21.from the CRADLES
業界の〝帝王〟と呼ばれる会長ディック・オルソンは苛々していた。
息子のニックがビンセント・ジョードの小さな土地に五百万ニーゼ払ったというのだ。
ニックは電話でディックに弁明した。
「脅されたんだよ! 恐ろしい目で」
《脅されたぁ?》
「……ここを五百万で買わなきゃクレイドルズ国から殺し屋が来る、ジョード家の血を分けた凄腕の兄弟〝トムとアルフレッド〟が来るって。クレイドルズはヤバい国だろ? ギャングで成り立ってるような紛争地域だ……そして、俺も化けて出てお前を一生苦しめてやるからな! って。まるで死霊みてぇに」
《バカかお前は! なにか映画の見過ぎか?》
「トムとアルフレッドは音もなく忍び寄り、噛みつき引き裂く野蛮な輩だ。さあ、どうする……ってよ」
《ハッタリだぁそんなもん》
「そうとも思ったが……薄気味悪ぃし面倒臭くて……もう払っちまったんだ今更」
《まったく……》
「俺たち……時にやり過ぎってことはねえか、親父よ……」
《はあ? 何をたわけが!》
溜まりかねたディックは啖呵を切った。
《どうせ只で手に入った土地を……この大馬鹿者め! もうその八の一番街は駐車場やホテルは止めだ、カジノを作る!》
「は? 何だよそれ! ここは俺に任すって言っただろ? ふざけんなよ」
《お前はやっぱり駄目だ。ここまでズルズル引っ張りおって! 非情さ冷徹さが足りん。そんなことでは経営者にはなれんぞ。悔しかったら金を取り戻せ!》
受話器を震わす勢いで言われてもニックの目には鬼気迫るビンセントの真っ黒い執念の目が焼き付いて離れない。
「……んなことできるか! 本当にそいつらが来たらどうすんだよ」
《愚か者めが。そこはちゃんと調べろ。お前が現地に行ってな!》
■犬のおまわりさんパグスンと猫のメイ