第一章 4
第一章 4です
4
「あのー、翔子ちゃん?」
「東條先生だ。で、なんだ?柊」
「もうそろそろ離してはくれないですか?」
「残念だったな。無理だ」
「そんな〜」
今、俺たちは今年、二年五組理系担任の東條翔子先生に首根っこを捕まれ、教室まで連行されている。この人の力強過ぎだろ。さすがにこれは恥ずかし過ぎるぞ。だけど、翔子先生は直ぐに俺たちを自由にしてくれた。正直、初めて見た時は凄い美人だと思ってたが、中身は暴力と恐怖でしかなかった。短いショートの黒髪が俺の中で段々と恐怖の象徴になりつつあった。
見つかってから、全力で四階まで翔子先生(化け物)から逃げ……
「いって!」
頭に殴られたような痛みが走った。って、ほんとに殴られたんだけど。
「何すんすか!」
俺は殴った張本人に理由を求めた。
「お前、今、私のこと化け物って思っただろ?」
!?モンスター!?
また、強い痛み。ゴツン、という鈍い音が響いた。グーで思いっきり頭を殴られた。
「いって!」
「誰がモンスターだ!」
「なんで、考えてること分かるんすか!?」
「ほほー、やっぱり考えてたのか??」
指をポキポキと鳴らしながら翔子先生が俺に近づいてくる。
「いや、ごめんなさい!ほんとごめんなさい!」
俺が全力で悪魔……いや、神に許しを乞う。
「まったく……次言ったら、容赦せずに抹殺するからな」
「は、はい!」
恐怖を植え付ける笑みをこちらに向けて、脅してきた。これがほんとに教師かよ。そもそも、俺は何も言ってない!抹殺ってなぜ?ワーイ!?
「じゃー、早く教室に……って、あれ?柊はどこだ?」
「え、そこら辺にいるんじゃ‥‥‥」
周りを見渡してみると、悠真の姿はなかった。
あいつ逃げやがったな。って、……あ、見つけた……トイレ前の廊下の掃除用具入れの中。微かにだが少し開いていて目線をこっちに向けているのが分かった。まだ、幸いにも翔子先生は気付いてないらしい。
何かアイコンタクトを俺に送ってきた。訳するに、頼む、今は見逃してくれ、だと思う。
「くっそ、あのヤロー。私から逃げるなんて、この一年で成長しやがったな」
翔子先生が頭を掻きながら少し悔しそうにしていた。
よし、俺はその目を盗んで、アイコンタクトを返した。任せろ!、と。悠真からウインクが
飛んできた。気持ち悪い。だが、悪いな、悠真。
「翔子先生」
「誰が翔子先生だ。東條先生だと言ってるだろ」
「まあまあ、それよりもあいつ見つけたらどうするんすか?」
「あー、そのことか。間違いなく抹殺するだろうな」
「なるほど。神様、悠真そこにいますよ」
俺は悠真が隠れてる掃除用具入れを指さした。
「おい!!」
掃除用具入れから尋常じゃなく馬鹿でかい声が少し篭って聞こえてきた。
「ふっ、よくやったな、高坂」
翔子先生はそう言い残して、ドスドスとゴジラのように歩きながら掃除用具入れに迫っていった。掃除用具入れが独りでに震え始めた。不思議な現象だな。
そして、悠真は地獄を見た。俺は目を逸らさず、じっとそれを見た。御愁傷様です。
「ごめんなさい……もうしません……」
悠真の声はまるで壊れかけの喋る人形のような気持ち悪い声を三十回ほど復唱していた。
「たっく、世話を焼かせるな」
翔子先生は手をパンパンとはらって言った。
「それより早く戻りましょうよ」
俺は二人に提案した。少しばかり遊び過ぎたのかもしれなかった。もうみんな体育館から出て教室で担任が来るのを待ってるのだろう。
「そうね、早く行きなさい、高坂、柊」
「へーい」
俺は適当に返事するが、悠真は無理っぽいらしい。
「待ってくれー……立たせて……」
まだうつ伏せの状態で右手をプルプルさせながら伸ばして、助けを求める。俺は一度悠真に視線をやってから、手をさし伸ばした。悠真の手を握って立たせる。てか、どんだけやられてんだよこいつ。翔子先生マジでぱねーな。
「サンキュー、あおぞら」
それを聞いて俺は悠真の手を離した。少しばかり痛い目にまたあってもらおう。手を離された悠真は何のガードもなく床に顔面をぶつけた。
「うわー!!」
悠真は全力で床で苦しみながら転がっている。なんだよ、動けるじゃねーか。
「悠真、俺、先に行くな」
一部始終を見ていた翔子先生が先に行った俺に追いつき隣を歩いた。俺より少しだけ身長が低い先生からは、微かながら柑橘系の大人って感じの匂いが漂ってきた。
「私も他人のことは言えないが、お前も相当酷いやつだな」
「そうですか?あいつは学習してくれないんで、痛めつけないと分からないんですよ」
「それも一理あるな」
先生はそう言って柔らかな微笑を浮かべた。少しばかりドキリとしてしまった。俺は頭を振って気分を切り替えた。まだ、後ろの方では悠真の呻き声が続いていた。
「そんなことより、高坂」
「はい?」
不意に翔子先生から、名前を呼ばれた。
「お前、これからの進路はどうするんだ?」
「進路っすか?」
二年になった当日にそれを訊くのか。正直どうでもいいと、今の俺は思ってる。だから、率直に伝えた。
「どうでもいいって思ってます」
「どうでといいことはないだろ?何かあるだろ?」
「ないですよ。強いて言うなら、一人養える収入がある仕事につきたいですね」
「一人か。そうか。まだ、大変そうだな」
先生は俺の家庭環境を唯一知っている人だ。一年の時に悠真以外の人と関わろうとしなかった俺に積極的に介入してきた。だけど、俺は信用していない。なぜなら、人ってのは自分に何かデメリットがあれば躊躇なく関係を断ち切るから。
「別にそうでもないです。悠真の親父さんにも助けてもらってますし、まだ恵まれてる方だとも思ってます」
先程とは違う微笑を先生は浮かべた。
「やっぱり、君は高坂青空なんだな」
「は?当たり前じゃないですか」
階段を降り終わり、二年の教室が建ち並ぶ三階に到着した。ここで、俺は教室に向かったが、先生はまだ下りていこうとする。
「教室ここですよ?」
俺は先生に言った。
「ああ、職員室から色々と持ってこないといけないものがあるんだ」
「そうですか、分かりました。それじゃ」
そのまま踵を返して歩いていったが、また先生から名前を呼ばれた。
「高坂。今度から始業式くらいにはちゃんと出ろよ」
振り向いて見ると、先生は背中をこちらに向け軽く手を上げて、階段を下りていった。
「なんでそこまで俺に関わろうとするんだかな。分かんねーな」
俺は小声で呟いた。それから俺は一人で二年五組の教室へと向かった。
やっぱり小説を書くのは最高です!
ぇひ、感想もどしどし受け付けてます!