表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SPIRITUAL HOME 〜猫のトム・ジョード〜  作者: ホーリン・ホーク
5/30

5.insignia

 カシラはトムをジッと見つめた。

 そして低くざらついた声で()く。


『お前歳はいくつだ?』

『……え、あ……三歳です』

『名前は? 何と呼ばれている?』

『トムです。トム……ジョードです』

『何だ? そのジョードってのは。お前は人間のつもりか?』

 子分たちがワハハと笑う。

『……いえ、違います』とトムは俯いた。


 カシラは表情を変えない。

『トムよ。お前のことは以前から見ていた。老いぼれの犬とよく一緒にいるだろう?』

『は、……はい』

『今日は何故ここに呼ばれたかわかるか?』

『……いえ』

『何故〝人間〟と暮らす? 何故一緒にいるのだ?』

 カシラの問いに戸惑うトム。

『……何故って、ビンセントさんに拾われて……それからずっと、いつも、一緒だから。あそこに居たいから……』

 するとカシラがぐぃっと詰め寄った。

 トムはすくんで一歩引いてしまう。

『居たいからだと? ……おい、トム。おれが誰だか何も知らんな。おれに対してそんな答えが通ると思うのか!』

 トムは息を呑んだ。

『おれはなぁ、人間が……奴らが大嫌いなんだ。人間を信じるな! あいつらはおれたちの敵だ!』



 カシラ率いる野生軍団は総勢百二十匹。

 生来の野猫もいれば人間に捨てられたものも。

 カシラは後者の方だった。

 彼の人間に対する怒りは深く、留まるところを知らない。

 その右目十字の傷は軍団の(インシグニア)憤懣(ふんまん)のシンボルだ。


 

 群れの平和を守りながら、見果てぬ解放の時を待っている……それがカシラという雄だ。



 ビンセント・ジョードのもとで何不自由なく暮らしているトムにとって、カシラとの対面は衝撃だった。

 その容姿と大勢を従えたその風格、のしかかる恐怖よりも、()()()()()()()を否定されたという困惑の方がトムを苦しめていた。



『トム。お前はまだ青二才で何もわからんかもしれん。だがよぉく見ておけ、人間というものを。奴らの身勝手さを。奴らの卑劣さを。今にわかる。そのうち必ず見えてくる』

『ぼくにどうしろって……そんな』

『人と暮らすな。気にくわん』

『ビンセントさんは優しい人だよ……』

『これは忠告だ。お前が痛い目に合わんようにな』

『……嫌いって気持ちは何も生まないって……アルフレッドじいちゃんが』

『うるさいっ! キサマ生意気な』

 声を張り上げるカシラ。

 トムに対する猫たちの非難(ブーイング)

 トムは小さく屈み込んだ。


『カシラ、ヤキ入れましょうや! こいつムカついてきた!』

『黙れ、もういい! トム。おれの前から失せろ。……サブ、このガキを帰してやれ』

『カシラーー……』

『こんな奴に無駄な力を使うんじゃない。おれの用はもう済んだんだ……』



挿絵(By みてみん)



 ……その夜、ビンセントの家。

 ぼんやりと床を見つめているトムにアルフレッドが近づく。

 腰を下ろし、ふさふさの尻尾でトムの気を誘うが、トムは反応しない。

 いつもならコテッとひっくり返って戯れるのに。


 アルフレッドは言った。

『黒猫に会ったんじゃろ?』

『えっ?』

『〝カシラ〟に何か言われたのか?』

 トムは目を丸くしてアルフレッドを見た。

『え、どうして? 何で知ってるの?  そうだよ、そのカシラに……会ったんだ』

『奴と、奴らの臭いがプンプンしておるもんな。わしの鼻が教えてくれた』

『カシラって何ものなの?』

『ただのヤクザもんさ』

 アルフレッドは困った目で返す。

『人間を信じるな……そう言われたろ?』

『う……うん』

『それがあやつの信念じゃ』

『ぼくは言ったんだ。ビンセントさんは優しいんだって』

『それでいい。トム。何も気にするな。わしらはビンセントさんを慕っておる。それでいいんじゃ』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ