9.gasping for breath
トムとアルフレッド、二匹は買い物帰りだった。
ビンセントのメモを店主か奥さんに渡し、今夜の食材を仕入れ、その籠を首に下げてアルフレッドが歩く。その後ろをトムがちょこちょこついて行く。
それは彼らの日課であり楽しみの一つでもあった。
ずっと静かだったアルフレッドがトムに言う。
『トム。このところビンセントさんはご機嫌斜めじゃ。何か知っておるか?』
『……うん。多分、この前来た男の人のせいだよ。店の前に乗りつけて長く話してた人。ビンセントさん……怒鳴ってたもん』
心配げにトムは答えた。
『ほぉ。あの人を怒らせるとは、よほどの話をしておったんじゃな』
『感じの悪い人だった』
『ふむ……』
そんなことを話しながら、二匹はてくてく通りを渡った。
渡り終えた時、トムの耳に何かが聞こえた。
『……ぅ、うう……ぅぅ』
それは声。誰かが苦しみ悶える声だった。
『え? どこ?』立ち止まるトム。
『待って、アルフレッドじいちゃん……見て、あの建物の影に誰か倒れてる!』
『何じゃと?!』『行ってみる!』
トムは駆け出した。その後をアルフレッドも。
花壇を越え、暗がりに目を凝らす。
『ハッ、こりゃいかん!』
『きみ! どうしたの? しっかりして!』
トムは呼びかけた。
そこにいたのは一匹の猫。
猫は横たわり、気を失いかけていた。
左足が変に曲がっている。骨が折れているようだ。
その場所まで這っていった跡があり、通りで車に撥ねられたのを察した。
それはちょうどトムと同い歳ほどの、艶やかな黒い毛の雌猫……。
■トム/初期稿