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勇者召喚は気軽にできない  作者: チョコゴーレム
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はじめての召喚

「お父様、それだけはいけません!」


「では何か、他に方法があるとでも言うのか! あるなら言ってみるがいい! それと、公の場では父と呼ぶなと、何度も言っているであろう!」


「それに関しては、申し訳ございません。感情が昂ると、つい口に出てしまうのです。ですが、それだけはいけません。余りにも非人道的です……」


 父様は私に甘いですから、ここでしおらしくすれば、きっと考え直して下さるはず。


「……うむ。だがな、他に方法がないのだよ、セレスティナ」


「それは……」


 本当は私もわかってはいるのです。他に方法がないことも、それを考える時間すらないことも。


「では! この件は第2王女、セレスティナ・フレイ・フローヴァ及び、宮廷魔術師団に一任する!」


「お父様!?」


 何を言っているのですか、この人は! 確かに、私以外に相応しいものはいませんが!


「他の者も協力を惜しまぬように!」

 

無視ですか?無視をするのですか!?


「「「「「はっ!!!」」」」」


 "はっ!!!" では無い。"はっ!!!" では。先程まで一言も発さなかったくせに、ここぞとばかりに!


「異論がなければ、これにて魔王軍対策会議を終了する!」


 ここにいるでしょうが! ずっと主張しているでしょう!? あなたは、急に目も耳も使えなくなったのですか!?


「勇者召喚の儀は、明日の午後1番に執り行う! 解散!!」


「「「「「はっ!!!!!」」」」」


 勢いだけで乗り切りやがった、こいつら!!


「お父様の、バーーーーカ!!!」


 お父様の最後の顔が号泣寸前だったので、若干スッキリしました。許しませんが。





 というか、明日は流石に早すぎるでしょう。言いたいことは山ほどありますが、決まってしまったものは仕方がありません。いつか絶対にぶっk…けふんけふん。

 何はともあれ、宮廷魔術師団長と、勇者召喚陣を発見した魔術研究所の所長と話をしなければなりません。

 私直属のメイドに伝言をたのみましょう。


「マリー、魔術師団長と魔術研究所所長に昼食を済ませたら、ここに来るようにお伝えして」


「はい。姫様」


 さて、私も今の内に昼食を摂ることに致しましょう。いつもなら家族揃って頂くのですが、今はお父様とは顔を合わせたくないので、自室で済ますことにします。





「ふう」


 今日の食事もとても美味でした。流石は料理長ですね。2人はまだいらっしゃらないので、お茶でも飲んで待つとしましょう。

と、しばしゆっくりしていると、気楽なノック音が3回聞こえてきました。恐らく魔術師団長でしょう。


「姫様、ワシじゃ」

 ほら、やっぱり。


「マリー」


「はい、姫様」


 マリーが扉を開き、軽くお辞儀をしてから脇に退く。


「いやー、遅くなってスマンの」


 宮廷魔術師団長、私の魔術の師匠です。今年で齢40になられるお方ですが、少し日に焼けた肌には艶があり、背筋が伸び、均整のとれたその長身は一切弛んだ所も無く、縦に入った傷跡が残る目には一点の曇りもありません。私も、この方のように歳を重ねても美しくありたいと思っています。


「いえ、急に呼び出したのはこちらですから」


 そのまま歓談していると、幾許もしないうちに、疎らな音が3回扉から発せられました。きっと、魔術研究所の所長でしょう。一度お会いしたことがありますが、神経質そうな方でしたから緊張しておられるのでしょう。


「ひ、姫様っ。まじゅちゅ……、魔術研究所所長のナービウス・ゲ、ゲッテンバウアーで御座います」


 いつものように、マリーが扉を開けに行く。

 彼は50代の男性で、少し膨よかな体型をされています。頭髪は少なく、彼の顔は気難しい表情で固められています。が、しかし、彼の魔術に向ける熱情は本物で、彼の論文や研究結果には、それが滲み出ていると感じる程に素晴らしいものばかりです。


「ご機嫌よう、ゲッテンバウアー様。それでは参りましょう。大宝庫へ」





 大宝庫は王宮の地下にある20m四方の大部屋で、高さも同じく20mあるところを、足場を設けて4つの階に分割したもので、中には力ある武具や、希少価値の高い魔術書や歴史書などの書籍、世に出回ることがない珍しい代物などが保管されています。

 しかし、何故、そのように大きな部屋が存在しているのかは、今の今まで解明されていなかったのです。


 それなりの距離を経て辿り着いた大宝庫は、いつもの清閑で荘厳な様子とは打って変わり、慌ただしい文官や兵士で溢れ、そこかしこから怒号や木材の破砕音が響き渡っておりました。

 とは言うものの、中にあった財は一通り別室に運び込まれており、崩す足場もあと少し、というところまで来ていました。

 そうして、皆の働きぶりを観察しながら3mもある厳かな扉の前に到着すると、ゲッテンバウアー様が先導されました。


「ひ、姫様。こ、こここ、こちらです」


 彼に付いて行くと、半径6m程の床石が取り除かれた中央部分にたどり着きました。そこには、赤い魔術円陣が刻まれており、その大きさは想定していたものよりもずっと小さく、半径3m程しかありません。


「え、ちっさ」


 驚きのあまり、つい声が。


「ひ、姫様?」


「いえ、なんでも」


 この小ささには、何か理由があるはずです。例えば、現在では失われてしまった術式や画期的な魔力の循環効率を良くした術式などが組み込まれていたりするのでしょう。じっくりと見てみましょう。


「……あの、これは」


「姫様、皆まで言わんでも分かっとる。のう、ゲッテンバウアー殿。誠にこの陣で合っとるのか?」


「え、ええ。文献にあったものと合致しております」


俄には信じられませんが、初代聖女様はこれで成功されたご様子。まだじっくりと調べた訳でもありませんし、何か私達でも見抜けない秘術が隠れているのかも知れません。一通り見た感じ、違和感はないのですが……


「姫様、調べるにしても時間はあらんし、改良するとなるともっと時間がかかるじゃろう。今日はもう」


「そうですね。でも、明日はきっと成功します。初代様にできて、私に出来ない道理はないでしょうから」


「言うようになったじゃないか、姫様」


そうです。初代様にできて、私にできない理由などありません。人類の中で一番魔術に長けた者が私です。それは魔王が侵略を始める前から変わりません。

それに、そうでも思わないと、成功する気が……





明くる日、つつがなく儀式は行われた。その結果、城中に第2王女の怒声が響き渡った。


「やっぱり、欠陥品じゃないですかーーーー!!!」

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