俺に送られて来た迷惑メールはおかしい気がする。
テロン。
パソコンで適当にネットサーフィンをして楽しんでいたら不意に携帯がメールの着信を訴えてきた。
どうせ友達のいない俺の携帯だ、十中八九いつものだろう。
『締め切り迫る!豪華景品を手に入れることができるのは今だけ!今すぐこちらのサイトにアクセス!』
予想通り迷惑メールだった。
俺は慣れた動作で迷惑メールを消し去り、再びネットサーフィンへ。
テロン。
……またか。
『『えっと、このアドレスってたかし君のアドレスだよね?明日の授業のこと聞きたいんだけど、いいかな?』
出た、メールアドレスを間違えてしまったふりをしているタイプだ。
誰だよたかし君、知り合いにすらいねえよ。
テロン。
ツッコミを入れている間に次のメールが来てしまった。
『やめろ沙紀!君だってあれを見たはずだろ!?もう、たかしはいないんだよ!』
急にどうした。
あれ?これ迷惑メールだよな。
ガチでどこかの人たちが間違えてCCで俺にもメールしてるとかじゃないよな。
テロン。
『何を言ってるの?たかし君は今日も学校に来てたでしょ?』
テロン。
『馬鹿を言うな!たかしが死んだのは昨日だぞ!?今日担任も言ってただろ!たかしが、死んだって……』
テロン。
『もう、いくら天君だからってそんなこと言ったら怒るよ?』
テロン。
『そんな、沙紀、君は、壊れてしまったというのか?』
テロン。
『【衝撃映像】自由に空を舞う僧侶の謎に迫る!!動画はこちらから!』
うるせえ今いいところなんだ黙ってろ!
はっ!
しまった!
気が付けばこの沙紀と天の会話劇に夢中になっていた。
幸いメールを開封することはなく、見れる範囲だけで見ているのだが。
恐ろしい、最近の迷惑メールは開かせるためにここまでやるというのか。
テロン。
『あなたに人形の御届け物が届いております。こちらから住所やお名前を入力していただけるようお願いします。』
今度は景品当選系だろうか。
人形の御届け物て、いい年した男に人形って。
いらんわそんなの。
テロン。
『住所やお名前を入力していただけない場合はこちらの人形を破棄させていただきます。』
別に破棄しても構わないので住所は送りません。
テロン。
『沙紀、一度会って話そう。』
戻ってきやがったな天。
テロン。
『いいけど、どうして?』
お前の精神状態がやばいからだよ。
テロン。
『今の君を放置しておくのは危険そうだからね。』
いやお前もストレートに言いすぎだろ。
テロン。
『ふーん。よくわからないけど、わかった。どこで会うの?』
それでいいのか沙紀。
テロン。
『そうだね、じゃあ無菜月ショッピングモールで待ち合わせをしよう。』
は?
無菜月ショッピングモールってすぐ近所じゃん。
マジでこのメール俺の携帯に混線してるの?
テロン。
『これは呪いのメールです。10分以内に3人に同じ文章のメールを送らないとあなたに不幸が訪れるでしょう。』
今度はチェーンメール系か。
基本的に受け取った人の不安をあおることが多いが、今どき呪いのメールとか言われてもな。
テロン。
『≪忠告≫これ以上メールを無視されるようでしたらこの人形は本当に破棄させていただきますがよろしいですか?』
まだあきらめてなかったのか人形メール。
いらねえって。
普通いらねえって。
テロン。
『【極秘ニュース】巷で話題の空飛ぶ僧侶が本日無菜月ショッピングモールに来ているかも!?詳しくはこちら!』
え、何?
無菜月ショッピングモールはいつから迷惑メールの代名詞になったの?
テロン。
『私メリーさん、今焼却炉から蘇ったわ。』
今度はなんだ!?
メリーさん?
あの都市伝説の?
せめて都市伝説に準拠に電話かけて来いよ!
テロン。
『わかった、じゃあ今から行くね。』
いや、来るな!
って違う、これ沙紀のメールだ。
沙紀が無菜月ショッピングモールに向かい始めたのか。
テロン。
『私メリーさん、今寺岡駅で電車に乗ったわ。』
これ、メリーさん俺んち来る気?
なんで?
メリーさんてあれだろ?
捨てた人形が持ち主を殺しに来るっていう都市伝説。
俺人形なんて……人形?
テロン。
『メールに対応していただけなかったようですので、こちらのほうで人形を破棄させていただきました。クレームは一切受け付けません。』
お前か。
お前のせいか。
え?
俺これ悪く無くない?
なんでターゲッティング俺なの?
テロン。
『【衝撃映像】怪奇!自動で動く呪われた人形!動画はこちらから!』
嘘だろお前!?
見る?
これ見る?
いや!
これはただの迷惑メール!
偶然他の迷惑メールと話が一致しただけ!
これは罠だ!
テロン。
『今僕無菜月ショッピングモールについたけど沙紀のほうはどう?』
天がショッピングモールに到着か。
テロン。
『私メリーさん、今無菜月駅に着いたわ。』
メリーさんが無菜月駅に到着か。
待って、メリーさん移動早くない?
テロン。
『私も今着いたよ。今ね、変な服着たおじさんの近くにいる。』
変な服を着たおじさんとは。
テロン。
『ちょっとそれじゃわからないんだけど、大まかにどのあたりか教えてくれる?』
ごもっともだ。
いくら妙な格好をしたおじさんだとはいえ待ち合わせ場所には向いていないだろう。
テロン。
『見たらわかると思うよ?おじさん浮いてるから。』
浮いてるのか。
無菜月ショッピングモールは結構人多いからな、よほどやばい恰好をしているに違いない。
テロン。
『【衝撃映像】宙に浮く僧侶再び!驚愕に包み込まれるショッピングモール!動画はこちらから!』
またお前か僧侶……待て。
浮いてるってまさかそういうことか?
物理的に浮いてるのか?
テロン。
『私メリーさん、今無菜月ショッピングモールにいるわ』
メリーさん、お前もか。
なぜだ、あの無菜月ショッピングモールにいったい何があるというんだ。
まあ確かに駅と我が家の中間くらいの位置にあるといえばあるが、わざわざそこを通るか。
テロン。
『浮いてるといってもね……というか今やばい気配をまとった人が歩いて行ったんだけどあれなんだろう?沙紀何か知ってる?』
マジで来ている。
やばい気配をまとっているらしい人形が俺に向かってきている。
え、どうしよう。
テロン。
『⦅緊急速報⦆無菜月ショッピングモールにて不審者が目撃されました。心当たりのある方は情報をお願いします。』
ええ、なにこれガチかな。
呪いの人形だと思いますって情報を提供するべき?
いやこれも罠!
きっとメールを開いた瞬間俺の携帯がウイルスに飲み込まれるに違いない。
テロン。
『【中継】話題の僧侶VS怨念の塊のような化物!!勝つのはどっちだ!?生放送はこちらから!』
なんだと!?
やっているのか僧侶!
戦っているというのか僧侶!
マジでいったい何者なんだ僧侶!
テロン。
『今すごいことになってるよ、おじさんとさっき天君が言ってた人が本気の戦いを繰り広げてるの。』
沙紀大丈夫なのかそんなところにいて?
テロン。
『そっちでいったい何が起きているんだ!?』
俺も同じ気分だ天。
テロン。
『私、私メリーさん、今、今無菜月ショッピングモールで戦っているの。』
メリーさん結構余裕じゃない?
頑張れ僧侶!
負けるな僧侶!
割とガチで俺の未来がかかってるかもしれない!
テロン。
『【中継】化物に語り掛ける僧侶!!一層暴れまわる化物!!果たして決着はどうつくのか!?生放送はこちらから!』
何してるの僧侶!?
諭してるの!?
何らかの諭しスポットを見つけてしまったの!?
テロン。
『わ、私はメリー、違う!私は!いや俺は!』
なんだ!?
本当に何が起きている!?
諭したのか僧侶!
諭されたのかメリーさん!?
テロン。
『あ、あれは!まさか!そんな!』
どうした沙紀!
お前は何を見ているんだ!?
テロン。
『沙紀!本当にそっちで何が起きてるんだ!?』
天お前はいつまで沙紀と合流できてねえんだよ!
双方がショッピングモールについてから結構経ったはずだろ!?
テロン。
『たかし君……』
はい!?
テロン。
『そうだ!俺はメリーさんなんかじゃない!たかしだ!』
どういうことなんだよ!?
たかしお前は死んだはずだろ!?
テロン。
『たかしだと!?そんな馬鹿なことがあってたまるか!!』
おお、言ってやれ天!
急展開過ぎて俺もついていけねえ!
テロン。
『そうだ、俺は昨日、背中を押されて、それで』
まさかここでたかし死亡の真実が判明するのか!?
テロン。
『嘘!?あれは自殺じゃなかったの!?』
テロン。
『あの時俺の背中を押したのは!』
テロン。
『やめろ!それ以上は言うんじゃない!』
テロン。
『沙紀、そう沙紀だ!』
え?
テロン。
『え?』
テロン。
『ああ……』
テロン。
『【中継】人の姿を取り戻した化物!彼から語られる衝撃の事実とは!?生放送はこちらから!』
うるせえ黙ってろ中継!
テロン。
『そんな、私、私は、いや、嘘、そんなわけ、でも、違う。』
テロン。
『……もうどうにもならないか。』
テロン。
『沙紀、なぜ、なぜ俺を殺した?どうしてそんなことをした?』
テロン。
『事故だったんだよ、あれは。』
テロン。
『事故だと?』
テロン。
『誰も悪くなかったんだ、しいて言うならたかしの運が悪かった。』
テロン。
『≪期間限定≫今ならポイント三倍!ネットスーパー大安売りセール中!詳しくはこちらのURLから!』
関係ない奴は黙っとけって言ってんだろ!
テロン。
『昨日沙紀は軽いノリで君に突進したんだ、普段のじゃれあいみたいなものでね。』
テロン。
『確かに沙紀はそういうことをするやつだったが。』
テロン。
『いつも通りならよかったんだけどね、その時運悪く突風が吹いた。』
テロン。
『そうか、それで体勢を崩した俺は階段を転げ落ちたのか。』
テロン。
『そう、急いで僕が駆け寄ったときには既に君は頭から血を流して絶命していた。即死だったよ。』
テロン。
『そうだ、私、私……』
テロン。
『あまりのショックだったのか沙紀は自分がたかしを付き落とした瞬間の記憶が飛んでいた。そんな沙紀を見て僕はこれを事故にだったことにしようと思ったんだ。たかしには悪いけどね。』
テロン。
『記憶が、ねえ』
テロン。
『幸い目撃者はいなかったし、佐紀の記憶も飛んでた。僕がやるのはたかしが足を滑らせて落ちた、ということを教師や警察に話すだけでよかった。なんていったって証拠も動機も存在しないんだから。』
テロン。
『突進されたときも別に手は使ってなかったからな、指紋すら残ってなかったか』
テロン。
『そんなわけで君の死は事故になった。それで何もかも済むはずだった。それなのに。』
テロン。
『俺が悪霊となって復活し佐紀の記憶を掘り起こしちまったってわけか』
テロン。
『もうどうしようもない。記憶を取り戻した沙紀が罪悪感に耐えられるとは思えないし、虚偽の証言をした僕もついでに偽証罪だね。まあこればっかりは自業自得かな。』
テロン。
『そんな、そんな、嘘、嘘よ、違う、でもこの記憶は、私が、私がたかし君を。』
テロン。
『【悲しい末路】仲のいい学生三人による死亡事件と隠蔽の真実。こちらから読めます。』
誰なんださっきから撮影したり文章まとめたりしてる奴。
テロン。
『なんか、悪かったな。』
テロン。
『いや、君のことも考えずに勝手に事件を隠蔽した罰が当たったんだ。ある意味これが正解だったのかもしれないよ。』
テロン。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。』
テロン。
『じゃあ俺はそろそろ行くからな。』
テロン。
『行ってしまうのか?』
テロン。
『真実を知ったことで怨念も消え去ったからな、これ以上は留まっていられないんだわ。』
テロン。
『そうか、僕からも申し訳なかったと言っておくよ。』
テロン。
『謝る必要はねえさ、それこそお前が最初に言ってただろ?悪かったのは俺の運くらいだって。』
テロン。
『……行っちゃったね。じゃあ沙紀、僕たちも行くべき場所に行こうか。』
テロン。
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
テロン。
『ああ、僕はやっぱり間違っていたのかなあ。』
ここで先ほどまで続いていたメールラッシュが止んだ。
なんか一つの物語を見せられた気分だ。』
……なんだこの迷惑メール。