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ハイティバイン~The Blave to exceed~  作者: 天とう
第1章
6/25

5 シスターの講義・前編

 窓から月明かりが差し込む頃。

 何やら暖かく、非常に柔らかいものが触れ、風翔は目を覚ます。


「………?」


 目を開けると真っ暗だった。


「……は?」


 寝起きの頭で状況を整理する。

 教会に来たのは覚えている。

 そして経緯は不明だが、机で寝て、そして現在は横になっているようだ。

 ふと見上げてみると、見知った人が寝顔を見せていた。

 ここから導き出される回答は何だろう。

 考えてから、風翔が事態が割とマズいことを理解するまで、少々かかった。


(………ヘタすりゃ犯罪になるんじゃね?)


 事態についての感想はこれ。

 風翔は麻子の隣で寝ており、彼女は風翔の頭を抱きしめていたのである。

 暖かくて柔らかいものは麻子の乳房であり、かろうじて動かせるが、がっちりホールドされて抜け出すのは困難だった。

 何故こんな事態が起きているのかは不明だが、

 もし麻子にバレたらセクハラで訴えられても文句は言えない。


(……く、そ。どうにか逃げ出せれば…)


 焦って無理に動いたのがいけなかった。


「………あれ?」


 麻子が目を覚ましたのだ。

 一間おいてから、頭を上に向けていた風翔と目が合う。


「………」

「………」


 しばし無言で見つめ合って、麻子が状況を理解はして顔を紅潮させると風翔を突き飛ばすようにして離れた。


「うぇえ!」


 いきなり押されてバランスも取れず、少年は背中からベッド下の床にダイブ。

 したたかに腰を打ち付けて、痛みに悶絶する。


「いっ…で……」


 結構な激痛に悩まされはしたが、すぐに起き上がった風翔に対し、突き飛ばした張本人は胸を抱えるように腕で守りながら汚物を見るような目を向けてくれた。


「と、巴くん。性欲が強いのは悪いことじゃないけどね。流石にこの状況でそれはいけない

ことだと思うよ。犯罪だよ?寝込みを襲うなんて」


 完全に勘違いされているようで、麻子にとっての風翔の株が大暴落していく。

 片想いの相手にそんな感情を持たれてはたまらない。

 好きに転じる可能性がある分、まだ嫌悪された方が良い。

 しかし犯罪者認定されたら、どうであれこいつは犯罪者という認識を持たれてしまう。

 何としても避けねばならない。

 だからといって状況は悪い。

 現行犯なので否定は通らない。

 片や謝れば罪を認めることになる。

 加えて沈黙の場合は肯定ととられ、結局寝込みを襲った犯罪者にされる。

 完全覚醒を遂げた頭は身を守るため最大限の回転で事態の最適解を模索していた。


「あら、起きていましたか。夜まで眠られるとは、よほど疲れていたのですね」


 最大のピンチを迎えた風翔が悩む部屋にシスターが入ってくる。

 様子を見に来たようだ。

 朝に着いたはずだが、かなり長いこと眠っていたらしく、辺りはもう暗くなっていた。

 シスターはベッドの前で中腰になって難しい顔をする少年とベッドの上で胸を抱え、眉をひそめている女性を交互に見てから、口を開く。


「机で寝られては邪魔でしたので巴様についてはベッドに放り投げたのですが、何か問題が?」


その言葉に、麻子が反応した。


「机…ですか?」


 机で寝られては邪魔。

 つまり風翔は最初机で寝ていたことになる。


「はい。彼は机に突っ伏しておりまして」


 どうやら机で寝ていたのは本当らしい。


「ということはあなたが巴くんを私と同じベッドに?」


 最初から寝ていて、同じベッドに寝かされたなら、風翔は別に麻子を襲うつもりは無かったのではないか。

 ここにきて限りなく黒に近かった生徒は無実なのではとの疑念が湧いた。


「ええ。生憎ベッドは1つだけでしたので」


 シスターの回答で確信に変わる。


「巴くんが私の寝込みを襲ったわけじゃないの?」


冷静に事実確認を行ったところ、少年は気をつけして返答した。


「はい。起きたら先生が俺の頭をホールドしてて驚いて離れようとしたところ、先生が起きて、俺は犯罪者になる寸前まで追い込まれました」


 かしこまるようにしっかり事実を伝えた風翔は微動だにせず、相手の反応を伺う。

 事実なのだからこれ以上の弁明など出来ない。


「……あの、ごめんね。私寝相で近くに人がいると抱きつく癖があるみたいで…」


 何とかわかってもらえたようで、犯罪者にならずに済んだ。

 しかし寝顔を見れたり、知らない一面を知って嬉しい反面、そんな癖があるなら自分が抱きついたから風翔が乳房に顔を埋める結果を招いた可能性も少しは考慮して欲しかったと少年は心で叫ぶ。

 最も、あの状況ではどうであれ、シスターの介入が無ければ風翔が悪人となっていただろう。

 世の中は男に非が向くことを学び、風翔は少し世界が嫌いになった。




 起きた2人はシスターに改めて状況説明をしてもらうべく客間に戻り、揃って椅子に腰掛けていた。

 シスターは彼らの前で微笑みを浮かべたまま動かずにいる。

 何から聞こうか悩んでいた風翔を差し置いて、麻子が口火を切った。


「じゃあ、説明をお願いしたいんですが」


 無難な切り出しから入り、シスターが頷いて返す。


「はい。何から話しましょうか?」


 何からと言われても全てと答えたい。

 ニャクは表面的なことしか教えてくれず、大したことは何もわかっていないのだ。

 その旨を伝え、シスターの返答を待つ。


「承りました」


 お辞儀してから、彼女は静かに口を開いた。


「さて、全てとは言われましたが、ニャクからは次元転移したことととこの次元がバースではないことを聞いているのですね」


 別次元組が頷くのを確認し、シスターは説明を開始。


「わかりました。それではまずこの次元ハイティバインについて」


彼女が語ったのは次のような言葉だ。


「ハイティバインはバースを元に創造された次元です。そのため生物や国々、歴史に違いはあるものの、人間が住んでいたり、技術力が同程度です。ただ、時間の流れが異なり、バースと比較するとかなり早いため、こちらで1日過ごしても、バースでは数時間も経過していないことになります」


 簡単に言えば見た感じは元の世界とあまり変わらないが、時間の流れに違いがあるということだ。

 また生物、国、歴史も違うとのことで、それであれば今いる国が日本ではなく東土というのも納得がいく。

 ついでに歴史も違うだろうし、生物も知らない種類が当たり前のように存在していると考えられる。


「え、じゃあ私たちはバースの時間だとこちらに来てまだ数時間程度ということに?」


 この問いには首肯が返された。

 麻子と風翔が転移した昨夜から今夜まででだいたい24時間。

 しかしシスターの言葉が事実ならバース側ではまだ数時間しか経っていないらしい。


「バースを元にした次元…って、俺たちはバースから来たのかってニャクが言ってましたよね?」


 風翔もシスターの言葉に反応し、ふと気になったことが出てきたので教師に確認をとる。


「うん。私たちのいた次元がバースで、こっちがハイティバイン」


 既に出た情報をもう一度聞いて、風翔が疑問を口にした。


「気になるんですけど、何で俺たちがバースから来たってわかるんでしょうか?」


 確かに言われてみればそうだが、そんなこと、わかるはずもないので麻子は首を少し傾げるに止まってしまう。


「この次元には、稀にバースから人間が数名次元の隔たりを超える次元転移に巻き込まれ、ハイティバインに迷い込む事態が起きるのです」


 答えをくれたのはシスターだった。


「皆様一様に、突如開いた穴に落ちたらこちらに来ていた。と仰られます」


 完全に転移組の状況と合致している。


「正に俺たちですね」


 思わずそう呟く風翔。


「何故そんなことが?」


 シスターの言葉から転移は突如起きているらしい。

 理由があるのか問うた麻子だったが


「申し訳ありませんが、何故転移が起きるのかは不明です」


 どうやらわからないようだ。


「しかし、バースからしか転移が発生しないので、必然的に転移者はバース出身ということになります」


 一方、何故バースとわかるかについては確かな答えをもらえたので風翔は一応よしとする。

 しかしその言葉をよしとできない人間が隣にいた。


「あの、不明ということは、私たちはバースに帰ることはできないのでしょうか?」


 そうなのだ。

 言われてから愚鈍な少年も不安を見せた。

 麻子の言うように原因が不明なら解決策が無いも同然である。

 解決する原因が無いのだから。


「帰れると断言することは出来ませんが、可能性なら2つ提示出来ます」


 そんな希望を絶たれた気持ちの2人を哀れに見たのか、シスターは提案を出してくれた。


「可能性…ですか?」


 確実でなかろうと縋る価値のある提案なら二つ返事で了承するつもりだ。

 提案を待った2人に示されたのは、これらだ。


「1つはサクヤに会うこと。もう1つは琥珀の魔女に会うことです」


 名前らしき単語と通称のような言葉を聞いて麻子は人物かどうかを確かめた。

 それに頷くシスターの反応から人物なのは事実のようだ。


「まず前者。サクヤはオーロランド王国に住む女性です」


 早速バースには無い国がお出ましした。

 オーロランド王国という国があるらしい。

 その国は何処にあるのか?聞いた風翔に解説者はリジア州とフィリッパ州を含むローレシュア大陸を抜けた先にある島国であり、極寒の地であると回答してくれた。

 まずリジア州とフィリッパ州が何なのかわからないが、音の響きとニュアンスから何となく予想を立てるのであれば、リジアとはアジア、フィリッパはヨーロッパ、ローレシュア大陸はユーラシア大陸と考えられる。


「その判断で合っていますよ。バースとは名前が違いますが、響きなどが似ているので予想はつくかと」


 一応事実確認した麻子に丁寧な回答がなされた。

 風翔は


「いや、普通わかるか」


 との文句を飲み込み、聞いた事実から響きの似た点で考えるなら、ヨーロッパの先にあるならオーロランドはグリーンランドというわけだ。

 グリーンランドはドイツ領のはずだが、こちらでは国として独立しているのかもしれない。

 つまりはグリーンランドを目指してユーラシア大陸を超えろって話になる。

 いきなり途方もない壁にぶちあたった感覚を覚えた2人には構わずシスターは話を続けた。


「私はサクヤに会ったことはありませんが、世界中を回っているニャクが保証する情報です」


 どうやら今の話はニャクからの情報らしい。

 あまり彼を信用出来ない風翔は複雑な顔を見せる。


「彼女は300年前、バースに行ったことがある男の一人娘といわれており、何らかの手がかりを知っているかもしれません」


 が、少年の顔色など気にもとめず解説シスターの話は続けられた。


「もしかしたらバースに行く方法も見つかるやもしれない」


 ハイティバインからバースに行ったことがある人間の関係者。

 ならば話は聞いてみたい。

 だが、300年の年月が非現実的で、いまいち信用しきれないところが風翔にはあった。

 そんなに人間が長寿だろうか?

 気になったが、先にシスターが次の説明を始めてしまう。


「そして後者、琥珀の魔女」


 琥珀の魔女についてはこう述べてくれた。

 世界中を放浪し、当てなく旅をしては道中でトラブルを魔法のごとく即座に解決してしまうため、魔女と呼ばれている女性。

 金色の髪と青き瞳が特徴とされており、白めのローブのような服を着ているとのこと。


「彼女は300年前からこの次元にいますが、元はバースの存在であり、訳あってこちらにいるようです」


 この場合、300年という年月がかなり違和感だが、それよりも琥珀の魔女が自分たちと同じ次元にいた存在だという点が重要だった。

 簡単に言って、同じ状況というわけだ。


「バースの?」

「私たちと同じ…」


 思わず反応した風翔と麻子にシスターは首肯する。


「ニャクが知り合いで、100年前に一度話した際、用が済めば帰ると言っていたらしく、バースに戻る方法を知っているものと考えられます」


 この時点で前者と後者、帰れる可能性として選ぶなら誰もが後者を選ぶだろう。


「じゃあ問答無用で後者ですよ」


 と言った少年の判断は何も間違っていない。

 前者のサクヤは会えれば帰る手がかりが掴めるというものだが、後者の魔女は帰る方法を知っているのだ。

 当然後者を選んだ方が確実である。


「そうだね。確実性の高い方が」


 少年の隣で女性も同意見を述べる。

 が、この場で難しい顔をしていたのがシスターだ。


「ただし、琥珀の魔女は世界中を放浪しています。今何処にいるのか?何をしているのか?一切がわからないため、発見は困難を極めるでしょう」


 ふらふらとまるで脈絡もなく、それでいてかなりの速度で世界中を移動しているのでその動向は全く掴めないらしく、見つけられたら奇跡に近いと語った。


「故に、北の大陸に向かいつつ、道中で魔女を探すくらいの考えで動くのがベストかと」


 というのがシスターの提案。

 転移の原因は不明で、帰り方がわからない。

 可能性があるのはサクヤか魔女に会うこと。

 サクヤの居場所は判明しているが魔女は定位置が無い。

 世界中を放浪しているから、サクヤを訪ねて、その中で会えたら良いな程度で動く。

 この行動には否定の余地を挙げられない。

 帰りたいなら最も可能性が高い手段を取るのがセオリーで、2人はそのセオリーから逸脱する気は無かった。


「なら、まずは大陸に渡らないといけないですね」


 あまり考えることもなく、サクヤを訪ねて行く方向で風翔は方針を固めつつある。


「そうだね」


 麻子も同意らしく、そのようにするつもりのようだ。

 兆しが見えたことで心に余裕が生まれ、両者は精神的に張り詰めていた緊張が少し解れるのを感じていた。

 冷静を心がけていたが、やはりこの異次元に来た状況に精神は相当疲弊していたのか、寝た身体は元気なのに突然の疲労感に苛まれる。

 全く右も左もわからない状況に可能性が見出されるだけでこうも安心感が違うのか。

 ゆとりが出来たことで、風翔は帰り方云々とは別に気になっていたことを聞いてみることにした。


「ところで、さっきから気になってたんですけど」


 ふと問いかけるとシスターは少年に顔を向けた。


「はい?」


 それを確認し、疑問を投げつける。


「琥珀の魔女って300年前からいて、ニャクが100年前に話したんですよね?」

お読みいただきありがとうございました。

一度区切りまして、次回も解説が続きます。

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