この異世界転生の能力は/2話
~2章~
え?
沈黙が訪れる。
この状況を理解できる者はいない。あんなに急いでいたアカギですら固まって動かない。
もちろん俺もなのだが。
しかし警報の音がさらに大きくなったのをきっかけにモモカが動く。
「ちょ、ちょっとどういうことが起きているのかわからないけど、今は任務のほうが大事だわ。
アカギ、今のことは一旦忘れて、このエリアを守るわよ!カズヤさんはとりあえずここで待っててください!」
そういってモモカがテントの外に出て行った。
いやちょっと待ってほしい。いや周りも多分やばい状況なのだろうけど。だって銃が粉々に。
でも警報って日本じゃ聞いたことないし、絶対やばいか。いやでも俺の手が……
「ちょっと待ってよ!モモカ!」
俺が混乱しているうちにアカギもモモカの後を追い始める。
そうしてアカギとモモカは明らかに銃声がする方へと走って行ってしまった。
「え?ちょっと、え?」
俺はこのテントに一人取り残されてしまった。いや、なんかもう何が起きてるか分からん。
よし、一旦落ち着こう。うん、そうしよう。
と、とりあえず深呼吸だ。
新鮮な空気を体の中に入れ……いや、荒野の空気はちょっと砂っぽい感じするな。
息を一気に吐く。やっぱ一気に落ち着くのは深呼吸やな。
落ち着いてテントから外を見ると、割と見える範囲で銃撃戦をしていることが分かった。
赤い軍服のようなものを着ている人が10人程度……その中にアカギとモモカがいる。
そしてそれと銃を撃ち合っているのは緑の軍服を着た人たち。こちらも10人程度だ。
多分これがモモカの言っていたレッドとグリーンの戦争なのだろう。
だがどう見てもおかしいところがある。それはどちらの軍も半分以上の人が子供のような背丈なのだ。
子供が戦争に巻き込まれている?やばくね?
そんなことを考えていると、赤い軍服を着た、レッドの中の一人、
元の世界でも戦争にいそうなイメージを持つ大男が悲鳴を上げた。
それは少し離れている俺にも届くような大きい声で。
「死にたくない」と、
――――――――――――その瞬間、大男が倒れた。
大男が倒れた場所の前に、グリーンの軍人が一人いた。
両手で何かを持っている。それは遠くから見てもわかる。
銃だ。
大男は今この瞬間に殺されたのだ。
やばい。この世界はやばい。
ついここで悲鳴を上げそうになる。だがここで悲鳴を上げたら俺がここにいることがバレ、
俺も殺されるんじゃないか。そうギリギリ考えられたので、
何とか声を抑えた。
だがそんな中でも、アカギとモモカは顔色一つ変えず戦っている。
あれ?なんでアカギとモモカの顔が見えるんだ?
さっきまではギリギリ見えるくらいだったのに。
そこで気づいた。大男が倒れたのをきっかけにか、このレッドの領地のほうまで
押されてきていたのだ。もう近くまで来ている。
俺はすぐにテントの中に入り、隠れた。
こちらからも外がどうなっているのかわからないが、
ただただ悲鳴と、銃声が聞こえる。
俺はここで死ぬのか。
そう思った。いや、この状況で思わない人はいないか。
恐怖でもう何も考えられなかった。
さっきまで話していたアカギの悲鳴が聞こえた。
その時、何を考えていたのか俺は自分でもわからない。
幼い時に見たヒーローでも思い出したのか
異世界転生ものにある力というのを信じたか
俺はその瞬間、テントの外に出た。
なぜかはわからないが、俺の頭はいつもよりも早く回っていただろう。
アカギの声がテントの外のどこからしたのか、
どっちから銃声がしたのか、
それが何となくわかった。
だから、俺はアカギと、アカギを殺そうとしている者の間に、アカギを守るように入り、
腕を前にして、アカギを守ろうとした。
自己犠牲で人を守るなんて、俺らしくないのかな。
まあいいか。異世界転生もして、こんなにかっこよく死ねるんだから。
その時の俺は、なぜか少し落ち着いていた。
そしてついに、目の前のグリーンの軍人が、持っている銃の引き金を引いた。
あれ?
生きている。体の感覚がある。
銃を撃たれた瞬間につぶっていた目を開ける。
そこには驚いたような顔をしているグリーンの軍人と、
―――――――――――――銃弾がめり込んだ俺の腕があった。
しかもめり込んでいるというよりもくっついているように思える。
俺は思い出した。自分がハンドガンを手で粉々にしたことを。
そして考えた。
これは異世界転生でもらえる力なのだと。
俺はアニメやネットで見てきたじゃないか。
これこそが俺の能力なのだ。
そう考えたと同時に、俺は目の前のグリーンの軍人を、
殴った。
拳で。
そうすると予想通りに、その軍人は俺の拳を食らい、飛んでいき、
そして気絶した。
「え?」
後ろでアカギが状況を理解できていない感じの声を上げる。
「アカギ、そこで見ていてくれ。」
俺はそこから、この戦争に参加した。
撃ってきた銃は腕で受け止め、
近寄って殴る。
拳で。
これならいける。
そうして俺はこのグリーンの部隊を一人、また一人と倒していった。
戦っている中で思う。俺はこの力を使えば、この異世界の戦争を止めれるかもしれない。幼い時に見たヒーローに、俺がなれるのかもしれない。
気づけば、グリーンの部隊は完全に壊滅していた。
「お、もう一人1試験をクリアしたようですよ。」
「早いな、誰だ?」
「27番の大島秀樹……って、鈴木和也と同じグループじゃないっすか!」
TO BE CONTINUED