ファイアージャイアント
「凍てつく大気
白銀の風
悉く熱を奪い
その生命の灯火を消せ。」
炎のように真っ赤な巨人達の顔が驚きの表情で凍りつき、そしてその身体も吹雪によって瞬く間も許さずに凍りついていく。いまここに、6人の巨人の氷の彫像が出来上がろうとしている。
煉瓦のような材質で囲まれた地下五層の大きな一室は一瞬のうちに冷気で満たされた。もくもくとした白い靄が床を這うようにたちこめている。
アレクシアの鉄杖の先端から雪の結晶を模したような大きな魔紋が出現し、そこから"吹雪"の魔術が繰り出され、巨人達を襲った。第四位階の攻撃魔術だ。炎のような猛々しさはないが、強烈な冷気が血を凍らせ、体温と生命を奪い、死へと着実に誘っていく。
相対していた6人の身の丈3メートルほどの巨人達はわずか数秒の間に吹き荒んだ理不尽な吹雪によって爪先…いや、この五層を形成する足元の煉瓦から、真っ赤な頭の毛の先まで凍りつこうとしていた。
沸き立つマグマのような血色の肌に、燃え盛る炎のような赤髪が特徴的なその巨人達は、"ファイアージャイアント"と呼ばれている種族と思われた。
幾度かの探索を経て、俺達には実績と、自信がついてきていた。
第四層はあまり回るところがなくーーー正確には昇降機の利用許可証がないと通行できない場所などがあるためにーーー第五層まで足を伸ばし、下見のつもりで素材収拾や戦利品収拾などを目的に降りてきたのだ。
第一層や第二層が、粘土や赤土などを主体とした炭鉱のような造りであったのを思うと、第三層の青白い石材や、ここ第五層の煉瓦のような造りから、深くなればなるほどこの迷宮が人の手によって生み出されたものであることを意識させられる。創り手の魔術師の美意識のようなものが現れているというか、第十層なんかまでいったら、まるで豪華な宮殿のような造りなのではないかとすら連想させる。
五層には魔術や奇跡が無効となる魔封じの部屋があるらしく、アレクシアやパストアが無力化してしまうその部屋の通過は避け、慎重かつ適当に探索を進めていく予定だった。
迷宮…しかも浅くはない層へと潜る以上、魔物との遭遇はもちろん想定内…のはずだったのだが、自分達よりも二倍以上体格差のある巨人達と遭遇するというのは想像力不足、覚悟不足だった。
魔封じの大広間の周辺に位置する大きな部屋に踏み入った時、もしかしたら彼らも俺達の気配を感じとっていたのだろう。
とりあえずは、お互いに奇襲のような形とはならなかった。
静まりかえっていたはずの大部屋へと突入すると巨人達が息を潜めて身構えていた。
距離があった為、逃げるという選択肢がないわけでもなかったが、侵入した扉は大きく、引き返せば巨人達が追ってきそうであったこと、彼らがこのフロアを熟知していた場合にはどこかに先回りされてしまう危険性なども考えられた。
ひとつ、今まで大きく誤解していたことにも気がつくことができた。
巨人は自分達より大きい分、歩幅も段違いに広そうで、決して逃げやすい相手などではなさそうだということだった。
狼亜人のシルバや、軽装のチャンスならまだ逃げきれる可能性はあるにしても、甲冑で身を固めた俺やアレクシアが巨人達の追走から逃げきれる絵はとても想像できなかった。
そしてなにより相手の方は殺気満々であった。
友好的である可能性に一欠片の期待をして唾を飲み込んだが、喉を通った瞬間に身の震え上がるような巨人達の咆哮が轟いた。
次にはドシンドシンと地面を揺らしながら一斉に詰め寄ってきたのだ。
この迷宮内では彼らが扱えるような刀剣の類はなかなか手に入ることもなく、作り出すことも叶わないのだろう。
その手には巨大な岩石をそれっぽく削ったようなものや、壊れた石柱のようなものなど、思い思いの無骨な得物が握られ、防具に関しては何かの毛皮や布きれなどを適当に繋ぎ合わせたような、とても文明的とはいえない身なりをしていた。
しかし、熱が冷めきっていない溶岩のようなゴツゴツとした巨体は、文明の力の差でなんとかできるような存在とはとても思えず、小柄な少年がプロの力士にぶつかっていくかのような、圧倒的な体格差と力の差、無力感を覚えずにはいられなかった。
壁面に整然と燭台が並ぶ煉瓦づくしの一室の中、小さな6つの影と、大きな6つの影が跳ねるようにして交錯していった。