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剣人  作者: はむ星
余話
113/113

余話其の伍

ちょっと長めになりました。

 今里悟志がいかに古流剣術を修めていようとも、いかに幼馴染みによる激烈な地稽古に慣れ親しんでいようとも、慣れない実践において二対一という事実はいかんともしがたかった。


「手こずらせやがって……」


 悟志は今だ健在。

 だが体のいたる所に切り傷を負っている上に、その息はエンスト寸前の車のように上がってしまっている。

 何より手にした木刀は、その長さを半分へと減じていた。


(一対一なら敵わねぇ相手じゃねえんだがなぁ……)


 それが泣き言であることは悟志も承知していた。

 まともに戦ったなら、二対一でもまだもう少し持ち堪えられただろう。

 だがこの場には悟志だけではなく、硲悠理がいる。

 一体どうやったのか素手の黒ジャケットの男をついにはKOしてくれた戦力なのだが、彼女もまた素手である以上、刀を持つ者の相手はさせられない。

 それに気づいた白帽子と赤コートの男たちは、悠理を狙う素振りを見せて悟志の集中力を削る手段に出てきた。

 彼女を守ろうと動いた悟志は、体力と気力の消耗から来る注意力の摩耗により、ほんの少し対応を誤って木刀を切り飛ばされたというわけだ。

 まんまと術中に嵌まったわけだが、まさか無視するわけにもいかなかっただろう。


「今里先輩……!」

「来るな、よ。硲。邪魔に、なる」


 泣きそうになりながらこちらを見ている悠理に、息を整えようと四苦八苦しながらも念を押す。

 彼女は力こそ強そうではあるが、動きは悟志から見ても素人。

 刀相手では足手まといにしかならない。


「得物が無ければ戦えまい。我らとここまでやり合えるとは驚きだが、それもここまでだ」

「まだ、半分ある……だろ」


 半分に断たれた木刀を構え、荒い息に肩を激しく上下させながらも軽口を叩く悟志。

 ここに至るまでかなりの時間を稼いだが、その代償に体力の消耗は著しい。


「そんなもので何が出来る!」


 斬りかかってくる白帽子。

 その動きに被せるように、悟志はその半分の木刀を投げつける。


「な……っ!?」


 まさか頼みの綱を投げつけてくるとは思っていなかったのか、それをかろうじて避けた白帽子が体勢を崩す。

 その隙に悟志は、麻衣が黒ジャケットから奪って取り落とした刀へと走る。

 最初から拾わなかったのは、真剣を扱い慣れていない自分では木刀の方が戦えると判断していたからだ。

 その判断は間違っていなかったという自信があるが、木刀が使えなくなった以上選り好みはしていられない。


「させるかよ!」


 白帽子の意表は突けたものの、少し離れて見ていた赤コートはすぐに悟志の意図を読んでその背中へと肉薄する。


「ちい……っ!」


 万全ならば、そうであっても余裕を持って間に合っていた。

 だが疲労困憊した体は悟志の動きから本来の鋭さを奪っていた。


「貰った!」


 刀を拾おうとかがみ込んでいた悟志の首筋へと凶刃が振り下ろされる。

 必殺を確信した赤コートは、しかし次の瞬間に困惑することになった。


「な……!?」


 そこにあったはずの背中が忽然と消えたのだ。

 錯覚ではないことは手応えが無かったことからも明白。

 狼狽して周囲を見回した赤コートは今まで目の前にいたはずの悟志が、なぜか少し離れたところで誰かに抱えられているのを発見する。

 そこでようやく今までいなかった人物がいることに気づいた。

 一人は先ほど逃げた女。

 そして男を抱えているもう一人は。


「村正……!?」


 そう呼ばれた桜色の道衣の彼女は、狼狽える男たちに能面のような顔での一瞥を投げると、左脇に抱えていた悟志を隣の麻衣に寄りかかるようにして座らせ、さっきの顔が嘘のような笑顔を浮かべた。


「頑張ったね、悟志。ちょっと頑張りすぎだけど」

「やりたくてやったわけじゃねえけどなぁ……。まあ、間に合ってくれて助かったよ」

「悟志……!」


 張っていた気が緩んだのか、悟志に抱きついて泣き始める麻衣。

 その麻衣の頭を撫でながら、幼馴染みを見上げる悟志。


「本当は見ねえ方がいいんだろうが……ここまでされたんだ。深入りする気はねえけど、決着は見届けさせてくれ」

「……うん」


 若干あった間は、何も知らない者を巻き込んでしまうことによる葛藤か。

 それを理解しつつも、悟志は見届けることを選び、そして伊織もまたそれを了承した。


「硲さんだよね。あなたもこっちへ」

「えっ? あ、う、うん」


 動くことによって残る白帽子と赤コートが刺激されはしないかと、悠理はおっかなびっくりそちらへと歩くが、二人は唐突に現れたこの女性に気圧されているかのように動かない。

 全員を自分の後ろに庇うと、伊織はそこでようやく残る二人に顔を向けた。


「何をしているのかな。普通の人を相手に」


 裾を絡げていた下げ緒を解きながら、静かに問いかける伊織。

 その動作は明らかな隙であったが、男たちはそれでも微動だに出来なかったようだ。


「……その女は鬼人だ」

「だから?」


 にべもない反応に、男たちだけでなく後ろで聞いていた悠理も思わず目を瞬かせる。

 そこでようやく男たちは呪縛が解けたように叫び始める。


「だから? ではない! 鬼人は滅さねばならない!」

「だから、なぜ?」

「鬼人は人を食う。知らんとは言わせんぞ!」


 激昂する白帽子と赤コート。

 しかし伊織はそれに一向に感化される様子は無かった。


「まだそんなことを信じてるわけ? 鬼人にあるのは衝動であって、それは十人十色。中には食人衝動を持つ鬼人もいるだろうけど、そもそも衝動は訓練で抑えられる。実績も上がっているんだけど」

「そんなのはまやかしだ! いずれ化けの皮が剥がれるに決まっている!!」


 吠える二人に、伊織は軽いため息をついたようだった。


「では鬼人は滅さねばならないのだとして。そんなものが、一般人を襲った言い訳になる、と本気で思っているのかな?」

「う……。だ、だが、鬼人を庇う以上は鬼人の可能性が……」

「この二人は僕の幼馴染みだよ。先代三日月とも知り合いだったし、それはあり得ない。まあ、それを知らなかったのは仕方ないとしても」


 細められた視線が、まるで氷の針のように二人に突き刺さる。


「そんなあやふやな根拠で無関係の一般人を殺めようとしたわけ?」

「ぐ……っ!?」


 伊織から殺気の類は発せられていない。

 だが男二人は明らかに気圧されていた。


「あなたたちの行いは旧来の剣人ののりに照らしてみても違法。ましてや今の剣鬼法では相手が何者であれ、剣鬼監察の許可無く害することはならないと明文化されている」


 淡々とした指摘に、男たちの顔が醜く歪んでいく。


「剣鬼監察調停部隊元締、村正として告げる」


 凜とした声がより一層の張りを持って場に響き渡った。


「あなたたちの立場、動機がどんなものであろうと、今回の行動は看過できない。捕縛して剣鬼監察本部に引き渡す。申し開きはそこでして貰うよ。神妙にするなら良し、そうでないなら取り押さえるしかないけど」

「くそっ! 鬼人と迎合するような奴に負けるかよ……!」

「応、挟み込むぞ!」

「……警告はしたよ」


 左右に分かれて迫ってくる白帽子と赤コート。

 その手には当然ながら刀が構えられている。

 対する伊織は手ぶらで構えすら取っていない。

 だが。


「ごぶぉっ!?」


 突如として赤コートが派手に吹っ飛ぶ。

 何事かとそちらを見た白帽子の目に映ったのは、今まで赤コートがいたはずの場所に立っている伊織。

 そしてそこからまばたき一つの間に自らの前に至ったその姿だった。


「化け物……!?」


 悲鳴のような声を上げた白帽子の首筋に手刀を叩き込み、意識を刈り取る。

 伊織は『鞘』から刀すら抜いてはいなかった。


「鍛錬が足りないだけだよ。一刀さん相手にはまだまだ負け越してるんだから」


 倒れ込む二人は、その冷ややかな言葉すら聞こえたかどうか。

 戦いとすら呼べないほどに一方的な蹂躙劇だった。


「い、一体何が……」

「見えなかった……」


 戦う訓練をしていない悠理、まだ一般レベルの麻衣には、何が起こったのかすら分からなかったようだった。


「強いのは知ってたけどよ……。出鱈目さに磨き掛かってねえか」


 かろうじて伊織の動きを知覚できた悟志も、あまりのことに引き攣ったような笑みをかろうじて浮かべるのみ。


「悟志、怪我の方は大丈夫?」

「あ、ああ」


 振り向いた幼馴染みは余りにもいつも通りで、却って悟志は困惑する。

 だが、いつも彼女に感じていた自分たちとは違う何かに、ようやく確証を得た気分でもあった。


「ごめんなさい、巻き込んで。そっちの人も」


 後ろから聞こえた声に悟志が振り向くと、申し訳なさそうな顔をした悠理が麻衣と自分、そして伊織に対して頭を下げているのが見えた。


「ううん、放っておけなかったし」

「麻衣の言う通りだぜ。それに、俺は麻衣を助けに来ただけだ。気にすることはねえよ」


 二人の言葉に感謝するように目を伏せた悠理に、今度は伊織が声を掛けた。


「むしろ謝るのは僕の方かな。こういうのが出ないように目を光らせとかなきゃいけないんだけど、今回後手に回っちゃったし」

「あなたは、剣人……なの?」

「んー」


 悠理の質問に言い淀んだ伊織は、悟志と麻衣の方に目を向けた。


「今更な気もするけど、ここから先、聞く? 僕は聞かない方がいいと思うし、深入りすると危険な話なんだけど」


 恐らく二人が巻き込まれた当事者でなければ、伊織はこの選択肢すら与えず場を外させただろう。

 当事者となってしまったがゆえに聞く権利はあると判断して、それでも安全のために聞いて欲しくないのだという、その伊織の思いを理解できない悟志と麻衣ではない。

 だが、二人ともほとんど同時に頷いた。


「聞かせてくれよ。おまえが深入りするなってんなら、それは守るからよ」

「うん、私も悟志と同じ」


 意思の固そうな二人を見て、伊織は端から翻意するのは諦めていたのか、軽く肩をすくめる。


「分かった。でも、聞くだけだよ。質問とかは無し」

「ああ」

「うん、分かった」


 二人が同意したのを確認して、伊織は悠理へと向き直る。


「さっきの質問だけど、僕は剣人であって、鬼人でもあるよ。今の剣人会では剣鬼って呼んでるけど」

「剣人で、鬼人!?」

「うん。まあ、珍しいよね。現状三人しかいないし、増えることもないとは思うんだけど。あ、ちょっと失礼」


 懐をごそごそと探って裾を絡げるのに使っていた下げ緒を取り出した伊織は、KOされた三人の男を引きずってくると、その腕と足をまとめて縛り上げた。


「これで良し、と。それで、硲さんは鬼人なんだ?」

「その血筋だって聞いてはいたんだけど……」

「っと、待って。誰か来た。多分真也たちだけど」


 言いかけた悠理を手で制し、来た方向へと顔を向ける伊織。

 物音も声もしないため首を傾げていた悠理だったが、やがて伊織の言った通りに四人の男女が姿を現した。

 そのうちの一人の姿を見て思わず声を上げる。


「守……!」

「悠理!」


 悠理を見るや一目散に走ってきた阿多野は、彼女を抱きしめようとしてその肩の傷に気づいた。


「おまえ、それ……くそ、どいつがやりやがった……!」


 殺気すら放って周囲を見回す阿多野だったが、悠理が彼の前から後退るのに気づいて困惑したような顔になる。


「悠理……?」

「ごめん、守。でも、もう一緒に居られないから」

「お、おい? どういうことだよ!」


 一気に形作られようとした愁嘆場に、水を差すように手を鳴らす音が響いた。


「はーい、ちょっと注目」


 ことさらにのんびりとした口調で言ったのは、言うまでもなく伊織である。


「まず阿多野先輩に質問その一。見ての通り硲さんは関わって欲しくないみたいだけど、大人しく身を引く?」

「はあ!? んなわけねえだろ!」


 心外だと言わんばかりの阿多野に、伊織はさらに続ける。


「その二。踏み込んだら彼女が傷つくかもしれない……というよりほぼ確実に傷つくとしても?」

「傷つけるのは嫌だ。でも、ここで引いたら、悠理。おまえ、もう俺の前に出てこない気だろ?」」

「……」


 その阿多野の言葉に困ったような顔で悠理は沈黙を保つ。

 それは阿多野の言った通りであることを物語っていた。


「それじゃ最後の質問。硲さんのために命を掛けることはできる?」

「ああ? あたりまえだろ、そんなの」

「へえ。――本当に?」


 その一言で周囲の気温が一気に下がったような錯覚に囚われる。

 いつ抜いたのか、伊織の持つ真剣が阿多野の首筋に当てられていた。

 その事実もだが、それよりも。


「これでも、命が掛けられる?」

(なんだ、この殺気――!)


 まるで空気が音を立てて軋み、圧倒的な質量を持って己にのし掛かってくるかのような感覚。

 凍てつくような目でこちらを見ている伊織は、阿多野がいい加減な答えを返せば本気でその刃を引くだろう。

 それが本能的に理解できる。

 己の顔から血の気が失われているであろうことも、歯の根があっていないことも自覚しながら、阿多野はひりつく口をかろうじて開いた。


「悠理は、俺のすべてだ」


 短い言葉を舌の上に乗せるのに全精力を傾けねばならなかったが、どうにかそれをやり遂げる。

 彼がそれを口にした途端に、場を支配していた重圧は綺麗に掻き消えた。


「ってことだけど」


 抜いたときと同様にいつ、どこに納めたのか分からないが伊織の手には刀はもう無く、その顔は悠理へと向けられていた。

 殺気は綺麗さっぱり、余韻すらも残さず消え失せていた。

 その悠理は今し方伊織が放った殺気に当てられたのか、青い顔でよろめいていたが。


「伊織、やり過ぎじゃないか?」

「うーん。でもこのくらいしないと覚悟が分からないし……」


 やり過ぎである自覚はあったのか、真也の指摘に否定はせずに唸りながら、伊織はよろめく彼女を支えて声を掛ける。


「これだけ覚悟がある人なら、打ち明けてみてもいいんじゃないかな」

「え……」


 思いも依らなかったことを告げられた顔でぽかんと口を開ける悠理に、伊織は笑い掛ける。


「どうせこれでさよならするつもりなら、言っても同じだよ。もちろん拒絶されるかもしれないけど、このままだと阿多野先輩、ずっと硲さんを追いかけて来そうだし。ほら、しつこいのってすごくしつこいから」

「なぜそこで俺を見る、黒峰」

「なんでだろうね」


 たっぷりと意味を込めた顔の割に一言で済ませると、伊織は悠理を阿多野の方へと軽く押して、自分は邪魔をしないようにと悟志たちの方へと下がる。


「守……」

「悠理、話してくれ。聞かずに納得なんてできねえよ」

「……分かった。あんた、本当にずっと追いかけてきそうだもんね」


 泣き笑いのような顔で、悠理が阿多野に語る。

 己が鬼人という人外の血筋であること。

 その血が今になって表れてきて、自制が効かずに暴力を振るうようになってきたこと。

 それが理由で阿多野から離れていたこと。

 これは治まるものでもなく、もう一緒にいられないこと。

 鬼人である証拠として、肩の傷がもう塞がっていることも見せる。


 ところどころ伊織の補足も交えながら語られたことを、阿多野は何も言わずただ聞いていた。


「以上よ。ごめんね、守」

「……それがなんだってんだ、この馬鹿が」

「守?」


 思わずといった風情で漏らした阿多野の一言に、首を傾げる悠理。

 直後に大喝が響き渡った。


「なぜ、最初に俺を頼らねえ!!」


 言葉の内容とその大声に思わず目を瞬かせる悠理に、阿多野は畳み掛けるように叫ぶ。


「暴れなきゃ治まらねえんなら俺が相手してやる! 狙ってくる奴がいるんなら俺が守ってやる!」

「で、でも私は人じゃなくて……」

「おまえが悠理なら、俺はそれでいいんだよ。人だから惚れたわけじゃねえ!」


 言葉だけでは足りないとばかりに、阿多野は悠理を抱きしめる。


「守……」

「それとも、俺じゃ頼りになんねえかよ……」


 嗚咽をかみ殺したような声に、思わず悠理も阿多野の背へと手を回す。


「そんなこと……そんなこと、ない」

「ついでに補足しとくと、さっきも言ったけど鬼人の衝動は訓練で抑えられることは実証済みだよ。あと襲ってくる奴もいないとは言わないけど違法だし。なんならしばらく剣人会から護衛付けるよ。多分真也か清奈になると思うけど」


 鬼人に成ったばかりで内情にあまり詳しくないであろう悠理の代わりに、伊織がフォローを入れる。


「本当に……抑えられるの、これ?」


 鬼人が覚える衝動は軽くはない。

 だが視線を向けられた伊織は迷いなく頷いた。


「うん。地道で苦しい訓練にはなるし、マニュアル化がまだ出来てないから、直接教わる必要があるけど。でも、それさえ出来るようになれば今まで通りの生活ができるよ」


 それを聞いた悠理の顔が希望を見出したことで明るくなり、その顔を見た阿多野もまた喜色を浮かべる。


「それじゃあ……」

「うん、一緒にいられるみたい、守……!」


 抱き合って喜ぶ二人に小さく微笑んだ伊織は、次に幼馴染み二人に目をやった。


「二人ともごめんね。巻き込んじゃって」

「ううん。私が首突っ込んじゃったから」

「麻衣は悪くねえよ。伊織も、硲もな。悪ィのはそこに転がってる奴らだろ」

「ま、それはそうなんだけど」


 数珠つなぎに転がされている三人の男に視線をやりながら悟志の言葉に頷いた伊織だったが、幼馴染み二人が話を聞いた後も態度を変えないことに内心ほっとしていた。


「この人たちは僕の方で責任もって預かっとく。どういう処分になるかは分からないけど、迷惑は掛けないようにするから」

「ん。そこは信用してる」

「伊織だもんね」


 二人の信頼に思わず笑みをこぼした伊織に、携帯でどこかへ電話をしていた砂城が声を掛ける。


「黒峰、大典太と連絡が取れた。友切の奴らが引き取りに来るそうだ」

「ありがとう。とんだ休暇になっちゃったね」

「……大学に出ている時点で休暇とは言えんと思うのだが」

「そうです。この後はきっちり遊びに行きますからね、伊織さん」


 清奈の言葉に苦笑しつつ頷く伊織。


「その後でいいから地稽古に付き合ってくれよ、二人とも」

「真也さん……」


 稽古馬鹿な恋人に普段は同調するものの、こういう時くらいは気を利かせてもいいのではないかという視線を向ける清奈。


「稽古はともかく、遊びにはついてっていいんだよな、俺たちも」

「俺と悠理も行っていいか? こうなったら遊びたい気分なんだよな」

「む……俺と黒峰以外は皆恋人同士か……」

「ふふ、砂城先輩もなかなか粘り腰ですよね。伊織さん目当てならそれも当然ですけど」

「いやちょっとそこ何話してんのかな!?」


 突っ込みを入れつつも、伊織はこう思う。


(剣人と鬼人の融合なんて大それたことだと思っていたけど……)


 鬼人である悠理を、それと知りつつも受け容れる阿多野のような者もいる。

 案外、成せば成るものなのかもしれない、と。

 剣鬼となった身でも激務であり、辛いこともまた多い道のりだが、このような出会いがあるのであればそこを歩く甲斐もある。

 そう感じたのだ。


「よし、今日はみんなでぱーっと行こっか!」

「おう!」

剣人としての物語は以上となります。

お付き合い、ありがとうございました。

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