第二章 2
第二章 2です
2
手紙にはこう記されていた。
果たし状
高坂青空殿。この度は手紙を受け取って頂いてありがとうございます。
長々と書き連ねるつもりはありませんので短刀直入に申させていただきます。
明日、4月11日テストが終わった後、屋上に来てください。
決着をつけましょう。逃げるのはなしです。
もし、来なければ私は貴方を絶対に許さない。
一年蛍原結衣
「何それ?お兄ちゃん。この人に何したの?」
「知らん、身に覚えもないし、顔にも覚えはない!」
彩華の問いに俺は素直にありのままを伝えた。
「いや、でも、決着をつけましょう、とか書いてるよ」
「そんなこと言われてもな……」
俺は頭をポリポリと搔く。正直、困った。別に行かなくてもいいんじゃね、とすら思えてくる。
よく、知らない人とその手紙には気をつけろって教えられたしな。
「お兄ちゃん、どうするの?」
彩華が珍しく心配そうに俺を見つめていた。
「行かなくてもいいんじゃないか?見たこともないやつだし」
「いや、でも、お兄ちゃんが覚えてないって言っても、相手には覚えられることをしてるかもでしょ?」
「それもそうだけどさ……」
俺はソファーに深く腰掛けて考えた。もし、彩華の言う通り俺に非があるなら行くしかないか。
「でもな、彩華」
「どうしたの?」
「俺の学校、屋上行けないんだよ」
「そうなの?でも、この人は屋上に来てって書いてあるよ」
新入生だから仕方ないかもしれないが、あの学校は老化のせいか、前から屋上のフェンスが破れ過ぎていて去年、事故防止の為に出入り禁止になってる。
「ああ、事故防止でな」
「じゃー、この人どーするの?」
「約束は守りたいよ。でも、待ち合わせ場所が無くなっては行きたくても行けない。だから必然的に行かないじゃなくて、行けないだろ」
「酷い人だな、この人……」
彩華がジト目を俺に向けてくる。仕方ないだろ、行けないんだから。
「さて、飯でも食うか。彩華のポテチあるけど、今食うか?」
俺は立ち上がりながら、話を変える為に彩華に訊いた。
「ううん。夜に食べるからいい」
「おっけ。ジュースもか?」
「ジュースは今、一杯だけ飲む」
「あいよ」
俺はソファーから立ち上がって台所に行き、電子レンジから弁当と食器棚からガラスコップを二つ取り出す。一つにオレンジジュース、もう一つには冷蔵庫で冷やしてあった麦茶を入れた。
それらを持ってリビングのローテーブルに持っていく。
そして、ソファーに浅く腰掛け昼食を食べた。
その最中に彩華がさり気なく訊いてくる。
「お兄ちゃん、ほんとにいいんだよね?」
「ん、何が?」
弁当の唐揚げをほおばりながら、尋ねた。
「その手紙のこと」
「大丈夫だって」
「そう……お兄ちゃん……」
彩華が言い出しずらそうに口を開けたり閉めたりする。
「なんだよ?」
「……お兄ちゃんまでいなくならないでね……」
「彩華。変なことを言うのは止めろ」
自分でも分かってしまった。自分が彩華を守っていた時になっていた”異常”の状態の目になりかけていたことを。
「っ!ご、ごめんなさい……」
彩華が化け物を見たようなリアクションをしてから俺は自分の”異常”を解いた。
「あ、いや、悪い。でも、そんなことは絶対にないから、心配するな」
俺はそうはっきりと言葉にして、彩華の頭を軽く撫でた。
「そ、そうだよね……ごめんね……」
「ああ、気にするなよ」
「でも、お兄ちゃん、気をつけてね。本当に」
「だから、行かないって言ってるだろ?何を気をつけるんだよ?あ、テストのことか?それなら大丈夫だよ。これでも、点数は────」
「そうじゃなくて……行く気なんでしょ?」
俺の言葉を彩華が防いだ。彩華の頭を撫でていた右腕が止まる。
「え?何言ってんだよ。そんな理由が────」
「お兄ちゃんがそんな酷いことをするような人じゃないこと分かってるんだよ?だって妹なんだからさ」
やっぱり妹にはバレるよな。俺は少しばかり意表を突かれたが、すぐに冷静になる。右手を彩華の頭から離して、左手と組む。
「流石は俺の妹だな。嘘はつけないな」
「そんなの分かるよ……だって、お兄ちゃんはあの日から人が困ることもしないし、困ってたら真っ先に助けにいくじゃんか……」
それを見せたつもりはなかったのに、彩華のやつどこでそれを。
「なんでそれを?」
ただ単純に訊いた。
「悠真さんがたまに教えてくれるんだよ」
納得だ。あいつ、そんなこと言ってんのかよ、恥ずかし過ぎるだろ。
「たっく、あいつかよ」
「だから、お兄ちゃんがどんなに小さなことでも絶対に困らせたりはしないよ」
俺は少し、ほんの少しばかり笑ってしまった。それに、彩華が反応する。
「何がおかしいのよ!」
「いや、やっぱり、お前は俺の妹なんだなって思っただけだよ」
「何よ、それ」
「いや、気にしなくていいよ。彩華、ありがとな」
「え……」
「いやな、やっぱりお前がいないと今の俺はなかったからな」
「そ、そう……よかった……」
彩華はまだ着ているパジャマの胸元当たりを両手で軽く握った。
「彩華、まだ、怖いか?俺がいなくなること」
「う、うん……」
「そっか、じゃ、約束だ。絶対にいなくならないよ」
俺はあの日と同じく右手の小指を出して、あの日と同じ笑顔を向けた。それに、彩華もあの日と同じ笑顔で返し、あの日から少し大きくなった小指を出して、絡めた。
「うん!約束だよ!」
「ああ!」
「「指切りげんまん、嘘ついたらハリセンボン飲ます!指きった」」
俺と彩華の声だけが今、この空間に響いた。その後、ガシャン!というガラスコップが倒れる音。
「ああ!!!私のジュース!!」
「何してんだよ!彩華!」
「これはお兄ちゃんが力強く指きるから!」
「それ以上に俺の弁当への被害が増大過ぎるだろ」
弁当全体に、オレンジジュースがかかって最早食い物ではなくなっていた。
「何それ!面白い!」
彩華大爆笑、俺、大ダメージ。
こうした日常を俺たちは今もそしてこれからも続くんだ。俺はそう思う。
書きたくて仕方ないです!
今日二本目、どうぞ!