目がバレるわけにはいかないとフードを深く被り顔も下げているので周囲の環境がわからなかった
このまま真っ直ぐで良いのか大丈夫なのか、少し不安になり首を少し動かしてシェードが居るであろう場所を見る。するとシェードに伝わったらしく
「そのままよ。ぶつからないように注意しなさい」
私はそう言うならと首を戻し再び歩き出す
前を見ることができないのに酷い無茶ぶりだが、周りの生物の気配を察知しながら器用に抜けていく。ステータスとか見れないので詳細はわからないが、スキルが無かったらかなり疲れていた気がする。視界に人の足が入った瞬間反射で避けるとか疲れない訳が無い
また、少ないながらも情報を得ようと顔を下げながらでも見える範囲で通り過ぎる人達の足元を見ていると、ほとんどの人が足甲だったりブーツを履いていたりと冒険者だと思われる人ばかりだった
一般人はいないのかと周囲を見たくなるが、変な事をすると後ろで私を監視するシェードから氷柱が飛んできそうなので大人しくしている
そのまましばらく進み、道中で一度だけ右折すると後ろから止まるように言われた
「止まりなさい。ここが冒険者ギルドよ」
反射的に見上げたくなる欲求を抑え込みシェードから入っても良いと許可が出るのを待つ。早くすべて私自身で決定して行動できるようになりたい
「先に入るから、あなたもすぐに入ってその後はわたしの横を離れず歩きなさい」
この時初めてシェードが私よりも前に出る
キィと何かが軋むような音をたてながらシェードが進んでいった。上げすぎない程度に注意しながら視線を上げて音の正体を見る
(よくあるスイングドア系か)
あのまま何も考えずに進んでいたら顔を強打していたなと思いながら手を前に出してドアを開き私も中へ入った
シェードは私を待とうなんて気は一切ないらしく、床をギッギッと短く軋む音を立てながら進んでいる。少しだけ足を早めて横に並んだ
周りに冒険者であろう生物たちの気配がする。おっさんの話が本当ならシェードはA級の冒険者。厳密にどれくらいすごいかは知らないが定番の知識に当てはめるならトップ層だろう。そんな人物の横に並ぶフードを深く被った珍妙な人型が居れば誰だって見る
(なんか見られてる・・・。まあ仕方ないけど)
少し進むとシェードが止まった。私の視界には木の壁みたいなのしか見えないが、たぶん受付カウンターとかだろうと予測する。歩いた距離による大雑把な予想に過ぎないがちょっとした町役場くらいの広さはあると思う
「A級冒険者シェードよ」
「はい、ご活躍は常々お聞きしております。本日はどのようなご用件でしょうか?」
シェードが短く名乗りを上げると受付カウンターと思わしき所から女性の声が聞こえてくる
「森の中で一般人の保護をしたわ」
「畏まりました。それでは冒険者ギルドの方でお預かり致しますので今から持ってきます書類にサインをお願いいたします」
「いえ、この子はウチで扱うから登録届とパーティー加入届を持って来てちょうだい」
近くのテーブルに座って居る冒険者達が信じられないとばかりに騒めく。その話を更に少し離れたテーブルの冒険者が聞いて騒めき、更にその話を聞いた他のテーブルの冒険者がとグループごとの声量は大きくなくとも、これだけの人数が騒めきだせばそれなりの五月蠅さになった
「えっと・・・、確認ですが「大丈夫よ。身元の分からない人間には後見人がいるんでしょう?」
「それならわたしがなるからさっさと話しを進めて貰えるかしら」
「は、はい!」
シェードは無駄に騒ぐ冒険者達に苛立っているのか受付の声に被せて話を進めるよう語気を強めて要求した。それに対し受付もシェードの機嫌があまり良くないと察したのか足早に奥に消えていった
書類を取ってきている受付を待っていると、何やら足甲を履いた生物が近寄ってきた。現状だと足元以外見えないから足元だけで誰かわかるように全員特徴的な靴を履いて欲しいと内心文句を垂れた
「珍しいじゃない?シェードが他人の面倒を見ると申し出るなんて・・・明日はスタンピートでも怒るのかもねえ」
「エラ、勝手に決めたのは謝るわ。でも流石に言い過ぎではないかしら?」
(エラ?この生物がシェードのパーティーメンバーとかいうやつかな?)
少しだけ顔を上げてエラという生物の様子を見てみる
ズボンを履き、上着はあまり丈が長いモノでは無さそうだ、腰の左側にはロングソードを差しており、左手首には赤い宝石のようなものが嵌められているだけの金の腕輪を付けていた
見える部分と事前に聞いた二つ名とやらだけで判断するのなら、その時々で剣で戦ったり魔法で戦ったりと切り替える魔法剣士タイプに見えた
「そうかい?だが実際のところ珍しいのは事実だろう。今までだって保護したのは軒並み預けてたじゃないかあ」
「どうしても事情があるのよ」
「ふーん・・・まあ、良いとしてえ」
二人の会話に私は関係ないと思い周りの冒険者の話に耳を傾けながら立っていた。すると突然視界内に人間の顔が入ってきた
「ぉっ?」
(何だ急にこの人)
まさか来ると思っていなかったので驚いて数歩後ろに下がる。そうすることによってエラとやらがしゃがんで私に視線を合わせてきたのだとわかった
「あらら、ちょっと警戒されてるのかなあ?シェードなんかよりもよっぽど人付き合い良いのになあアタシ」
「ほら、お顔を見せてくれないかな?」
決して強い力という訳ではないが、私の量頬に手を添えて顔を上げようとしてくる。あまり上げすぎると横に居るシェードから氷柱を刺されるのではと不安なのだが、今のところは何も言われないし何もしてこない
「もう少しよく見せて欲しいなあ」
これは顔を上げても良い要件なのだろうかと首に力を入れて窺っていると
「上げて良いわよ」
シェードから顔を上げても良いと正式に許可を貰ったので首の力を抜いてエラが顔を上げてこようとする力に対する抵抗を止めた。すると顔は簡単に上がりエラと真正面か見つめ合うこととなった
「やっと顔を上げてくれたねえ。ああ、やっぱり可愛い顔をしているね。それに綺麗な目をしてるし、お姉さん的にはすごく親近感を覚える色で嬉しいねえ」
エラがフードの中に手を入れて頭を撫でてくる。私は特に抵抗する理由も無いので大人しくしてのだが、少しするとフードの中に隠していた吸血鬼のように白い髪が出てきてしまった
そしてその髪を見たエラの手が止まった
「シェード?これはどういうことかなあ?」
「・・・」
「場合によっては流石にアタシも穏便に済ませられる自信が無いよお?」
「・・・」
なんだか頭が熱くなってきた
この二人、私の頭を冷やしたり熱したり何がしたいのだろうか。急激な温度の変化は髪が痛みそうなのでやめて欲しい
「エラ、ここを燃やすのは良くないわよ」
「知ってるわよお。でも、場合によっては・・・ねえ」
(異種族交流って難しいな~)
現実逃避気味にどうでも良いことを考えていると受付が戻ってくる。そのおかげで一旦この場の空気がマシになった
「お待たせいたしました。こちらが登録届で、こちらが加入届になります」
この空気の間に割って入ってきた受付の勇気を心の中でひっそり称える
「そうね。西・・・って言えば納得してくれるかしら?」
「西・・・なるほどね。お嬢ちゃん、ちょっと色々とお話聞いても良いかなあ?」
西の国によほど碌でもない所があるんだなあと思った
「その前に、あなた名前は?」
シェードからの質問に困ってしまった。私は私の名前を知らない
なのでここは碌でもない国から出てきた設定を生かして即興の呼び名を決めようと思う
「4074番よ。ヨーナシって読むこともできるの、今の私にぴったりだし覚えやすいでしょう?」
「そう。それじゃあヨーナシね」
普通そこは新しい呼び名を考えて与えてあげる展開ではなどと思いながらも、どうせ私の本名ではないので何でも良いかと流す
シェードが具体的に何を書いているのか見ていないのでわからないが、書き終わった書類を受付が申請してきますので少々お待ちくださいと言って持って行ってしまった
それから私は、シェードとエラに4074番の悲しい過去を作り上げて語った
曰く、私は4074番目に作られた生物兵器
曰く、私は吸血鬼を目指して作られた実験作
曰く、多少頑丈だったり力が強かったりするだけの欠陥品
曰く、兵器の癖に命令以外ではなく自己判断で行動できてしまう失敗作
曰く、処分されそうになって自己判断で逃げてみた
曰く、思ったよりも上手く逃げれた
などなど、即興のシナリオにしてはそれなりの出来のこれまでの物語を語った
どんな実験が行われていたのか。実験場の場所はどこか。私以外に稼働している実験作は何体いるのか。など色々と面倒臭い事を聞かれもしたが全部ノリで答えた
「なるほどね。それでアタシの魔法もあるし丁度良いって訳かあ」
「そういうこと、納得してくれた?」
結局どうするかを決める最終判断の権利は向こうにある。今更放り出されるということは無いと思うので二人の話し合いが終わるまで、私はテーブルの木目を数えて遊んでいた
「良いわ。あなたを保護してあげるねえ」
「あら、ありがたいわね。それじゃあ遠慮なく保護されるとするわ」
吸血鬼の城を思いつきで飛び出して早十数日、ようやく安定して人間の街に入り浸れそうだ
投稿予定:気分次第




