設計図
俺は地上二十二階層までしか運転許可がない、タクシーの運転手。正直、娘のタバサのお
かげで生計が立っている。まあ、ズル賢いのも生き抜くには必要だろうさ。
「へい!」
「【エルサイズ】まで頼むよ。飛ばして」
だいたいタクシーの客は金持ちだ。だから従えば対価を得られる。
「飛ばしますね」
タイヤを回転させ、ウィングを出し、ロケットエンジンに切り替える。轟音と共に俺達は飛ぶ。しかし、エルサイズまではあと数分かかる。
「いやー、運転手さん、聞いた?女怪盗の噂。びっくりだね!」
「いや、知らないっす」
「じゃあ教えてあげるよ! なんでも、まだ子供みたいなんだよね! 女の子! んで、最下層に現れるボランティア団体を襲って、金目のモノを盗む極悪非道らしいよ!」
「へー」
それが、俺の娘だなんて言えない。
「そうだお客さん、【ソラリスの設計図】って聞いた事あります?」
「知らないなぁ。ハイ、五十二ドラぴったり」
ち、チップもねぇのかよ。
「まいど」
……。ソラリスの設計図。ソラリスってのは確か古代文明の名だ。それの何が設計図なのか?そこも含めて興味がある。まぁ、人生暇つぶしだからな。
「ただいま」
「パパ遅い!」ポカポカ殴るタバサ。
これで怪盗……。世も末だな。
「設計図の情報あった?」
「ないね」ジュボ! 瓶のままの酒を飲む。俺には上層のお綺麗な方達がやる水割りとか、ソーダ割りってのは邪道だと思う。酒はストレート。
「実はぁ……」ガサガサ。タバサが何やら紙を持っている。まさか?
「じゃぁーん! パパお誕生日おめでとう!」パァーンと、クラッカーを鳴らされた。俺、もうアラフォーなんだが。それより、紙は?
「へへっ! パパの似顔絵!」
そうきたか。この時代【紙】がとても貴重である。金の七千倍。タバサはわかっているのかな?
ある日。
「あ! あれ?この前のタクシーの! またお願いするね」
タクシーで同じ客を乗せる事は珍しくはない。しかし、この客はタバサに興味を持っていたはず。口封じでも……。
「そういえば……」
「へ?」
とうとうタバサが捕まったか?などと肝を冷やされたが。
「ソラリスの設計図探してるって言ってたよね?今度、大エルサイズ博物館で【ソラリス展】やるらしいよ」
え!?
「い、いつですか!!?」とうとう俺にも神が味方したか?
「ああ、息子が詳しいんだが、ちょっと電話するよ?」
「どうぞ」っていうか、こちらからお願いしたいぐらいだ。
「清太、お父さんだ。ソラリス展っていつだっけ?」
キヨタと呼ばれた子供は男の子だった。どこの出身だ?この客は。
「うん、わかった! ありがとう」
ごくり……。
「来月の一日からだってさ」
「あの、入場料とかは?」野暮ったい話だがこちとら生活は困窮している。博物館ってジャージで入れるかな?
「六ドラだと思うよ」高いなー! どうしよう?
「あ、良かったらコレあげるよ」QRコードだ。タクシーのモニターに出してくれた。読み取ると「大エルサイズ博物館珍しい文化展」と出た。なるほど、その中にソラリスの文化があるのか。む?二ドラ割引。び、微妙ーー!
どうせならタダとか期待した俺がバカだった。
当日。やって来たぜ。大エルサイズ博物館。颯爽と入ろうとしたら。
「おい、オッサン! そんな格好で博物館に入るのか?」
ジャージじゃダメか?やば。
「怪しいな。こちら警備、入場門に不審者。繰り返すー」三十六計逃げるが勝ち! 俺はいつもタバサが強盗に使っているスプラッシュガンを借りていた。パン!
「うわっ! 眩しい!」今だ! 発光弾でスキを作った。走り込む。チョロいぜ。
中は静まり返っていた。客も一人もいない。おかしい。展示物は?
「バカな!」
展示物など、なかった! あるのは牢屋。俺と同じく設計図の噂を聞いた奴等だろうか?捕まっているのはドイツも貧しい人ばかりだった。どういう事だ?
「これはこれは。ようこそ!」
そこにはよく見知った顔があった。パチパチと手を叩いているのは、例の客。名前は知らない。
「お前、何者だ!?」
「私は【マーダスコーポレーション】の支部長、【清士郎】。貴方達は選ばれたのです」
ニコッと笑いやがった。どういうコトなんだ?
「とりま、お前ムカつくから、死ね!」
ドゥーン!!
俺は銃を最大出力で撃った。だが、銃弾は空中で止まっている。
「どうなっているんだ!?」夢か。そうかあの客を乗せてから夢を見ていたのか。
「気功と波動。まぁ、知らないでしょうね。説明するのも面倒だ。大人しく捕まってもらう」
「へっ! この俺が簡単に……」なんだ?眠くなってきた。こんな時に。畜生。
捕らえられた俺達がどうなるのか、まだわからないままだ。