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SPIRITUAL HOME 〜猫のトム・ジョード〜  作者: ホーリン・ホーク
19/30

19.mary's place

 それから一週間後。

 その日ビンセントは気分がよく、タクシーに乗り、メアリーに会いに行こうと決めた。

 このところ毎日のようにメアリーは会いに来てくれる。


 ――でも今日はこちらから行こう……待ってますと、電話で言ってくれた。そんな優しいメアリーに()()を持って、今日はこちらから会いに行こう……と。



 ****



 チェリーズ動物病院の裏庭で。

 休診日、昼下がりの小さなテラスで二人は並んで椅子に座り、ゆっくり話をした。


「……いつも、ありがとうなメアリーさん。助けてもらってばかりで……」

 涸れた声で礼を言うビンセント。

 メアリーは精いっぱいの笑顔だった。

「……そんな、私急に思いつきで行ったりするんで、迷惑だったりしません?」

「ははは……そんなことはないさ。……絶対にない」


 ビンセントの横顔をしばらく見つめ、メアリーは小さく息を吐いた。

 何でも話してくれるビンセントから全てを聞き、祈る日々が続いた。

 ――せめて、それまで、私が支えになれたら……心の支えに。



「……私、またビンセントさんのパンが食べたいです」

 ビンセントはメアリーに微笑み、頷いた。

 空を見上げ、彼は言った。

「……神様はそこにいて見ていてくださる。全ては小さな事だ。気にしなくていいんだよ……」

「ビンセントさん……」

「自分にそう言い聞かせてきた」


 メアリーはビンセントの目を見た後、同じように空を見上げた。

「メアリーさん私はね。天を目指す。天に向かって羽ばたく。そして辿り着いた先でまたパンを焼いて、それをあんたに届けよう……」

 メアリーは肩を震わせ、溢れる涙を覆った。


 ビンセントは膝の上の包みを痩せ細った手で握りしめる。

「メアリーさん、前に一度訊いたが……トムとアルフレッドのこと、本当に?」

「……え、ええ。もちろん。私の方で」

「そうか、いやぁ〜よかった。あの子たちもあんたを好いとる。私の可愛い息子たち、トムとアルフレッドのことをよろしく、お願いします……」


 頭を下げ、ビンセントは包みをメアリーの手に。

「え? これは?」

「息子たちはよく食べる。あと、あの黒猫の手術代も。あんたはいらないと言ったが……また他の猫や犬たちにも同じようなことがあるだろう。助けてやってくれ」

「……これって」

 ずしりと重く、分厚い包み。


「少しばかりの蓄えと、土地を売った金だ。あんたにしか渡せない……」



挿絵(By みてみん)

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