第三話
今回は少しだけ紅の描写を入れてみました。陽太の描写は後程。
洞穴から出てきた紅は開口一番、悲痛な顔とともに震えながらこう言った。
「どうしよう……僕、猫の女の子になっちゃった」
「そうらしいな」
しかし、陽太が見せた反応は意外にも淡白なものだった。同時に紅も意外と落ち着いているのは先ほど述べた父の教えのおかげだろう。
「反応が薄いよ!僕、女の子になっちゃんたんだよ!?」
「いや、だからさっきそういっただろう」
「……え?さっきのあれってそういうことだったの?」
一呼吸ほどの間考えてやっと理解する。どうも紅という人間はあまり物事を深く考えることのできないタイプの人間、もとい獣人らしい。
「その尻尾と耳もふつうすぐに気づくだろう、ニブチンめ(ボソッ)」
紅は「ん?なんか言った?」と最後の言葉を聞き返すが、陽太は微笑しながら「いや、なんでもない」と返す。
本当は聞き取れるようなつぶやきではなかったが、動物並の聴力を得た紅は容易に聞いとることができていた。それを知ったうえで言った陽太も陽太なのだが、彼は紅の不機嫌全開でほっぺを膨らます表情を堪能したかったからとは口が裂けても言えない。
猫は機嫌が悪いと犬とは反対に尻尾を振るという。それが今まさに紅の背後で起きている。長すぎず、かといって短すぎない毛並みは見てわかるように純白の白さを放っていた。尻尾が左右に揺れるたびに、そのなめらかな誘惑をつかみたいという衝動に駆られるのは必須だった。もちろん、陽太も例外ではない。
その上、紅の真っ白になった頭に上左右にはまごうことなき猫耳なる世のケモナーの大きな萌え要素の一つがその存在を主張している。ああフコフコしたい。おおっと、つい本音が……コホン、失礼。
閑話休題。
さて、今の自分の自分の現状を理解できた紅は陽太にこれからの予定を聞く。
「これからどうするの陽太?ここには洞穴しかないし、しかも崖だし……」
「思いのほか落ち着いてるな。俺としちゃ慌てるお前が見たかったんだがな」
またそうやって僕をからかう。昔っから陽太にはいじられてるからもう慣れたけど、結構恥ずかしいこと平気で言ってくるんだよなぁ。ここに来る前の陽太との思い出に浸るが、今はそれどころではないと思考を戻す。
「とりあえず今日のところはここで野宿だな。ラッキーなことにさっきまで持ってた飲み物と菓子パンくらいはあるしな。まだ陽は沈んではないが今からじゃあの建物までは多分間に合わない。ここから俺一人でなら降りることはできるが……今のお前じゃあ難しい。それに―――――――――」
と言って話を少しの間区切った陽太は先ほどまでとは違う真剣な目つきで僕を見て「ここに来た理由を話さないとな」と言った。
読んでくださってありがとうございます!
毎日投稿してるからか、ちらほらと読んでくださる人の数が目に見えて増えてきていて歓喜しております!
もうすでに2人の過去編も書き終わってるのですが、どこで入れるか悩んでます。
あ、ちゃんと毎日0時投稿は欠かしませんよ?最近は書いてて楽しいですからね(*´▽`*)
※紅ちゃんのイラストただいま製作中。