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例外学級  作者: ユキ雪
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第五話 例外的な打ち上げ

 公園の時計の短針が九を指したころ、俺とゆかりはその公園の二カ所の出入り口の近くでそれぞれ息をひそめていた。

 遊具は滑り台とブランコくらい、特徴といえば五メートル程度の木がある程度で線路沿いとはいえ人けはほとんどない。


 だが、今日のこの公園の静けさは普段とは違う。

 たとえ公園には入らずとも、仕事帰りなどで誰かが周りを通ることがこの公園、この時間での日常の光景だ。


 しかし、今日に限っては公園のあたり一帯が丸ごと沈黙に覆われている。


「少し、異常ですね」


 耳に付けた小型通信機から、俺同様に異変を覚えたゆかりの声が届く。


 ことが起こるとしたら、今から十五から三十分後の予定だと前もってリーダから伝えられている。

 それゆえ、今ごろから何らかの準備が始められていてもおかしくない。が、近くには俺たち以外に反応はほとんどない。 


「準備は既に整えられている可能性が高い。くれぐれも、油断はするなよ」


「了解です。ところで、あれはどうしますか?」


 ゆかりも気づいているらしいが、今は放置しておくことが最善だろう。

 その旨を伝え通話は終了した。


 そして二十一時二十分、遂に沈黙を破る存在が現れた。


 何かが地面に落ちた音がして、次いでその物体が監視カメラの方へと動き出した。


「そっちは外の方を頼む。正体は把握したことだし、俺は中を対処する」


 ゆかりが動き出したことを確認すると、俺は木から落ちてきた物体に焦点を合わせ、命令する。


「対象、約三メートル先の物体。命令、一切の活動を停止せよ」


 今どき珍しいことに、あの物体には魔法への対抗策を講じていないようだ。

 おかげで、簡単に停止してくれた。


 そうして停止した物体を持ち上げる頃には、ゆかりも荷物を引っ張り公園内に戻って来た。


「一応周りも警戒しましたけど、これしかいませんでした」


 「これ」とは、ゆかりが引っ張ってきた大きい荷物である。

 詳しく言うと、黒いパーカーの襟を引っ張られている、既に気絶している男のことだ。


「それって、ぬいぐるみですか? シマウマの」


 ゆかりが、俺の左手に乗っている物を指して聞いてきた。


「そう、これこそが急に木から落ちてきたその正体だ」


「正直、不覚でした。注意を払っていたのに、落ちてくるまで全然気付けませんでした」


 ゆかりは基本的に周囲への注意力が高く、こういう仕事では特にそれが発揮される。

 それゆえ、不意をつかれるというのはかなり珍しいことだが、その原因こそがこの片手に乗るサイズのぬいぐるみに隠されている。


「断言はできないが、おそらくこのぬいぐるみには一切の魔力が込められていない。だからこそ、反応が遅れたんだろう。まあ気にするな」


 観察しても魔力が感じられないことから、ほぼ間違いだろう。


「......それなら納得です。にしても今どき珍しいですね、魔力が一切込められていないぬいぐるみなんて」


 子どもにさらなる楽しみを与えるべく、今どきのぬいぐるみには魔力が込められている。

 そのおかげで、少しの魔力を加えるとぬいぐるみがラジコンのように操作できる。


 この仕組みはかなりの人気で、今売られているぬいぐるみのほとんどに採用されている。


 ただこのぬいぐるみにはないということは、よほど隠密行動をさせたかったということだろう。


「何はともあれ、これでこの件は解決だ。後はこういうことに詳しい、我らがリーダーに任せるとするか」


 こうして、シマウマぬいぐるみ事件に関しては終わりを迎えた。

 ちなみに大きな荷物の方は、配達業での先輩に押し付けてきた。


 ぬいぐるみを持って本部に戻ると、リーダーはどこかに出掛ける格好をしていた。


「どうしたんですか、仕事は終わりましたよ?」


「寿司を食べに行くぞ!」


 疑問に思ったゆかりに対して、胸を張り堂々と宣言した。


 どうやら、リーダーのスイッチはしっかりとオンに切り替わったようだ。


「リーダー、これ」


「大丈夫、爆発はしないし放置!」


 現場から持ち帰ったシマウマのぬいぐるみを見せても、前を向いて言ってのけた。

 こうなると、俺とゆかりにはもう逆らう術はない。急いで服を着替えると、宝石のように目を輝かせるリーダーとともに近くの回転寿司屋に向かった。



「プッハーー! それで、どうだったの高校は?」


 席に座るや否や、目にもとまらぬ速さで注文した生ビールを堪能しながら尋ねてきた。


「いいとこだったよ。設備は整っているし、綺麗だし」


「それはただの生徒が使うところでしょう。ゼロ組はどうだったのよ? 特にあの面子は」


 当然、リーダーはゼロ組の事情を深く知っている。

 そして、酒が入っているときのリーダーは妙に勘が鋭い。ゆえに包み隠すことなく、こう答えるしかないのだ。


「凄かった」


 一見ふざけた解答に思えるかもしれないが、ゼロ組の生徒についてはこれに集約されている。


「普通の生徒には、校門前で隙を一切見せない人を待機させませんもんね」


「やっぱ、それくらいはどこもするわよね」 


 相づちを打たんと放たれたゆかりの援護射撃に対して、リーダーは顔色を変えずに感想を述べた。


「そういえば最近、神楽高校に関して噂があってね。詳しいことは分からないけど、一般の生徒に」


「ちょっかい、かけようとしている奴らがいるらしいわよ」


 目の前に置かれた二杯目で喉を潤した後、厄介事となりそうなことをさらっと告げた。

 そこまで告げて満足したのか、テーブルの上のタブレットを俺とゆかりの前に置いた。


「今日は私のおごりよ!」


 気持ち良さそうに二杯目を飲み切ると、リーダーはそう宣言してみせた。


 ゆかりに先に選んでいいと言われたので、まずは俺が食べたいものを探すこととなった。

 どうにも敬うとは別の理由で先を譲られた気がするが、気のせいだろう。


 さて、まずはマグロだ。

 マグロといっても、大トロ中トロびんちょう。ねぎとろも良いし、たくあんとの組み合わせも外せない。

 さらには、サーモン、海老、光物も当然見逃せない。


 少しの間、頭の中で寿司デッキを様々な組み合わせで考えた後、一度目の注文を確定した。

 俺に反してゆかりの注文は速く、かつ美味しそうな組み合わせを作り上げた。


 二人分の注文に次いで、リーダーも注文を確定してから数分後、今日のご褒美ともいえるその第一陣が現れた。 


 既に用意をしていた醤油につけたマグロで口の中を幸せで満たしていると、ゆかりが後に頼んだ理由、その真意に気付かされてしまった。


「ゆかり、一応聞くが何故オレンジ団のリーダー、サーモンを箸にとって俺の方に向けているんだ」


「注文してないですよね、サーモン。きっと食べたいんじゃないかな、と」


「次に頼むから気にせず食べていいんだぞ」


 俺の言葉は右から入って左から流れているのか、どんどんと脂身を持ったオレンジ色が近づいてくる。


「あーー!」


 これ以上は抗い切れない、そう思って口を開けようとした瞬間、目の前の箸はただ空気だけを掴んでいた。

 ゆかりの視線を追うと、その先にはビール片手に口を動かしている幸せそうなリーダーがいた。


「すしってのはせんどなんだから、すばやくたべなさい」


 恨めしそうに視線を送っているゆかりと、至福の一時を過ごしているリーダー。

 そんな二人を見ながら食べる寿司は脂がのっていて、口の中全体が旨味に占有された。



「さてと、腹ごなしに少し体を動かすか」


 三人全員、十皿では到底満足できない食欲を持っていたが、リーダーは宣言通りに全額支払った。

 店を出た俺達は、軽く伸びをして辺りを軽く見回していた。


「どうしますか?」


「俺は右に行って、そのまま帰るとするかな。さっき、先輩たちには謝りながら回転寿司屋の近くにいることを伝えといたし大丈夫だろう」


「気を付けて帰るのよ~。それと明日の朝、学校に行く前に寄ってくれない? それまでに調べ物を済ませておくから」


「了解。じゃ、リーダーもゆかりもまた明日」



「ここらへんでいいか」


 二人と別れて数分後。人けのない場所まで来たところで、後ろに振り向く。


「そろそろ出てきてくれると嬉しいんだが」


 周りに誰もいないことを確認したのか、暗闇から一人の男が出てきた。


「抵抗しなければ危害は加えない。大人しく従ってもらおう」


 フードを深くかぶっていて顔は見えない。ポケットに膨らみがあることから、何らかの武器を所持している可能性もあり、か。

 わざわざ寿司屋にいる時から監視していたところ悪いが、明日は少し早めに起きないといけないからな。


「すまん、魔力をいただくぞ」


「な」


 どんな生物も魔力を有していて、それが大幅に低下すると場合によっては失神する。

 今やパーカーを着た男は、ピクリとも動かずに横たわっている。


 先輩にメッセージを送ると、五分と経たずに到着し回収まで行ってくれた。

 発進する直前まで文句を言い続けた先輩に敬礼すると、帰路に就いた。


 まったく、まさかシマウマのぬいぐるみが始まりだったとはな。


 勘弁してほしいものだ。


 秋が一時休業という噂をいつになったら本当のことにしてくれるのやら。





 

 

 





 

三連休、気合入れていくのでよろしくお願いします。

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