20.series of dreams
九月二十二日の夜、ビンセントは夢を見た。
孤独な移民、十歳のビンセントはパン屋の主人に拾われた。
「俺も一人。お前も一人だ。仲良くやろうや」
気さくで優しい主人に恵まれた。
「ビニー。お前は真面目で腕も立つ。安心して任せられる」
やがて主人が亡くなり、店を継いだ。
気立てのいい女と結婚し、仕事も楽しかった。
子供には恵まれなかったが幸せだった。
その妻を交通事故で失くし、つらくて本当に死のうと思った。
アルフレッドのことも考えず、死に場所を探した。
だが、そこでトムと出会った。
生きたいと震えて叫ぶトムの小さな命に救われた……。
店の床にポツリとトムが座っている。
《どうしたトム。元気がないぞ》
《ぼく、寂しいんだ。お別れなんて》
《仕方ないだろ? 皆、いつかこの時が来るんだ》
アルフレッドもそばにいる。
《……アルフレッド。そういやお前もすっかり爺さんになったな。俺と同じだ》
《わたしはずっとあなたと居た。だからわたしもあなたと一緒に行きたい》
《はは、バカ言うな。お前にはトムがいる。そばにいてやってくれ》
《でもどうやって生きていけばいいのかわかりません》
《心配するな。メアリーさんに頼んである。また新たな出会いもあるだろう……》
トムが言う。
《ビンセントさん、また会える?》
《ああ。お前たちとの縁。それは巡り巡ってる。必ず逢えるんだ》
アルフレッドが切なく見つめる。
《……忘れません。ずっと……》
《本当に感謝してる。俺も絶対忘れない。お前たちが大好きだから》
二匹の残像は光の粒となり、声も何もかも感じなくなった。
ビンセントは夢を見終わった。
六十五年の生涯を静かに閉じる。
天に向かって羽ばたく、夢は続く……。