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迷宮日誌③ 〜死地に揺らめく子守唄〜  作者: ケット・C・ニャンガード
2/6

不滅の巨人

体格差の不利は明らかだ。


その巨人が6人もいる。


力比べだけなら勝算など1ミリもなかっただろう。


だがこの体格の不利や、数の不利を覆すために"パーティー"があり、"魔術"があり、"奇跡"がある。


巨人達にも知恵があるようだった。


彼等は"魔術"や"奇跡"の存在を知ってのことか、えんじ色のローブを纏ったパストアの息の根を真っ先に止めようと狙っているようだった。


もちろん癒やし手であるパストアにそうやすやすと近づかせるわけにはいかない。


スゥが華麗な槍さばきで幾つかの切り傷を与えながら牽制し、シルバも俊敏な動きで翻弄しながら巨人の足元に攻撃を浴びせては離脱しを繰り返して注意を惹きつけた。


6対6ともなると激しい攻防戦となった。


スゥやシルバの隙をついては、別の巨人が凶悪な得物をパストアへと振りかざす。


そこへチャンスがドワーフ製の小型の弩から矢を放ち、巨人の真っ赤な太い腕に小さな鉄の棒を突き立てて妨害をする。


俺は俺で、複数の巨人との接近戦など大砲の飛び交う戦場にこの身ひとつで突っ込んでいくようなものだ。対等なサイズの相手とならば少しは小盾も役に立つだろうが、スゥやシルバのようにスイスイと完全な回避などできる気もせず、転がっている適当な煉瓦や石を見つけては執拗に巨人の顔をめがけて投げつけるので精一杯だった。


注意を惹き付けることさえできれば、威力などはどうでもよく、石だろうと砂だろうと構わなかったのだ。


巨人達は俺達の抵抗に焦燥し、憤慨し、攻撃の勢いを強めていった。冷静さが失われていき、視野が狭くなり、動きが乱雑になっていく。















































そして、我らがバケツ兜の魔術師アレクシアの魔術詠唱は終わりを迎えようとしていた。


パストアと巨人との距離を作り、シルバとスゥは示し合わせたように彼等からさがった。


巨人達のその視線と意識の外から、突如として白銀の風がびゅうびゅうと猛烈に吹きつけ、巨木のような四肢は凍り、氷と氷が結びついていくパキパキとかピシピシとかいうような音を盛大に奏でながら、その全身に氷柱をたてていった。


一網打尽とはまさにこの事だ。


幸いにもファイアージャイアント達は冷気に対する耐性があまりなかったようで、"吹雪"の魔術は戦況を覆すには充分な威力のようだった。


人の姿をした相手ほど、この十字軍の騎士人形のような出で立ちをしたアレクシアを魔術師だろうと警戒しないのだ。


俺達の中には術使いはパストアしかいないだろうという発想になり、パストアが集中的に狙われる。その間、アレクシアは最も魔術が効果を発揮する局面を見出して、あとは御見舞すればいい。


バケツのようなグレートヘルムに、隙間のないプレートアーマー。両手剣のような鉄の杖。杖に関してはよくよく考えれば違和感があるかもしれないが、集団戦の中で命を落とす前にその違和感に気づくというのは至難と言えるだろう。



あとはもう一度アレクシアの"吹雪"を使えば、完全な巨人達の氷の像ができあがるだろうし、身動きの取れなくなった彼等に武器によって止めを刺していっても良い。


勝敗は決まり、彼等の命はいまや小さな俺達の手の上にある。


「ふぅ。」


アレクシアが氷漬けの巨人達の間を、奥にいる一人の巨人へと歩み寄っていく。


その巨人は、怨みの言葉なのか、呪いの言葉なのか、なんとかぎこちなく動かすことのできる唇を震わせ、ぶつぶつと独り言を呟いていた。


「なんだってこんな階層にファイアージャイアントが。…けど、まぁ。良い経験になったわね。」


珍しいものを見るようにアレクシアが氷漬けの巨人を見上げながらしばしの感傷に浸っていた。
























































突如としてアレクシアの見上げていた巨人から凄まじい蒸気が湧き上がった。


次の瞬間、水しぶきをあげながら巨木のような一撃がぶんと横になぎ払われ、アレクシアが大きく吹き飛ばされた。数メートル飛んだところでガチャンと音をたてて地に叩きつけられ、ガラゴロと転がって静止した。


「…魔術師が鎧を着ているとはなかなか面白かったな。これでお互いに手札を見せ合ったというわけだ。」


太く、低く、心臓を揺さぶられるような巨人の声が響く。


その巨人がさらに再びぶつぶつと呪詛のような言葉を短く述べると、次々に氷漬けの巨人達から蒸気が湧き上がり、やがて大きな水溜りの上で巨人達が身体を伸ばしはじめた。


「この迷宮での数百年、進歩しているのが貴様らだけだと思うなよ。人間チビども。」


薄れゆく湯気の中、巨人の邪悪な笑みが吊り上がった。





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