第一話 例外的な幕開け
この世界には様々な種族が存在している。例えば、悪魔や天使、人といったような。種族ごとに見た目が違えば、食生活や身体能力にも大きな差がある。
だが、一つだけあらゆる種族に共通する要素が存在している。
それは、どの種族もみな魔法を使うことができるということだ。
魔法、そして様々な種族の持つ知識が集まることで、今の世の中は実に暮らしやすくなっている。
しかし、何事にも例外は存在する。例外のない規則はない、というように魔法に関しても数々の例外が存在する。
その中でとりわけ注目されることこそが、魔法を上手く使えない存在についてである。魔法を上手く使えない、その原因は様々で保有する魔力が少ない、反対に保有する魔力量が膨大であるがゆえに使いこなせないなどなど、これ以外にも多くの要因が存在する。
この例外に対し社会は多くの対策を取っている。特に学生に対しての対応は手厚く、魔法を使いこなすことを目標とするレッスンが無料で開かれていたり、特別に講師が付くこともあるそうだ。
ただ、魔法を使いこなせない要因についてあまりに不明瞭かつ極端に珍しい能力が開花している存在、いわゆる例外中の例外に関して取られる対応は一つだ。
そのあたり一帯で特に名門とされる学校、その中に存在する特別な学級に編入させられる。
その学級の名前は様々だが、基本的にはその学校の一般的な学級に合わせられているらしい。
例えば、数字であればゼロ、英語であればZのように。
という風に、頑張っている姿は評価できるが細かく評価していくとな~、なんていうことを考えても何も変わりはしないのだ。
たとえ、高校の入学式に遅刻しそうで焦っているというのに全く変わろうとしてくれない信号を睨みながらそんなつまらないことを考えても、俺が遅刻をする可能性が刻一刻と高くなっている現状は何ら変わってくれないのだ。
そもそも、俺が遅刻しそうになっている現状に対して俺の責任はないのだ。
神楽高校。
俺が今日から通う、優秀な生徒も多く通っているという神楽高校。この高校に通うために、徒歩二十分程度で通える範囲内のアパートに引っ越して、なおかつ始業のチャイムが鳴る十五分前までには到着できるような時間に出発したのだ。
だというのに、さっきから一切変わろうとしない赤信号。
最初に待っていた時には日陰にいたはずなのに、今は心なしか日向の領域が増えている気がする。
さらに、信号を待っている間にもう一つ変わったことがある。
「いや~、全然変わらないね。私、さっきまで日陰にいたはずなのに今はもう日向ぼっこに向かっている気がするよ」
「ここで信号を粘り強く待っている最後の二人が同じことを思っている。ということは、どうやらそれは現実のようだな」
話し相手ができた。
しかも、小柄な彼女を目立たせる綺麗な水色を乗せた髪、ぱっちりとした目、そして高校の制服はきているがあどけなさが残っている顔立ち。
状況次第ではラブコメ(一方的)が突然始まってもおかしくない、それくらいの顔立ちだ。
あいにく、今の俺は精神的に疲れていて始める気力すら持ち合わせていないが。
「困ったね~、これから入学式なのに初日から遅刻なんてことになったら」
「学校に着いて何か言われたらこの信号に全責任を負わせるしかないな。そもそも俺は十分な余裕を持って学校に到着できる時間に出発したわけだし」
「それ分かる! 私も今日ばかりは遅刻できないと思って、早寝早起き、そして余裕を持った行動を心掛けてきたんだよ」
「だというのに、信号は一切変わらない。加えて、横断してくる車はほとんどいない。これは本当に」
「「許されないことだな(ね)」」
「どうする? 空でも飛んでみる? 私は飛べないけど」
「それは困ったな。偶然とは怖いもので、あいにく俺も空を飛べないんだな」
「あ! 見て!」
話し相手さんが突然、信号の方を指さしたので俺も信号を見るとこれは驚いた。赤信号が点滅し始めたではないか。
「確か信号って内蔵されている魔動機を、電気魔法をエネルギーとして利用しているんだよね。それに時々点検されて、異常のないように保たれているはず。そんな信号がこんな挙動をするなんて」
「もしかしたら次に信号が変わるときには、黄色に変わるんじゃないか」
「そうなったら絶対に写真に撮らないと! 歩行者用信号機が黄色を示すなんて激レアだよ!」
「それに俺たちの遅刻の理由にもきちんとした根拠を示せる。まさに一石二鳥だな」
「......最初から信号の動画、撮っておけばよかったね」
「言わないでくれ。俺もついさっき気付いたばかりで、まだメンタルの回復ができていない」
「あ、見て」
再び話し相手さんが突然、信号の方を指さしたので俺も信号を見るとこれは驚いた。
「青、なったな」
「わ、わーい! 嬉しいな、これでようやく学校に近づける」
二人して初日から重苦しい顔をしながら歩き、あの信号機から五分とかからず学校の正門前まで到達。
こんなにも精神的につらい登校があってよいのだろうか。いや、俺は認めない。
「「はぁ......」」
「私達、よくやったよね。あんなに信号は変わらず車もほとんど通らずの状態だったけど、私達は結局最後まで赤信号を守り続けたんだよ。それはとっても誇らしいことじゃないかな」
「言わなくていいんだ。それに、自らにとっての誇りを言うときには涙を流すもんじゃない。だからもう、いいんだ......」
「じゃあせめて、今日あったことを忘れないために握手、いいかな?」
「ああ、もちろんだ」
ガシッ。
一度校舎に入ってしまえば、教師に雷を落とされ挙句の果てには反省文を書かされるかもしれない。けれど、今はそんな悲しい未来はいいんだ。
その代わりに、このかけがえのない同盟のことを胸に刻もうじゃないか。
「私、神楽高校一年一組、空野ユカは今日のことを忘れない。最後に君の名前を教えてくれないかな」
「俺も忘れはしない。俺の名前は苗代涼。神楽高校一年ゼロ組だ」
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