第六話
投稿した時間とは正反対のシチュエーションですね。
ある世界の、小さな洞穴に光が差し込み、その眼下に広がる森林では、動物たちの囀りや鳴き声が朝の到来を告げている。
しかし、自然の目覚まし時計もすやすやと眠る猫の前では意味をなしていなかった。気持ちよさそうに自らの尻尾と耳を丸めて寝ているのは最近獣人になったばかりの紅(元男)である。猫の獣人になった影響なのか無自覚にやっているようだ。本来は猫は寝ている時も耳だけは立てて警戒しているものなのだが……彼女にとっては関係のないようである。
「おーい、いつまで寝てんだ。そろそろ起きろー」
ぺちぺちと紅のおでこを叩く陽太。彼は先ほどまで一睡もせず日が昇るまで見張りをしていたにもかかわらず目の下にはくま一つできておらず、年齢に似合わない強さがうかがえる。
「寝坊助さ~ん? 起きないといたずらするぞ~? なんてな」
「……すぅ……んぅ……すぅ……」
「(くっ、こいつ……寝顔もかわいいじゃねぇか。……っていかんいかん)何考えてんだ俺は」
自分の中の変な葛藤に翻弄されつつも、結局は紅を普通に起こした。
陽太に無理やり起こされまだ目が覚めておらず、目は開いていない。せっかくの綺麗な白髪が少しぼさついている。手を引かれ、目を擦りながら紅は寝言のように不満を言う。
「……ぅにゅう……まだ眠いよぉ」
萌え袖の状態で、しかもダボついた服のままその言葉を発するのは世の健全な男子たちにとってはとんでもない破壊力を有している。眼尻には欠伸のせいか少し涙が溜まっており、かつその美しい声がマッチして守ってやりたいという庇護欲を誘う。
このときも陽太の中で「こいつッ……俺を殺す気か?」などと悶絶していたのも秘密だ。
数メートルを数十メートル歩いたかの思いで朝日の差し込む外にでた2人。暗所から出たことで目が眩む紅だが、それにより目が覚める。それと同時に意識の覚醒も始まり先ほどの言動に羞恥を覚えた紅は顔を真っ赤にしていた。
「ん? 紅、顔が赤いぞ、どうかしたか?」
「ぃ、いや!……なんでも、ない」
「そうか、なにかあったら遠慮なく言ってくれよな」
「わ、わかった」
たどたどしく荷物を片づける終えた紅は先に待っててくれた陽太に礼を言いながらも、崖を下りるということに不安を抱いていた。……が、そんな不安も陽太を信頼している紅にとっては些細なことだった。すぐにその不安を払拭し、陽太の待つところへ走っていくのだった。
彼らの新たな旅立ちを自然が祝福しているかのように、風が吹いていた。
読んでくださってありがとうございます!
紅の陽太に対する信頼はどこからきているのでしょうね?
その辺の話もいつか必ず入れるつもりです。
一話一話が短いのですが、温かい目でゆっくりと付き合ってくださると嬉しいです。