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Treasure Stories   作者: 高坂青空
第二章
8/38

第二章 3

第二章 3です

3

翌日のことだ。

俺は三教科のテストを終え、出入禁止になった屋上前の踊り場にいた。カバンを下ろして、ブレザーの胸ポケットから校則で禁止されているスマホを取り出し電話を掛ける。今日はバイトの予定が入っているのだが、もしもの為に遅れるかも、とだけ伝えた。

電話を切ると同時に背中越しに声をかけられた。昨日と同じ女子生徒の声。

「よく逃げなかったわね」

俺は声のした方に顔を向け、言葉を生んだ。

「当たり前だろ。可愛い後輩の告白はちゃんと聞かないとだからな」

「な……だ、誰が告白なんてするかー!」

顔を真っ赤に染めて、彼女、蛍原唯は叫んできた。

「なんだ?違うのか?」

「違うに決まってるでしょ!なんなのよ、アンタ!」

「それはこっちのセリフだろ。急にこんな手紙渡されてんだからさ」

「うっさいわね!」

一回一回の返しがうるせーな、こいつ。

「で、何なの?この果たし状って」

俺はこいつとのやり取りにも疲れて、早く本題に話を進めようとした。

「私はアンタを絶対に許さない!」

「だから、何を許さないんだよ?」

「今から二年くらい前のことよ。私の兄が病院送りにされたのよ、アンタにね!」

二年前か。

ちょうど俺が喧嘩に明け暮れてる時期か。まさかあの時に。

「俺が病院送りにしたやつって、お前の?」

「そうよ!だから、絶対にアンタを許さない!」

そっか。俺が恨まれるのは妥当な所かもしれない。

だから、俺は素直に謝った。

「それは悪いことをした。すまない。こんなことで許されないのは分かってる。これはただの自己満だ」

俺は頭を深々と下げた。蛍原は驚きを隠せずに呆然と立ち尽くしていた。

「な、なんなのよ!アンタ!なんで、そんなすぐに頭を下げれるわけ!意味分かんないじゃんか!ふざけないでよ!」

彼女は叫び続けた。そして、俺の胸ぐらを両手で握ってくる。目の前には可愛い顔立ちをした蛍原結衣がいた。

「なんなのよ……それじゃ……殴れないじゃない……」

俺は黙って彼女の話を聞き続けた。彼女の顔から泣くのを我慢しているのが分かった。

自然と彼女の手は力を無くし、そのまま壁にへたりこむ。


それから、三十分程が経過した。

蛍原は体育座りをしたまま、中に顔を沈めて黙り込んでいた。俺は彼女の隣に座って、喋ってくれるのを待った。その時はすぐに訪れた。

「……ねぇ……なんで……すぐ謝ったの……?」

泣いた後だからか、彼女の声はいくばくか乾いていた。でも、聞き逃すことはなかった。

「俺に全部、非があったからな」

「昔のアンタは、兄貴をボコボコにしたアンタは……そんなんじゃなかったはずよ……」

「昔の俺はもういないよ」

「何よ……それ?」

「言葉の通りだよ」

「今のアンタは何なのよ?」

「今の俺は今の俺であって、昔の俺ではない。ただそれだけだ」

「そう……」

それから、彼女は何も話さなかった。

スマホを取り出して、時間を確認すると一時を少し回った。ここに軽く一時間以上いることになる。留守番している彩華のことも少し心配になってくる。


「私ね……昔のアンタに復讐するために頑張って頑張ってこの高校に入った……でも、昔のアンタはいなかった……今のアンタを私は殴れないよ……私はこれからどうしたらいいのよ……何を目標にしなきゃいけないのよ……」

「目標か……そんなのいらねーだろ。そんなもんあっても邪魔なだけだ。それよりも信頼できる人を見つけろ。絶対に守りたいって思える人を見つけろ。それだけで、人生は見違えるほど楽しくなるよ」

蛍原は目元が赤くなった顔を見せてきた。乾いた唇を動かして俺の言葉を繰り返した。

「信頼、できる人……」

「ああ。今からでもいい。意外とすぐ近くにいるもんだ」

「そう……」

「ああ」

俺は真っ直ぐ彼女の顔を見た。けれど、恥ずかしくなって表情を緩め顔を逸らして下を見た。近くで見たら蛍原結衣はとてもかわいい系女子の言葉が似合う。きっと、誰かといい関係が築けると俺はなぜか思った。

「ねぇ、高坂……」

「ん?なんだ────」

顔を上げ、蛍原を見た瞬間、目の前には俺より明るめの茶髪がなびいて、程なくして俺の口を柔らかく少々乾いたモノが塞いだ。いや、違う。もっと今の俺たちに一番合う単語がある。

ベーゼだ。あえてみんなが分かるあの単語を直球には言わない。なかなかにその単語はこの年になっても言うのに慣れない。下ネタならいくらでも言えるのにな。

それはともかく俺の、高坂青空のファーストキスは蛍原結衣によって奪われた。

これは紛れもない事実。しかも現在進行形で続いている。自分でも驚くくらい冷静だった。


ベーゼしている時間が永遠のように感じられた。

そう感じている最中に、蛍原は俺からゆっくり離れていく。彼女の吐く吐息が頬に優しく熱を伝えた。彼女の顔はほのかに朱色だった。

「お前、何を……」

「ごめん、高坂……」

彼女は立ち上がって、昨日と同じように走り去ろうとした。だけど、昨日とは違った。俺も自然と走り出した。

「待てよ!おい!蛍原!」

俺は全力で彼女を追いかけた。

一階の昇降口の前で追いつき彼女の細い手首を握って止めた。

「待てっつってんだろ!」

「うっさい!離して!」

「無理だよ!泣いてるやつを置いては行けねぇーよ!」

自分でも驚くくらいに情動的になっている。

「迷惑よ!」

「そう思われたっていい!」

「いいから、離してよ!!」

彼女は全力で俺の腕を振り払って、俺からかじった程離れて俺に背中を向けてきた。

「私、死にたいよ……」

「っ……!」


自分の鼓動が速くなっていくのが分かった。視界が狭くなっていく。手が握り拳を作った。皮膚が破れそうな程に握りこむ。無意識に俺は彼女の胸ぐらを掴んだ。女子とか関係ない。

「おい……」

「え……」

「死にたいとか、軽々しく言ってんじゃねぇよ!」

「っ!」

「てめぇ、マジでふざけんなよ!生きたくても生きれなかったやつがいるんだぞ!そんなやつを前にそんなことが言えんのか!!」

「っ……ご、ごめんなさい……」

「ごめんなさいで済まそうとしてんじゃねぇぞ!」

「っ……」

彼女はまた目から涙を流し始めた。悲しみの涙ではなく、恐怖の涙を。

「あ……わ、わりぃ」

俺は彼女の制服を離した。また、出てきてしまったらしい”異常”な自分が。蛍原はその場でへたりこんだ。声も出さず、目から大粒の涙を流すだけだった。そこへ低い声が聞えてきた。

「おい、高坂!そこで何してる!」

曲がり角から教頭が出てきた。はげ頭が目立つ太った教頭。

「高坂、お前この娘に何をした!」

「泣かせちまっただけだよ」

「なんだと!今すぐこっちに来い!君、立てるか?」

教頭は蛍原に付き添い、職員室に連れていこうとするただただ申し訳なさがほとんどを所狭しと俺の中を染めていった。


もうすぐ結衣の過去がだんだん明らかに!

いったい彼女は何なのか。青空はそんな彼女をどうするのか

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