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ハイティバイン~The Blave to exceed~  作者: 天とう
第1章
2/25

1 記憶に無い国

 目を開けて最初に飛び込んできたのは、味気の無いコンクリートだった。


「は?」


 風翔は奇怪な事態に呆然としてしまう。

 当然だ。

 部室から出ようとしたら仰向けに倒れており、コンクリートの天井を眺めていたのだから。

 では一体何が起きたのか?まず真っ白になった少年の頭が目の前の事実に直面して、思考を始めた。


 最初に頭に浮かぶのはその疑問。

 呆気にとられたようにポカンとしていると隣から聞き覚えのある声がかけられる。


「起きた?」


 風翔が声のした方に顔を向けると、麻子の姿を確認出来た。


「え?先、生?」


 困惑しながらも一瞬見知った顔に安堵の思いが自分の顔にも浮かび上がったが、すぐにいきなり空いた穴に落ちた事実を思い出し、改めておかしな経験に頭が混乱し始める。 上体を起こし、風翔は辺りを見回す。

 真っ先にわかるのは見覚えの無い場所であることだった。


「ここ、何処ですか?俺たち穴に落ちましたよね。学校の地下とか?」


 理解が及ばない思考でも、なるべく論理的に、状況の把握を試みようとする。

 部室で穴に落ちたのだから、当然学校の敷地内の何処か、わかりやすいなら地下に落ちて無事、というパターンが風翔には一番しっくりきた。


「うーん、私も最初はそう思ったんだけどね」


 彼の問いに対し、あくまで表情は変えず、麻子は立ち上がって天井を見上げる。

 そして部屋の壁に歩いて行く。彼女が窓の隣に立った時、そこで風翔はここが地下ではないことを悟った。


「天井に穴は無いし、窓があるから地下じゃないし、学校でもないみたいだよ」


 そう、麻子の言うように風翔の言葉通りなら落ちてきたはずの天井に穴が空いていなくてはならない。

 ところがいくら探せども穴など空いておらず、更に、この部屋には窓があるようだった。

 この窓からの光が、部屋を照らしていたので、本来真っ暗なはずの部屋の中で、

 お互いの姿や辺りの状況を確認出来ていたのだ。

 どうやら簡単に気づけることも気づけないほどには混乱の影響が出ている様子。

 一方で気になることは気になるようで、風翔は麻子が最後に発した学校ではないという言葉に対して口を開いた。


「学校じゃないって、どういうことですか?」


 立ち上がり、風翔も麻子が見る窓の外へ視線を向けた。


「………は?」


 本日3度目の間抜け声を響かせ、口をあんぐりと開けたまま立ち尽くす。

 目の前には見たこともないような街並みが広がっていたのだ。

 少なくとも、風翔が通う学校がある地域に眼前にあるような街並みは無く、また、住んでいる地域にも無い。


「何ですか、これ」


 流石に整理が追いつかない。

 穴に落ちたら知らない街並みが広がる場所にいた。

 以上の言葉以外に表現出来ないが、それどころではない。


 何故?

 風翔の頭を支配していたのはその2文字だけである。


「私にもわからない」


 麻子も当然困惑しているようで、何とも言えない表情で立ち尽くしている。


「私も起きてすぐにこれを見て何があったのか考えたけど、結局何も思いつかなかったから」


 それはそうだろうと風翔も納得する。

 普通こんな状況に陥ったら思考の整理すら難しくなる。

 なのに起きてすぐに状況を考えるだけでも肝が据わっていると言えるのではないか。


「えーっと、とりあえず、出てみる?周りの人に聞いてみれば、場所だけでも把握しなきゃ」


 思考の端で関心する風翔に対し麻子はまず動いてみることを提案した。

 同じ提案をしようかと考えていた手前、少年は迷いなく同意する。

 全く状況が掴めない以上、情報を得なくてはならないのである。

 合意した2人は目を覚ました建物から出た。


 出てから振り向くと、倒れていたのは廃墟のようで、あまり良い気分はしない。

 わかるのは、明らかに学校ではないこと。

 改めておかしな事態の中にいることを理解し、道行く女性に問いかけてみた。


 質問は完結に、ここは何処か?である。

 事態を説明しないのは、突然学校で穴に落ちて廃墟に倒れていたなんて非現実的な話は信じてもらえるわけもないことが理由となる。


「場所を尋ねて帰るのが一番早いと思う」

「同意見ですね」


 ファンタジックな話は置いておいて、元の場所に帰るために現在地を把握しようということになったということだ。


 相手側からすれば道を歩いていたらいきなり場所を尋ねてきたわけで、自分のいる場所を知らないなら何故この場にいるのだろうといった疑問を持った様子の女性に、若干変人に見られた気がするが、質問には丁寧に答えてくれた。


 だが、それを聞いたファンタジー経験者たちは更なる混乱を与えられることになってしまう。

 女性の口から出てきた言葉は、聞いたことも無い地名だった。

 その地名を聞いた2人は携帯端末で検索しようとしたが、どうやら身体と服以外、持ち物が無く、調べようがなかった。

 なので失礼を承知で追加質問を投げかけるしかない。


 その地名は何処の県にあるのか?


 この質問をした理由は簡単である。

 県となれば知っている回答を得られるはずだからだ。

 しかし、その目論みは外れることとなり、返ってきたのは頭を抱えるような言葉だった。

 何とその県名すら知らない名だったのだ。

 風翔が意味不明過ぎて自分がおかしいのかと考え始めた辺りで、麻子は何とか更なる質問を

 絞り出す。


「あの、変な話かもしれませんが、私たちはその県名を聞いたことが無くて、この日本に、そんな県ありましたか?」


 この問いを聞いた女性が怪訝な表情を見せて、口を開き、その言葉で2人は到底納得の

 いかない事実に直面することとなった。


「日本?ここは東土ですが、そんな国、知りません」


 女性が嘘をついているようには見えない。

 だが、その言葉が真実なら意味がわからなくなる。

 何故なら目の前にいる女性は日本語を話しているのだ。

 言葉が通じている。

 日本にいるから日本語を話しているはずだ。

 なのに、日本語を話しているのに、日本を知らないなど、あり得ない話だった。


「そう、ですか。すみません、お答えいただいてありがとうございました」


 麻子は頭を下げ、女性は不思議そうにして去っていく。

 女性を見送り、2人は呆然と立ち尽くす他無かった。


「えっと、夢でも見てるんでしょうか?」


 逃避したい気持ちがこれを言わせたのだろう。

 風翔が夢ではないかと推測する。


「2人が同じ夢を見てるってこと?」


 一方で逃避したい風翔と違い、目の前の状況を真面目に考えている麻子は論理的な答えを示す。


「巴くん、同じ夢を見る可能性が無いとは言わないけど、それは多分確率的にすごく低いから違うと思う」


 夢というのを完全否定は出来ない。

 しかし、先ほど述べたように他者同士が夢を共有する可能性などどれほどあるのか?

 麻子の見解としては非常に低い。

 ならば、自分が夢を見ていて、目の前の少年も夢の産物なのかとも考えたが、触れ合った時の感覚や、周りの建物の質感などから、やはり現実なのではと判断している。


「お互いに今、起きてここにいるなら、夢じゃないと考えるべきだよ」


 諭すように伝えた。


 それを聞いた風翔は納得したような、信じたくないような、なんともいえない表情になる。


「何が、起きてるんですか?」


 ほとんど彼から無意識に出た言葉。

 自分の学校の生徒が混乱している以上、麻子はしっかりしなければと整理のつかない頭で意識を改める。

 結局、何が起きているかなどわかりはしない。

 しかし教師として生徒を保護しなくてはならない。


「巴くん、何が起きているのかはわからないけど、私たちは日本語が通じる別の国に、いるのかもしれない」


 言葉が通じる別の国。

 自分でも何を言っているのかわからなくなりそうだが、無理やりでも納得出来る情報の接続をしなくては行動出来ない。


「もっと周りを見てみよ。一緒に来て」


 教師が差し伸べた手。

 別の国。可能性としてありえなくも無いが、そんな国はあるのだろうか。

 とはいえ、意味不明な状況で1人になるのは御免被るため、風翔は麻子の手を握った。

 相手が想いを寄せる人だからか、多少気持ちが落ち着く。


「わかりました」


 2人で少し調べて回り、わかったことは次の2つ。


 この国は日本ではなく、東土という別の国であること。

 東土では日本語が東土語という名称になっていること。


 大したことはわかっていない。

 ただ


「現状を改めて纏めると、言葉が通じる日本に似た知らない国の知らない場所で無一文で夜の街に放り出されてるってことになるね」


 とは麻子の言葉。

 自分を納得させるため、わかっていることは言葉に出していく。

 それに対し、時間のおかげか、冷静に考えられるようになった風翔が反応する。


「唯一助かるのは、言葉が通じるってことくらいです、ね」


 実際問題、もし言葉が通じていなかったら詰んでいた可能性が高い。

 言葉が通じるからこそ、情報を得ることが出来ている。

 これがなかったら今頃どこかもわからない場所で右往左往していただろう。

 故にこうして、多少冷静になって会話が出来ている。


「どうにかして帰る方法を見つけないといけないですね」

「そうだね。でも日本を知らない人たちに日本への帰り方を尋ねても、欲しい答えがもらえるかどうか…」


 先ほど出てきた廃墟の壁にもたれかかり、先の見えない事態に、教師と生徒がうんうん唸る構図が出来上がっていた。


「帰る方法?何だい?次元転移でもしたのかな?」


 どうしようかと悩んでいた2人の側から、突然現れたソレは語りかけてきた。

 最初は認識することが出来ず、声の出処を探して視線を泳がせると、目の前に影を確認し、顔を上げると、何者かが立っている。

 背の低い男の子のようだ。


「え?え?」


 あまりにいきなり出現した少年に対し、目をぱちくりさせている麻子。

 同じく呆気にとられた様子の風翔。

 動けない両者を確認する少年はやがてケタケタと笑い出した。


「あっははは!ごめんよ」


 追加でふざけたような謝罪する。


「荷物も無いし、途方に暮れたようだったから次元転移でもしたのかなーって思ったんだよ」


 更にそのように述べて言葉を終えた。

 さて、少年の言葉に非常に気になる項目があった以上、問わないわけにはいかない。

 先に口を開いたのは風翔だった。


「えっと、今何て?転移?」


 この転移という言葉を聞いた時、正に自分たちに当てはまると風翔は感じていた。

 穴に落ちたら別の場所にいたのだから。

 転移自体、現実には未だ存在していないため、これまでその発想が無かったが、よく考えてみれば既に非常識な事態に陥っている以上、先ほど逃避気味に推測した。

 夢説よりも非常識なそちらの方がしっくりくる。

 1人で納得できた風翔の問いかけを聞いた少年は頷きながら、問い返してきた。


「うん。大方バースから来たんだろう?」


 少年が口にしたのは、またしても新たな単語だった。

お読みいただきありがとうございました。

解説役?の少年現る。

次回もよろしくお願いします。

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