18.nick & vincent
その日の夜、ニック・オルソンが家に訪ねて来た。
咳をこらえながらビンセントは睨みつける。
トムの毛が逆立ち、アルフレッドが吠えた。
「……お前たち、おとなしくしておれ。よく来たなニック・オルソン。さあ中に入ってくれ……話をしよう」
薄明かり、椅子に座って対峙する二人。
骸骨のように痩せ、変わり果てたビンセントをニックはまじまじと見つめた。
「どうしたオルソン。顔がひきつってるぞ……」
「……あ……いや、ビ、ビンセントさん。その……あんたの病気のことは知ってる」
「……ほう。調べたんだな。さすが、市と結託してる……。じゃあ、俺が死ぬのを待つのみ……そう、思ってるだろ? 違うか?」
ニックは額の汗を手で拭い、ネクタイを緩めた。
ビンセントはしばらく咳き込んだ後、喘ぐ息でニックに迫った。
「……だが、やらんぞ! この家は息子たちのものだ! ……絶対に、貴様たちの思うようにさせるものか!」
ニックはたじろぐが、言い返した。
「……あんたに息子などいないだろう? クレイドルズ移民で身寄りもない! 先立たれた女房との間に子供はいなかったはずだ!」
その言葉に、ビンセントはカッとなった。
顔を赤らめ、肘当てに掛けた杖を振りかざした。
「オルソン貴様! ……許さん!」
「ひ、ひぃっ!」
「ワンッ!」
その時ニックの前にアルフレッドが割り込んだ。
アルフレッドは身を呈し、ニックをかばった。
ビンセントを見つめる目が悲しかった。
トムもビンセントの膝に乗ってきて、澄んだ目で何かを語りかける。
ビンセントはふと我に返り、ゆっくりと杖を下ろした。
「……お前たち」そして
「おい。オルソンの息子よ……」
座ったまま胸に手を当て、ニックを指差すビンセント。
ニックはアルフレッドを押しのけ、反った体と乱れた髪を正した。
「……わ、悪かったな……つい、言い過ぎた。だがジョードさんよ。本当にどうするつもりだ? ここを」
「……売るさ」
「え?」
石炭のような黒い目で、痩せこけた頬に執念を滾らせビンセントは答えた。
「ここは、お前たちに売る」
■準備稿 アルフレッドはCVのイメージも。