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Treasure Stories   作者: 高坂青空
第一章
5/38

第一章 5

第一章 5です

   5

ざわついた教室に着いた俺は自分の席に座った。如月は自分の席、俺の前の席に座って本を読んでいた。彼女は異様な雰囲気を感じた。周りとは違う何か。やっぱりどこか彩華に似ている。ただモヤモヤしたそれだけが俺の中に留まった。

間もなくして、翔子先生が前の扉から入ってきた。

「はーい、お前ら席に着けー」

先生の透き通る声が教室に響いた。みんな、それに従って席に着席する。そして、みんなが座ったのを確認して先生が言った。

「みんな、席に着いたな、って、柊はまだ悶絶してるのか、ま、仕方ないな。はい、今日から五組理系クラスの担任になった東條翔子です。こらから二年連続で同じクラスだ。楽しんでいこうな、お前ら」

「「はーい!」」

なんだ、こいつらのテンション。どんだけ嬉しいんだよ。四十人中七割が男子を占めるこのクラス。そりゃ、翔子先生みたいな美人の先生が担任ならさぞかし嬉しいだろう。だが、こいつらは知らないから喜べるんだ。そう、こんな鬼教師……ゴツン!

鈍い音がした後、俺の額の一部に激痛が浮かぶ。

「うぉ……いって……」

俺は額を押さえて苦しみ喘いだ。机を見るとチョーク一本が半分に折れていた。状況を今、把握した。ゆっくりと前を向いた。翔子先生が投げ終わったフォームでこちらを見ている。

「高坂、お前は何度言ったら分かるんだ?誰が鬼教師か」

だから、なんで分かるんだよ、この人。異常だ。事件だ。化け物だ……ゴツン!

「痛い!」

二本目のロケットチョークの発射。見事に一発目と同じ所に命中。

「高坂、これ以上チョークを無駄にさせるなよ」

「投げなければいいでしょーが!」

俺がキャラに似合わず叫んびツッコんだ。

「違うな。変なことをお前が言わなければいいんだ」

「だから、言っとらん!」

「私には聞こえるんだよ」

「耳、どうかしてんのかよ!」

「それが教師に対する発言か!」

先生と俺は全力で言い合う。散々言い合った後、俺たちは息を荒くしていた。

「はぁはぁ、もう、いいだろ……」

「はぁはぁ、そうですね……」

俺は自分の席に、先生は教卓の椅子に座った。すると、周りから笑い声が所々で生まれた。

「なんだよ、高坂と先生のやり取り!マジサイコーじゃん!」

「先生と高坂君、面白過ぎでしょ!」

などと、色々な感想が聞こえた。たっく、なんで新学期一日目でこんなことになるんだよ。

「もう、いいだろ!さ、ホームルーム始めるぞ!」

その笑い声と感想を翔子先生が止めに入った。

「そうだな、とっとと初めて今日は早く帰ろーぜ」

俺が先生に賛同した。正直、帰りたい、今すぐに、ただそれだけ。みんなの若干のざわつきを残してホームルームが始まった。


ホームルームは適当にプリントや二年用の教科書、書類等が配られた。全部配り終えると、俺はそそくさとそれらをカバンにしまって先生の話を適当に聞き流す。最後に耳にしたのは、明日テストがあることだけ。それ以外の話は右耳から左耳へと抜けていった。

「はい、それではここで終わります。起立、礼」

「「ありがとうございました」」

みんな号令に合わせて立ち上がり、高さの違う礼を見せる。


俺は足早に教室を後にした。何か忘れているような気がする。気のせいかな。

帰る前にトイレに寄ってから階段を下りて、靴を履き替え校門へと向かう。まだ、ホームルームが終わってないクラスが多いのか、下校する生徒は数える程しかいなかった。

校門を抜けると、朝、見たのと同じ景色がそこにあった。まさに、桜の雨とはこのことか、と心の中で思った。きっと、みんな希望に胸を埋め尽くしてこの学校に来たのだろう。違う者もいるだろうけど。その生徒はぜひ楽しみを見つけて欲しいものだ。

「入学おめでとう」

誰にも聞こえない声で俺はそう独りごちた。坂をもう少しで下りきろうという時、強い風が吹き抜け、桜を舞い散らせた。その時、俺の視界には舞い散る桜にそれほど凄さを感じなかった。それよりも目を引くモノを目撃したから。


一人の女子生徒。

長い右手で長い黒髪を押さえて桜を熟視していた。如月葵だ。

俺は知らず識らずに彼女に話しかけていた。

「こんなとこで何してんだ?」

「あなた?確か同じクラスの……」

初めて聞く彼女の声は高くもなく、低くもない丁度いい声。そして優しい口調だった。近くで見ると彼女は単純に可愛かった。

「高坂だ。高坂青空(せいや)

「高坂……高坂君でいい?」

「ああ、好きに呼べばいいよ。で、何してたんだ?」

「桜を見ていたの。綺麗だから」

彼女はそう言いながら、視線を桜に戻した。

「そうだな。確かに綺麗だ」

「知ってる?ここの桜並木かなり前の文芸部員が埋めたらしいわよ」

初めて知る情報だった。そして疑問が沸き上がった。

「なんで、文芸部員が?普通そういうのって園芸部とかがやるんじゃないのか?」

「そこまでは私には分からない。でも、いいじゃない。こんな綺麗な桜を咲かせてるんだから」

不思議だった。彼女は何か、周りとはとんでもなく並外れた存在だった。それは俺だけが感じているだけかもしれない。

「そうだな」

俺もそれっきり彼女と黙って桜を見ていた。

たが、その時間も長くは続かない。学校側から騒がしい声が耳に届いた。

「それでは、私はもう帰るわ」

「そっか、じゃーな、如月」

「その名前で呼ばないで頂戴、高坂君」

彼女は少しばかり眼光を強くした。口調も微かに低くなったのが分かった。

「どうして?」

「理由を明確にすることはできないわ。でも、言葉で表わせと言うのなら、嫌いだからよ」

嫌いだから、か。充分な理由だ。

「じゃー、なんて呼べばいいんだ?」

「呼び捨てで葵ってどうかしら?」

彼女はからかうように微笑んだ。そこら辺の男子ならイチコロで落とせるレベルのそれで。だから、俺もそれ相応のものを返した。

「分かった。じゃーな、葵」

「え……あ、ええ……下の名前、知ってたのね……」

微妙に彼女は顔を朱色に染めた。

「ああ、人から聞いたんだよ。それをたまたま覚えてただけだ」

「そう」

「だから、改めてだ。じゃーな、葵」

「ええ、さようなら、高坂君」

彼女は踵を返して桜の中に姿を溶かせていった。

振り返った時、彼女は朝と同じようにやっぱり笑っていた。見間違いなどではない。

なぜ、笑ったのかは今の俺には知る由もない。

二年になって初めて、学校が少しだけ、ほんの少しだけ楽しくなりそうに感じた。彼女と話してる時間、空間は一言では言えない楽しさがあった。

とても、言葉にしきれないそれを人はなんと呼ぶのか。なんとなく分かる。

やっと俺の楽しみが見つかった。

だけど、それは虚像。そんなものは存在しない。絶対に。そう思っていたのに、彼女は一気に俺の中の常識を壊すまでの説得力(ちから)があった。彼女に俺は興味が出た。それだけだ。今はそう、思いたい。


二日連続の投稿です。是非、どうぞ!

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