4.KASHIRA
昼飯時だというのに、トムはまだ帰って来なかった。
――どこへ行ったんじゃ……好物のチキンじゃぞうと、アルフレッドが窓から外を眺める。
ビンセントがアルフレッドの頭を撫でながら言いきかせる。
「必ず帰ってくるさ。……待たんでも、先に食べておけ」
「……クゥン……」
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トムはその頃裏山にいた。
裏山の、〝カシラ〟の所に。
その子分のサブがトムを呼びつけた。
『おい。カシラがお呼びだ』
『え?』トムはキョトンと答える。
『お前に用があるってよ。来い。案内する』
それが誰でどういう了見だろうと、トムはサブの後にてくてくついて行った。
『ねえ、それって……どこの誰?』
着いた先は古く廃れた牛舎。
恐る恐る、トムは中へ入っていった。
そこには大勢の、様々な臭いの猫がいた。
『カシラ。連れてきましたぜ』
中央には積み上げられた藁の山があり、そのてっぺんから彼は現れた。
音もなく、カシラはそこへ舞い降りた。
ビクンと、トムは固まり動けなくなった。
『カシラ』と呼ばれるその猫は、黒い毛の大きな雄だった。
手足は虎のように太く、耳は蝙蝠の翼のように尖り、長い尾は蛇のように体の周りでくねっている。
さらに威圧するその顔、その目。
右の目は、無い。
閉じられた目蓋の縁は白く縦にも傷があり十字を切っている。
そして黄金色の鋭い一つの目、左目だけが絶えず激しく相手を捉え脅かす。
初めて会うものは皆、トムのように動けなくなる。
仲間の誰もが彼に敬意を払い、『カシラ』と呼ぶ。
だからそれが彼の名前だった。