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第七話 宇宙旅行


 午後21:00。


 軌道エレベーターの最終便に俺達3人は乗ることが出来た。俺にとっては専門学校を卒業して以来の宇宙行である。特別チャーターする用事が無ければナイトロード便は1日3回、俺たちは22時発の夜便に搭乗し、8000万kmの距離をバザード・ラムジェット推進の星間バスで10日かけて移動する。


「どこかの検査で引っかからないでしょうね……」


「全員が、星系外の惑星の貴族の架空の子供という形になっている。そうは見つからないさ」


検査室。消毒を兼ねたスキャンレーザーが俺達をくまなく走査する。……しばらくして、エアロックが開くとその先に客席が見えた。


 この星間バスの乗客は俺達3人だけのようだ。……眼下に広がる惑星ハッカネンは農業惑星の美しい緑色の地表をさらけ出している。俺達が座席についたことを運行システムが確認すると、シートベルトが自動的に装着され、発進用の化学ロケット……宇宙の航行手段としてもっとも原始的なそれも、いまだ補助動力としては使われているのだ……が点火して星間バスは宇宙港を離れると、前方に星間物質を集めるための巨大な重力漏斗を展開し、メインエンジンであるバザード・ラムジェットエンジンの内部で核融合反応が始まった。強烈な振動が俺達の座席まで伝わる。


「なんだか、空気抵抗の大きそうな形ね」


 重力漏斗を指してカサンドラはそう言った。貴族なのに、宇宙に出たことが無いのだろうか?


「嬢ちゃん、宇宙には空気抵抗はないよ。空気そのものがないから」


 俺が言うより早く、ジャッキーが答える。


「……ふぅん……」


 宇宙空間を『吸い込み』ながら、バザード・ラムジェットは核融合反応を利用して星間バスの船体を推進させていく。見る見るうちに遠くなっていくハッカネン。スイング・バイに成功し、星間バスはハッカネンの重力圏を一気に抜けていった。


「……しばらく、さようならだね」


 カサンドラが寂しそうにつぶやいた。


 やがて安定航行モードに入ると、シートベルトが外される。


 ここから目的到着まで、冷凍睡眠コールドスリープモードに入るもよし、機内映画を見るもよしの自由時間だ。


 ジャッキーは携帯コンソール……本来資格を持たない庶民が所持すれば罰せられるタイプのものだ……をいじりながら、


「僕はこいつでまだやることがあるから、二人はゆっくり機内映画でも楽しみなよ」


 と、俺達を厄介払いした。


 

 俺は座席の肘もたれにあるコンソールを操作し、座席前面にスクリーンを投影させて機内映画の上映を始める。


「これは……」


 俺が好きだった、宇宙の騎士道物語。叔父の形見である恒星間宇宙船を相続した主人公は、馬上槍試合トーナメントで打ち勝っていき、最後には憧れの御姫様と結ばれるのだ。


「……子供みたいな趣味をしているのね、ケイジ」


 その単純な筋書を、カサンドラは余り好んでいなかったようだ。彼女の立場からしたらそうだろう。そもそも、恒星間宇宙船を維持していくには領土としての惑星が必要だが、この映画にはそれは一切描写されていなかった。


「まあね。だけど、俺はこの映画のおかげで宇宙に上がる事を夢見るようになって、ついには専門学校で宇宙船の操縦を習う事になったのさ」


「へぇ……ねえケイジ、私はあなたのお姫様になれる?」


「……なれるさ、ザンナーシュバリエをどうにかできればな」


 俺たちは、到着までの長い時間を語り合った……


 

 10日という時間があっという間に過ぎ、星間バスはナイトロードの宇宙港……この寂れた、生命が本来存在できないハビタブルゾーン外の惑星には宇宙港が一つしかない……その宇宙港へのドッキング軌道へ入った。


 そして、宇宙港には係留されたザンナーシュバリエの姿も見える。


「……父さん」


 カサンドラが呟いた。


「フェルディナント伯は、君には優しかったのか?」


「うん。父さんは、私を娘として扱ってくれた。兄さま達とは違う……」


 『父さん』と『兄さま』。呼び方の違いに、彼女と両者の距離感が現れていた。箱入り娘は父の死によって、突如として暖かな家庭を追い出されたのである。それは、その落差は彼女に自殺を決意させるのに十分なものだっただろう……俺は、俺にとって、


「俺は、君を幸せにしたい」


 彼女との出会いは、俺に新たな生きる目的を与えた。彼女の騎士になる事、それが今の俺の存在意義となっていたのだ。

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