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Treasure Stories   作者: 高坂青空
第二章
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第二章 1

第二章 1です

第二章 始まり (高坂青空)

1

あの後、俺は真っ直ぐに家に帰った。悠真の親父さんが無償で住ませてくれている家というよりマンションに。

ポケットから鍵を取り出して、ドアを開けた。その刹那────

顔面に柔らかい物が飛んできた。俺はそれを少し乱雑に取る。どうやらそれは俺が彩華にあげたぬいぐるみだ。顔を上げると、彩華が朝と同じパジャマ姿で立っていた。

「おかえり!お兄ちゃん!」

「ただいま、彩華、俺は悲しいぞ。せっかく妹にあげたぬいぐるみが飛来分としての役目を果たすことになるなんて」

「何言ってるの、お兄ちゃん?それより、なんで彩華が怒ってるか分かってるよね?」

怒ってる?何かこいつを怒らせることなんてしたか?

「記憶にないな」

俺はそう率直に告げた。彩華はそれを聞いて静かに右脚を床から離し、後ろに折り曲げて全力で俺の横膝に蹴りをいれた。

「痛い!」

今日、俺は何回痛いと言わないといけないんだよ。身体中に蓄積ダメージが溜まっていく。

「昨日の夜、起こしてって言ったよね?観たいテレビあったのにさ!」

「あー、そんなこと言ってたな」

また、もう一発彩華の蹴りを食らった。さっきより痛い。後からくる痛み。

「うおっ……」

彩華の身長は150cm。俺との身長差で彩華が蹴りを入れるととてつもなく痛い関節部分に当たる。痛いすら言えない痛さ。今も響いている。

「前日に言ったよね!その時、お兄ちゃんさ、『任せろ』って言ったよね!で、起きたら何時だったと思う?朝の十時よ!十時!後悔しかないじゃない!もぉー!」

彩華は散々言った後、頭を抱えて呻いた。あ、そう言えば、

「彩華、お前が観たいって言ってるその番組、録画してた気がするぞ」

「え!?ほんと??」

彩華は後悔の闇から希望の光が全てを埋め尽くした。

「ああ、やってた気がするよ」

「観てくる!」

そう言って彩華は全力でリビングへと向かった。その間に俺は靴を脱いで、家用のスリッパに履き替えた。自分の部屋に戻ってカバンと彩華のぬいぐるみをベッドの縁に置いて、部屋着に着替えた。

ズボンの紐を締めている時に彩華が勢いよく俺の部屋のドアを開けて叫んだ。

「あった!あったよ!お兄ちゃん!」

「そっか、よかったな」

「ありがとー、お兄ちゃん!」

彩華が全力で俺に抱きついてきた。俺は不意をつかれて受け止めきれずにベッドに体を沈めた。

「よかったよ、ほら、これ持っていけ」

俺は彩華にぬいぐるみを渡す。

「うん!」

そして、ぬいぐるみ片手にまた勢いよくドアを開けて部屋から退場した。

まったく、どれだけ元気なんだ、あいつは。


少しばかり腹が減ってきた。スマホの時刻は既に十二時を僅かに過ぎていた。俺はベッドから立ち上がり、台所に行った。

リビングの方では、彩華が真剣にテレビを観ている。その真剣さを他に当てられないのかな。台所を見てみるが、特に作れそうな物はない。買い弁にするか。俺は彩華に訊いた。

「彩華、お前何か食ったのか?」

「うん、食べたよ」

なるほど、だから、こんなに台所が散らかってる理由だ。あえて言わなかった台所の散らかりにもう一度だけ目をやった。彩華は料理はできるものの片付けは一切できない。しないのではなくて、できないのだ。もし、させると皿を軽く十枚は割る。

「じゃー、俺なんか買ってくるけど、なんかいる物でもあるか?」

「あ、それじゃー、ポテチとオレンジジュースと────」

「どんだけあるんだよ!」

その後に軽くに二十品ほど言われた。学生の財布ってこと忘れてんのか、こいつは。

「えー、じゃー、最初の二つでいいよ」

「たっく、えっと、ポテトとオレンジジュースでいいよな?」

「うん、よろしくー」

一切こちらを向かずに言ってくる。妹ながらなんだこいつ。

リアルな妹なんてほんとにこんなものだ。二次元のように「おにーちゃん、大好き♡」とか気持ち悪いことは言っても、本心では絶対そう思ってない。絶対だ。ほんとだからな!変な期待を持たないで頂きたい。

部屋着の格好で俺は家を出て、徒歩三分のコンビニへと足を運んだ。

コンビニに着いて適当に買い弁と彩華のポテチとオレンジジュースをカゴに入れてレジで精算を済ませた。


その帰り道での出来事だ。

「あ、あの、高坂先輩ですか?」

後ろから震えた女の子の声が聞こえた。振り向くと、うちの学校の制服を着ている。学年カラーは一年らしい。

「そうだけど、お前誰?」

「えっと、その、これ受け取って貰っていいですか!」

彼女は腰を九十度近くまで折って、両手で便箋をこちらに見せている。

「は?何、それ?」

俺はその便箋を受け取って、確認した。白の便箋にハートのシール。

ん?これって、まさか……

「ラブレターか……?」

思ったことが無意識的に言葉になってしまった。彼女の顔はみるみる赤く染めていった。

「あの、そんな……そんなわけないじゃない!!」

そう叫びその女子生徒は全力で逃げてしまった。

「お、おい!」

だが、俺の静止の声も虚しく彼女は行ってしまった。


俺は家までの帰り道、ずっと考えていた。といっても一分程度。考えても、意味はない。早い話、この手に持つ便箋を開ければ分かるんだから。

家に着いてから、俺は靴を履き替え、台所の電子レンジで買い弁を温めている間にリビングのソファーに腰掛ける。どうやら丁度番組が終わったらしい。彩華は軽く背伸びをして俺にもたれ掛かってきた。可愛過ぎだろ。

「お兄ちゃん、何それ?」

「いや、帰り道で渡された」

「え、怖過ぎでしょ」

「いや、どうやらうちの学校の女子生徒らしいんだけど」

「女子?え?何?ラブレター??」

彩華はソファーから立ち上がり驚いた。

そこまで、驚くかね。ま、不良の名目がある俺に近づく女子生徒なんてほとんどいなかったし、びっくりするのは仕方ないけど、そこまで驚かれると俺のメンタルがズタボロだよ。

「ね!早く開けようよ!早く!」

彩華が俺の腕にしがみついて最速してくる。なんだ、可愛いな、お前。

「そうだな」

彩華が俺の隣に再度座ってウキウキしていた。

「これで果たし状とかだったら、面白いよ」

「まさか。見た感じそんな娘でもなかったし」

便箋のシールを破れないように剥がして、中身の手紙を取る。そして、衝撃。

手紙の一行目に「果たし状」と行書体で荒々しく書かれていた。

「お兄ちゃん……これ……」

「言うな……」

しばしの無言の後、電子レンジから出来上がりの音楽が鳴り響いた。


物語も一章を終え、二章をむかえました。

ほんとに書いてて楽しいです!

みなさまにも読んで楽しめられたら、恐縮の至りです。

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