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ハイティバイン~The Blave to exceed~  作者: 天とう
第1章
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6 シスターの講義・後編

 300年前からいる者に100年前に会話をした者と少し前に話をしていた。

 3桁単位で年月の話が出てくるのである。

 これは強烈な違和感となっていた。

 それを問うた風翔に対する答えを麻子も期待する。

 彼女も気になっている点だったのだ。


「ええ」


 首を縦に振るシスターを見て、聞き間違いでないことを改めて理解し、どう考えてもおかしいと思えることに言及した。


「あの、ニャクってどう見ても子供だったんです。そもそも300年前とか100年前とか、そんな長く生きてられるもんなんですか?」


 人間は100年生きたら長寿といえるだろう。

 しかし300年生きているとか、100年以上生きていて見た目子供とか、普通なら考えられない。


「ああ、そういえばそちらの概念ではあまり聞きなれない内容かもしれませんね」


 問われたシスターは納得の表情を浮かべた。


「琥珀の魔女は300年生きていますよ。ニャクも、既に200年は生きているでしょう」


 平然と言い放たれるが、答えになっていない。


「だから、そんなに生きるなんて」


 急かすように前のめりになるも、シスターはそれを衝撃的な言葉で制止させた。


「生きているんですよ。ニャクは人間ではありませんし、琥珀の魔女は普通の人間じゃない」


 一方でこの言葉を、風翔はなんとなく予想出来ていた。

 でなければ説明がつかない。

 人間がそんなに生きられるはずがない。

 ならば、人間ではないのではないか?

 そう考えてはいたのだ。

 ところが実際聞いてみるとやはり信じ難いことである。


「そう、なりますよね」


 この発言から麻子も理解はしている様子。


「けど、ニャクは人間の子供でしたよ?」


 見た目は間違いなく人間だった。

 それほど人間と同じ見た目で長寿の人外などいるのだろうか?

 フィクションの中の話が現実に起きると面倒くさいと理解し、ならば何故そんなに人間に近いのか。

 シスターの回答はこうだ。


「人間の形をとっていますが、彼は人間ではないんですよ」


 人間の形をとっている。

 他の形状もあるということなのか?

 判断材料が少ないため今は説明を聞くことにする。


「じゃあ、何なんですか?ロボット、とか?」


 麻子より発言が挟まれ、近未来のような話にスケールが変わる。

 だが、確かにそういった考えに至るかも知れない。

 何百年生きる人の形を取る生物など、想像しづらいものがあるのだが、機械ならばメンテナンス等をしっかり行っていれば機能していそうなものだ。

 ただ、機械にニャクのような仕草や表現が可能なのかという問題がある。


 風翔たちのいた次元ではアンドロイドのようなものすら存在しない。

 せいぜいある程度のプログラム内で動くAIが最先端といえる。

 そのバースと現段階で同等程度の技術力で、更に技術が劣るはずの300年以上前から豊かな表現を持つ機械など作れるとは思えない。


「いいえ」


 返しは、やはり否定。


「あ、え、エクゼッターですか?」


 そこに記憶が合致した麻子が何か納得したようにある単語を口にした。


「その通りです。良くわかりましたね」


 正解を当てたためか、シスターは少し笑みを見せる。


「ニャクさん、自分でそう言ってましたから」


 いわれてみたら確かにそうだ。


「そういえば…」


 風翔もそれを思い出す。


「エクゼッターって何ですか?」


 わかればそれが何なのか考えるまでもなく問う。

 全く知らないことは考えても仕方がないのだ。


「あなた方の住むバースには無い生物ですね。その代表格がエクゼッターとノロイです」


 顔色一つ変えず、説明の前置きをしてくれるシスター。

 触れると会話が途切れるので避けたいのだが、新単語が投下されて風翔は思わずそれを聞き返してしまう。


「ノロイ?」


 問いに答えるように、口にだされたのは衝撃的なものだった。


「簡単に言ってしまえば、この次元の神と悪魔になります」


 神と悪魔。

 いきなりそんなファンタジックな話が真面目に来ると人間の思考はフリーズするらしい。

 バース連中にとって神は創作物の中の存在なのだ。


「……」


 絶句する。

 もうこちらに来て何度経験したかわからず、いい加減イライラしてきていた。

 理解が追いつかない話にだ。

 バースを元にしたくせに、何故バースに無いものを組み込むのか。

 この次元を作ったヤツに怒りをぶつけたい気持ちが昂るが、抑えて会話を続ける。


「えっと、神と悪魔?どういうことですか?信仰と畏怖の対象なんですか?そのエクゼッターやノロイっていうのは」


 まさしくバースでは信仰や畏怖を表すものである神々や悪魔たち。それらが現実に存在するとしたら、興味こそ出てくるが、恐ろしいことこの上無い。

 何故なら、明らかに人間を蹂躙出来る力を持つ存在だからだ。


「バースではそのような認識ですが、こちらでは異なります」


 しかしシスターが説明した内容は言葉の通り少し違うものだった。


 エクゼッターは、永久に生きる生物。更に特定の個体には権能という超能力が備わっており、故に人間を遥かに超越した神と認識されている。

 ノロイは赤い渦巻き模様のある黒い身体を持ち、人間だけを襲う。

 エクゼッターにも有効な超能力を有しており、故に有害で神に仇なす悪魔として扱われている。

 信仰や畏怖ではなく、超越した存在だから神、有害な存在だから悪魔と呼ばれている。


「ということは、私たちが見たあの化物もノロイなのかな?」


 説明を聞いて、麻子は森で見た化物を思い出して少し身震いした。

 風翔も脳裏に浮かんだ化物の姿に恐怖する。

 確かにあの生物は説明の通りの化物だった。

 シスターに対しこれを話すと得られた回答はこれだ。


「ノロイですね。至る所にいます。人間を襲うので気をつけてください」


 やはりノロイ、つまり既に2人は悪魔には遭遇していた。

 しかも至る所にいるらしい。


「あの、人間だけ襲うんですよね?」

「はい。ノロイは人間への恨みの念が塊となった存在ですから」


 風翔の問いに答えたシスターの発言から、ノロイとは怨念の集合体とでも言うべきものと考えても良いかもしれない。

 この時点で到底信じ難い事実をかなり突き刺されたわけだが、実は聞きたいことはだいたい聞けていたりする。


 ここは何処か?

 何故いるのか?

 帰れるのか?


 メインはこれだ。


 付随してエクゼッターとノロイについても聞いたので、ここで留まるより、さっさと動いてサクヤを探しに行く方が良い。


「全て、の問いに話せることはお話ししましたが、他に何かありますか?」


 シスターもそれを理解しているのか、聞きたいことがあるなら聞いてのスタンスに変わる。


「えっと、じゃあついでに、次元ってなんなんでしょうか?」


 ここにきて語られていなかった点に触れる。

 聞くにしても1番最初に聞くべき内容だが、何処?が最優先だったので蔑ろになっていた。

お読みいただきありがとうございました。

どうやらこの次元には神と悪魔がいるようです。

次回もよろしくお願いします。

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