22.spiritual home
十月には八の一番街の建物の解体工事が始まり、十一月の終わりの頃にはそこは全くの更地になった。
有刺鉄線で囲まれたおよそ三ヘクタールの土の地表に風が冷たく吹きつけた……。
このところ毎日のようにトムはここへ訪れる。
鉄線をくぐり、〝ジョードの焼きたてパン〟の跡地に行く。
そして日が暮れても帰ってこないトムをアルフレッドが迎えに来る。毎日のように。
『……トムよ。もうメアリーさんに心配かけるのはやめんか。帰るぞ』
『……うん。ごめん……』
次の日も、トムはそこへ。
NOEAを目指す人の群れがトムを見ては呼ぶが、応じない。
幼い姉弟メグとミッチもやって来たが構ってほしくなかった。
メアリーが迎えに来てもまだ、気持ちの整理がつかないままだった。
その日、マナが会いに来た。
『トム……ここには何も無い。あの川原へ行きましょうよ』
トムは空を見上げ、伸びてゆく飛行機雲を追っていた。
『トム! もう、いつまで』
『マナ。ごめんよ、考えてばかりで。……ねえ、ぼくたちも……いつか、消えて無くなるのかなぁ……』
『え?』
『ビンセントさんみたいに……死んじゃうのかなぁ』
切なく言うトムにマナは答えられず、ただ擦り寄った。
『……マナ。ぼくは夢を見たんだ。ビンセントさんの夢を。ビンセントさんはまた逢えるって言った。巡り巡って、また逢えるんだって。そう言って、空へ飛んでった』
『……ええ。わたしたちも……心はいつも一緒よ』
『ねぇ、空に……この天に、神様って本当にいるのかなぁ……』
トムはまた空を見上げ、一点を睨みつけながら言った。
『何も答えてくれないんだ……神様は。訊いても、死んでこの思い出がどうなるのか訊ねても、答えてくれない』
『トム……』
『ぼくはここで育ったんだ! ここでビンセントさんと過ごして、アルフレッドじいちゃんに教えられて、たくさんの人たちとも知り合った。それは温かい、幸せな時間だ。この場所だ、ここでの思い出がぼくの頼りなんだ! それを失くしたくない!』
歯を食いしばりながら、トムは言った。
マナは俯き、父母のもとに戻った。