狂い咲く奈落花(2)
望遠鏡から目を離した麗慈は舌打ちをした。
「仲よさそうにしやがって、愁斗を痛めつける前にあの女を殺るか」
今の今まで麗慈は愁斗を遠いマンションの部屋から、糸を使わずに監視していたのだ。傀儡師のことは傀儡師が一番よく知っている。はじめて会ったときは簡単に近づけたが、今はそういうわけにはいかない。愁斗はかなり神経を尖らせて糸を張り巡らせて敵を感知しようとしている。
部屋のドアが開いた。開く前から麗慈は知っていたし、警戒もしていない。現れたのは小柄で顔をフルフェイスで隠した人物。声からも性別は判断できそうもなかった。
「勝手ナ行動スンナばーか。愁斗トアンタガブツカルノハ控エロッテ、姐サンカラノオ達シダゾ」
声が合成音だからだ。ただ、口調が粗暴で若い印象を受ける。
「俺様はだれのゆーことも聞かねえ。が、まだ愁斗と殺り合う気はないから安心しろ……クククッ」
「信ジランネー。まじデ殺ンナヨ、愁斗ハ餌ニ使ウンダカラナ」
「餌なんかなくても、俺様が釣って捌いてやるよ。はじめから愁斗の次はあいつだって決めてたんだからな」
フルフェイスが震えた。邪気を纏い強気な態度の麗慈が、かなりの力を持っていることは、戦うことを生業とする者や、魔導に長けた者ならばすぐにわかる。だが、震えた理由は別にある。麗慈が敵意を向けた相手が問題なのだ。
「アノ御方ト殺リ合ウナンテ頭ガイカレテルゼ」
粗暴な言葉遣いの者が、あの御方と呼ぶ相手は誰か?
麗慈はニヤリとした。
「じゃあどうしてお前はこっち側に付いたんだよ」
「コッチノ方ガ楽シソウダカラ」
「お前もイカレテるよ」