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ハイティバイン~The Blave to exceed~  作者: 天とう
第1章
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プロローグ

元々書いていた作品のフルリメイクです。

始まります。

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、今日もとある高校は放課後となる。

 即座に帰宅する者、部活に向かう者、教室でダラダラと時間を潰す者。

 クラス内でも生徒たちの行動がバラける中、短髪で赤みがかった焦げ茶色の髪を持つ少年、(ともえ) 風翔(ふうと)は部活に向かう組であり、荷物を纏めて席を立つ。

 だが、それを阻害せんとする者が教室に入って来た。

 一直線に風翔の元に来たのは黒髪で一見優男な黒鎌(くろがま) (りょう)

 この学校では不良に近い生徒であり、良く風翔に絡んでくる。


「なぁ巴くん。財布無くしてしまってさ。お金貸してくれよ」


 黒鎌のこの言葉は要するに金を寄越せという話である。

 わざわざクラスの違う生徒の元へ来るあたり、何らかの事情があってのことだろうが、風翔からしてみればたまったものではない。


「良いだろう?俺たち親友だもんね?」


 ケラケラした様子の黒鎌。

 実のところ、周りの大多数からは彼と風翔は仲の良い友人のように映っているのだ。

 あくまで柔和な黒鎌の態度とそれに対し平静を装って対応する風翔。

 仮に彼が反抗した場合、どういう事態になるかを誰も把握していない。

 目が笑っていない黒鎌を嫌悪を浮かべた紫色の瞳で一瞥した風翔は仕方ないなと小銭を渡した。


「ありがとう」


 黒鎌は金を奪うとさっさと出て行ってしまう。

 ため息を吐いた風翔は部活に向かって歩き出した。

 教室から出ると先ほどの黒鎌とのやり取りを見ていた者が駆け寄って来る。


「巴〜」


 気の抜けた声で現れたのは遠先(とおさき) (ひとみ)

 黒鎌と同じクラスの女子生徒である。

 陸上部所属で、翡翠色の瞳と綺麗な金髪ポニーテールがチャームポイント。

 学年でも人気がある。


「遠先…」


 そんな彼女は同じクラスとしても申し訳なさからか黒鎌が何かしら風翔に絡むとお約束のように出てくる。

 いつものことなので歩みを止めずに返事だけする風翔。


「あらら、元気の無い声で」


 遠先は黒鎌と風翔の関係が友人ではないことを知っている数少ない人物であり、ことあるごとに事実の公表を勧めてくるのだが、風翔は訳あって公表はしないよう頼んでいる。


「まーたお金取られたの?これで総額いくらなの。全く」


 風翔の隣につき、呆れた様子の遠先。

 それも金を奪う黒鎌と奪われても平然としている風翔の双方にだ。


「暴力振るわないだけマシだ」


 と返す。


「そりゃ問題になるしね。いい加減対処してもらえば?」


 普通なら遠先の言う通りなのだろうが、風翔にとってそれは防がなくてはならないことだった。


「悪いがそれはダメだ」


 そのため、断りを入れる。


「その理由が聞きたいんだけどね」

「話せたら良いんだけどな」


 このやりとりも再三行われている。


「はいはい。言えないなら良いですよ」


 やれやれの仕草をして、遠先は歩みを止めた。


「後悔はしないようにね」


 いつもの台詞で踵を返し、去っていった。

 風翔は歩みを止めることなく、校舎を出る。

 彼が所属する部は少し離れた旧校舎にあるのだ。

 夏の暑さにげんなりして、外の空気に嫌悪感を抱く。


「お、巴。今日は部活か」


 そんな彼の元へやたらに体格の良い生徒が現れた。

 男の名は(たがやし) 優一(ゆういち)

 風翔とは1年生の時からの友人で、遠先と同じく黒鎌との事情を知る人物。

 加えて、風翔が何故事情を隠しているのかを唯一知る存在である。

 刺々しい赤髪が特徴的で、稀に不良と間違われる。


「耕、何でまだいるんだ?バイトはどうした?」


 実家から離れて暮らす彼は生活費をバイトでまかなっている。

 普段はすぐにバイトに行っているので放課後も学校にいるのは珍しい。


「バスケ部の助っ人頼まれてな。ふと見たらお前がいたから来てみた」


 テニスとバスケは出来るので耕はたまに助っ人でこのどちらかの部に参加していたりする。


「そうだ。さっき黒鎌が笑いながら歩いてったけど、また絡まれたのか?」


 何度も同じ状況を見て、事情を知る耕は、黒鎌が見せる表情から風翔に絡んだか絡んでいないかを想像出来るくらいにはなっているようで、あっさりと事実を言い当ててくる。

 相槌を打って返す風翔を見て苦笑いを見せる耕は旧校舎を見上げて口を開いた。


「事情が事情なだけに、お前が声をあげないのもわからなくもないけどさ、自分の懐冷やしてまですることか?」


 耕としては友人が総額でみれば大金を奪われていることについて、看過するのは心苦しい。

 だが、本人が我慢していて、関わらないでほしいと希望している。

 更に何故そう希望するのか知っている以上はどうにも動けないのが現状だった。


「するさ。あの人に、手は出させない」


 風翔は決意を固めた目で旧校舎を見る。


「耕〜!足軽が呼んでる。練習始めるってさ」


 体育館から顔を出した耕の友人、熊谷(くまがい) (さぐる)が彼を呼んだ。

 因みに足軽とは足軽(あしがる) (ひろし)。バスケ部顧問の教師である。


「おっと、悪い。またな」

「おう」


 耕は体育館の方へ走って行った。

 風翔はそれを見送り、旧校舎に入ると、自身が所属する文芸部の部室に向けて歩みを進める。

 新入部員もおらず、近く廃部が決まっているが、この少年にとっては大切な人と過ごせる場所なのだ。


「先生、何してるんですか?」


 風翔は部室に入るや否や椅子の上で背伸びをし、棚の上にある本を取ろうとしている文芸部顧問を見て問いかける。


「あ、巴くん。ちょっと取りたい本があっ―――――」


 その瞬間、顧問の女性教師は風翔に視線を向けて集中が切れたのかバランスを崩し、椅子から倒れそうになる。


「危ない!」


 間一髪落ちて来た教師を受け止めることに成功したが、今度は無理な姿勢で受け止めた風翔がバランスを崩して後方に倒れてしまう。


「きゃあ!」

「うお!」


 狭い文芸部内でドスンという音が響き、2人の男女がフローリングに倒れた。


「いってぇ……」


 身を挺し、抱きとめた教師を守った風翔は痛みを呻きつつ目を開けた。

 そして唇が触れるか否かという至近距離にある教師の顔をとらえる。

 向こうもそんな距離に驚いたのか慌てて風翔の上から飛び退いた。


「ご、ご、ごめんね巴くん!」


 わたわたする彼女に対して


「い、いや、大丈夫です」


 あまりにいきなり惚れた女性の顔が目の前に来て、心臓がバクバクする風翔も少し声をうわずらせながらも返答する。

 息を整えて立ち上がった風翔は教師に近寄って聞いてみる。


「はぁ、いきなりでびっくりしましたよ。何取ろうとしてたんですか?」


 棚を見上げる。


「あはは、前に巴くんが教えてくれた作品があったでしょ?それがあったの。この文芸部に」


 と、本棚の上の方を指さす。


「ああ、本当ですね」


 確かにそれは風翔がこの教師に勧めた作品だった。


「ちょっと待ってください」


 風翔は椅子に上がり、本棚から件の作品を手に取ると、教師に手渡した。


「ありがとう巴くん」


 笑顔を向けてくれる。

 この笑顔を見れるだけで、風翔にしてみれば黒鎌の件などどうでも良くなる。

 彼はこの文芸部の顧問教師である女性、神原(かんばら) 麻子(まこ)に惚れているのだ。

 彼女は短めにした濃紺の髪と眼鏡の奥に艶めく黒い瞳を持っているのだが、それよりも、彼女を特徴で表現するなら服を押し上げる胸に目が行くだろう。

 学内、いや地域内でも特に大きな胸囲を持つ彼女に会うことが風翔の癒しであった。

 もちろん彼は麻子が巨乳だから惚れているわけではない。

 単に容姿に一目ぼれしただけであった。

 そんな彼がいる文芸部の部員は現在風翔1人。

 よって活動日は麻子と2人きりになれる夢のような時間なのだ。

 風翔が黒鎌からの絡みに耐える理由も彼女にある。

 というのも、黒鎌は風翔が麻子に好意を寄せていることを知っており、初めて風翔に絡んできた際に自分に反抗し、この事実を公表すれば、麻子に何かしらの危害を加えると宣言したのである。

 どんな危害であろうと、風翔にとっては想いを寄せる彼女に害が及ぶことは防がなくてはならないことなのだ。

 だから、風翔はいくら自分の金が奪われようと、反抗することはなく、耐えているのである。

 そして遠先や耕には公表しないよう頼んでいる。


「へぇ〜、ふんふん」


 麻子は作品に目を通して1人で頷いている。

 文芸部とはいうが、もはや単なる読書時間だ。

 風翔としては自分が勧めた作品を読んでくれている麻子を見ているだけでも眼福で、それだけで良かった。

 しばらくして同僚の吉温羅(よしうら) 杏子(あんず)に呼ばれ、麻子は部室を出てしまったので残りの時間は本を読む。

 読んでいれば以外に時間は早く過ぎてしまい、辺りは暗くなっていた。

 風翔が活動記録をつけていると部室を出ていた麻子が入って来て風翔に告げる。


「もうこんな時間だよ。ほら、早く帰りなさい」


 部室の鍵を持って、彼女は風翔の側まで歩いてくる。


「はい。これ書き終わったらすぐ帰ります」


 返答して活動日記録をつけているのを見下ろす麻子は先ほど自分が読んでいて、机に置いた作品を手に取り、少し広げながら口を開いた。


「ごめんね。今日はあまり出ていられなくて」


 ページをめくり、しんみりした様子の彼女に、記録し終えた風翔は顔を向ける。


「先生にもやらなきゃいけないことたくさんありますし、俺だけに構うわけにもいかないですから」


 そう伝えて席を立つと、荷物をまとめて鞄を肩にかけた。


「出来れば、一緒にはいたいんだけどね」


 ゴソゴソしてるうちに麻子が何か発したので


「え?何か言いました?」


 聞き返すが


「ううん、何でもないよ」


 向こうは何でもない様子だった。

 ならば追求はしない。


「じゃあ、帰ります」

「うん。お疲れ様」


 風翔は麻子と一緒に部室を出ようとする。

 だが、そこで信じられない事態が起きた。

 部室の床にいきなり穴が開いたのだ。


「へ?」


 唐突な非常事態に2人して間抜けな声が出る。

 次の瞬間、穴に落ち、部室には静寂が訪れる。

 この穴は学校のいたるところで確認され、以後、数人が学校から姿を消し、行方不明となった。

今回はプロローグです。

次回より本格始動です。

お読みいただきありがとうございました。



作者はツイッター @suskama もやっております。

今後の進行を報告していこうと考えておりますのでどうぞよろしくお願いいたします。

また別作品でヴィーナスリリーフというハイファンタジー作品を投稿しております。

こちらは気軽に読めるお気楽でちょっとシリアスな少女の成長物語です。

どうぞこちらもよろしくおねがいします。

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