俄かに、その料理番組は炎上しました
俄かに、その料理番組は炎上しました。
……ただし切っ掛けは分かっています。それはとある女性アイドルがプロデュースし、実際にお店で販売するという創作料理を、プロの料理人が試食しコメントするというコーナーでした。
少々厳つい風貌のその料理人は、素人のアイドルが料理を販売する事が許せないというプライドが邪魔したのか、或いは単に虫の居所が悪かっただけなのかは分かりませんが、散々にその料理を酷評したのです。
曰く、見た目だけで中身がない料理。
曰く、どんな味を客に伝えたいと思っているのかコンセプトが不明。
曰く、アイドルというネームバリューだけで売ろうとしていて、客を馬鹿にしている。
そのアイドルはその叱責を受けて、涙目になっていました。司会者が、「最近はインスタ映えを考慮して、見た目を重視した料理も多い」などとフォローをしましたが、番組の空気は最悪。はっきり言って、放映後、直ぐに炎上してもおかしくはないほどでした。
ただ、それから数時間は無反応で、何故か番組が終わってしばらくが経ってからその件は炎上し始めたのです。だから、“俄かに”なのですが。
アイドルのファンが「あの料理人は許せない」とその料理人を攻撃してしまったり、「あれじゃ、炎上して当然、どうしてあんな内容をテレビ局は流したんだ?」と番組制作者の姿勢そのものを批判したり。
それと共にアイドルを擁護する声が飛び交いもしました。
「素人の女の子が、“懸命に考えて作りました”ってのが良いんだから、プロの料理じゃなくて良いんだよ」
「プロの料理はいくらでも食べられる。素人の料理こそが貴重なんだ」
「飲食店の売上げに貢献してるのに、あそこまで言われる筋合いはない」
また、実際に料理の販売が始まると、「ちゃんと美味しかった」だとか、「実物の方が可愛かった」だとか、料理に対する肯定的な意見も出始めました。
「そもそも、プロの舌と素人の舌は違うよ。あの料理人はそれを分かっていなかったんだ」
そして、再び、そんな料理人を叩く流れが。
ところが、そのタイミングで料理人を擁護する人が現れたのでした。いえ、辛口のコメントを認めた訳ではありません。その人は「そもそも、あのコメントは料理人が自分で考えたものなのか?」と訴えたのです。
「あんな事を言えば、叩かれるのは誰でも普通に分かる。インターネットが発達した今は、そのダメージが大きいのだって。なら、あれは番組スタッフに言わされていたのじゃないか? つまり、番組上の演出だったんだよ」
その人物は、番組の内容を直ぐに信じる視聴者を馬鹿にしました。
「――テレビ番組なんてほとんどのフィクションなんだから、本気にして炎上させるなんて馬鹿だよ。もっと、おおらかな目で楽しまなくちゃ。いい加減、見ている側も学習しようぜ」
その主張を番組スタッフの一人が見ていました。
彼はそっとこう独り言を言います。
「いやー…… 視聴者もそれなりに知恵をつけていると思うけどなぁ。簡単には騙されてくれない。お陰で、こっちから書き込まないといけなかった」
そう。
そもそもこの炎上騒ぎは、実は番組側で仕組んだものだったのでした。炎上商法という手法があります。悪い噂の宣伝効果は実は高いのです。だから敢えてそれを狙って、炎上するように仕向けるのですね。
番組は、料理人にお金を渡して辛口のコメントを求めたのです。
ところがどっこい、視聴者の多くはほとんど反応しませんでした。これでは炎上による宣伝効果は得られません。そこで番組スタッフは仕方なく自ら炎上させる為の書き込みをし始めたのでした。
つまり、自作自演。
それが炎上のタイミングが少し遅れた理由でもありました。
炎上のお陰で、アイドルがプロデュースした料理はとてもよく売れました。企画に参加した大手飲食店は番組に感謝をし、テレビ局と新たなスポンサー契約もしてくれそうです。
きっと、この件では、誰も損をしていないのでしょう。ちょっと料理人の悪評が、貰った額の割に合わない程に酷かったのではないか?という懸念はありますが。
まぁ、嘘だからって全てが駄目とは言いませんが、嘘で作られた効果で物事が上手く回るなんてなんだか変な世の中だな、とは思ってしまいますね。
実際のところ、どーなのでしょうね? あの事件