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Treasure Stories   作者: 高坂青空
第五章
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第五章 13

第五章 13です

13

その後、教室に戻ると悠真が唐突に訊いてきた。

「あおぞら、どーする?次の時間?二時間連チャンで体育館だってさ」

「らしいな。ま、午前に寝過ぎて眠くないし、俺は参加するよ」

「まぢかよ。俺はパスだ」

悠真は椅子を傾けて手をヒラヒラと自分の顔の前で仰ぐ。

「分かったよ。じゃーもう移動っぽいしじゃーな。出来る限り見つかるなよ」

「当たり前よ」

そう残して俺達はほぼ誰もいない教室を出てから別れた。


体育館に向かうには今いる三階から一度二階に下りてから、渡り廊下で移動するのだ。

二階に行くと、人が一気に増えた。

その流れに乗って俺は体育館に入る。

出席番号順の並びで座る。

ザワつく体育館でチャイム音が轟いた。それと時を同じくしてこの空間が静かになる。

チャイムが鳴り終わると、マイクで女生徒の声が響いた。前を見ると、生徒会長の五十嵐結月がマイクを握っていた。

「ただいまより、生徒会特別部活監修を始めます」

生徒会特別部活監修?なんだそれ?

多分ほぼ全員がそう思っただろう。ざわつきが息を吹き返す。そうなるのも束の間、生徒会長は続ける。


「例年ならここで部活動紹介なのですが、あまりにも不要かつ中身のない部活が増えたため部活存続のための特別ルールをここに提示させていただきます」

体育館内が異様な空気とざわつきに包まれる。

「その特別ルールとは部員が四名以上かつ活動功績が四ヶ月後までない部活は全て廃部とします。なお、現在それが成されてないのは、書道部、野球部、美術部、体操部、文芸部、柔道部、山岳部。そして────文芸部の八個の部活です」

その瞬間俺は察した。あの居心地のよい空間が汚染されようとしていることに。


「ちょっと待てよ!それはおかしいだろ!なんで生徒会にそんな決定権があるんだ!」

三年の列から一人の男生徒が立ち上がって叫ぶ。あれは柔道部の部長だろうか。

「そうよ!第一この高校は部活自由が取り柄の高校でしょ!」

同じく三年の女生徒がまた叫ぶ。それに感化されて多くの生徒が立ち上がり抗議に出る。

そんな俺はというと呆然とその光景を見ていた。

不意に見た一年の列に並んでいる結衣と目が合った。その目は心做しか僅かに揺れているように見えた。たっく、まだそんなに時間も建ってないのにのどが妙に乾く。


「静かにして下さい」

マイクを通した生徒会長の低く鋭い声が体育館に静寂を再び呼び戻した。

「確かにうちの高校は部活の自由を取り柄の高校です。しかし、それは功績がある部活に対するものです。功績もない、ましてやそれに人数も少ない部活を部活動と見るのはどうですか?少し考えてみてください。そんな部活に部費を与えるのは立派な成績を残している部活に申し訳がありません。その結果、このような采配を取らせていただきました」

「その通りだ!そんな部活なんて潰れてもなんも問題ないだろ!」

「まったくよ!そんな部活に部費を出しても仕方ないじゃない!」

生徒会長の発言に感化され、肯定の声を上げる者もいる。

「なんだと!もういっぺん言ってみろよ!」

それに痺れを切らした否定派は怒りを露わにする。

「言ってやるよ!お前らの存在意義なんてないんだよ!」

「てめぇ!!」

胸ぐらをお互いに掴み合う。その三年二人を先生が止めに入る。

見たか、名無し先輩。こういう奴ら不良というんだ。違うと思うけど。


その二人は先生に連れていかれてから、再度生徒会長は話を続ける。

「もし何か異論反論がある場合は言って下さい。その場合は十二分に論破して、二度と口答えできないようにします。廃部が嫌なら必要人数を集めて、功績を残すことです。なお、今からの部活動紹介は先程述べた部活以外で執り行います。以上です」

頭を下げて生徒会長はそのまま裏に下がっていく。

そして、部活動紹介はつつがなく行われた。

廃部寸前の部活を除いて、だけどな。


部活動紹介が終わり、解散の時間がやって来てまたざわつきが姿を現した。

「なんなのよ!あれ、意味わかんないよ!」

「くっそ!バカにしやがって!」

歩きながら愚痴を零す生徒がいる一方、肯定派もいれば何も言わない奴もいる。

そんな中を俺が通っていると袖を弱い力で引っ張られた。

振り向くと結衣が心配そうな面持ちで立ちほうけていた。

「結衣?」

「どうするの?この状況」

小声であるが、表情は不安を隠しきれなさそうだ。仕方ないだろう。あの空間を邪魔されようとしているのだから。

「俺がなんとかするよ。結衣、お前まだ入部届け書いてなかったよな?書いて提出してくれないか?」

「うん、分かった」

結衣はそう言い残して駆けていった。頼んだぞ、結衣。


そんな俺は一度教室に戻りホームルームを行った後、部室ではなく生徒会室に向かう。

っと、その前に一応、やっとくか。そう思い俺は寄り道をした後、生徒会室に足を運ぶ。


生徒会室の前には多くの生徒がいた。だが、誰も扉を叩こうとはしなかった。だが、よく見てみると泣いている女生徒がいた。おそらく、生徒会長にめちゃくちゃ言われたのだろう。


俺はそんな人混みをかき分けて生徒会室をノックする。ほんの間が空いた後ドアが開く。

目の前にいたのは生徒会長本人、五十嵐結月だ。

「何か用かな?」

「少しお話しませんか?生徒会長?」

「いいわよ、入って」

「ありがとうございます」

俺はそのまま生徒会室に足を踏み入れ、ドアを閉めた。閉める寸前、外からは色んな声が聞こえた。最後に聞こえたのは、

「あれって高坂青空だ。不良なのにあの二年で如月に次ぐ────」

そこで声は途切れた。


「まさか、君も部活についてかしら?」

「それ以外何かあると思うか?」

「あれ?なんで急にタメ語になるのかしら?」

「俺は尊敬する人以外には敬語を使いたくないもんで」

「くだらないプライドね。ま、いいわ。君って確か二年の高坂くんだよね?」

「俺を知ってるのか?」

「有名人だからね。そんなことより、君別に部活に入ってないよね?」

「ああ、だけど今から入るよ。文芸部だ」

俺はポケットから入部届けを出した。生徒会長はそれを受け取ると少しいやらしく微笑んだ。


「そう。分かった。でも今入っても三ヶ月後には廃部よ」

「そうはさせねーよ。なー俺と賭けをしないか?」

俺は窓際まで歩いて、窓を開けながらその縁にもたれかかりながら言った。

「賭け?」

生徒会長は微かに眉を傾げた。

「ああ、もし俺が次のゴールデンウィーク明けのテストで一位を取ったら俺のお願いを聞いて欲しいんだ」

俺が持ちかけた条件はとてもシンプルだ。この清澄高校には連休明けに国、数、英の三教科のテストが存在する。もちろん順位も発表される。

それに俺が一位を取ったら、文芸部を存続させるというもの。

「へぇ、随分な自信ね。それは私が決めてもしょうがないわ。それは対戦者張本人に聞きましょう。入ってきて」

そして、裏扉から出てきたのは如月葵だった。ホームルームにいなかったのはそういうことか。


「と、言うことだけどどうする?如月さん」

「いいですよ、生徒会長。私は負けませんから。ただもしもあなたが私に負ければ、この高校を去ってもらいます。素行不良者はこの高校に必要ありませんから」

如月は俺に悪意ある提案を向けてきた。

だから俺も如月に訊いた。もちろん、悪意込みで。

「随分な自信だな。今までの成績と実績がそんなに自慢か?」

「そんなこと思ってない」

「あっそ。まーいい。これで話はついた。生徒会長、俺が勝てば…いいな?」

「もちろんよ。なんならもしこの娘が負けたらこの娘も文芸部に入部させてあげるわ」

生徒会長は微笑んで、承諾した。さらに望んでもいないラッキーが飛び込んだ。

その提案に如月は少し戸惑う眼差しを生徒会長に向けていた。が、態度には表さない。

そして、俺は生徒会室を出た。



~十分後~

「もちろん、分かってるよね?葵。もし今回の勝負に負けたら生徒会長の話は全てなしだよ」

生徒会長は如月にそう話した。その声は普段の生徒会長とは違った。

「分かってます。絶対に勝ちます」

それは如月の声だけでも伝わってくる。勝つという意思が。


なるほどな。そういうことか。

その日の深夜、俺は知った。このことの闇を。

前もって、スマホの録音機能をセットして生徒会室の窓際に置いといて良かった。最初は言質をとるだけのつもりだったが、これはいいことを聞いた。

盗聴だけど、見つからなかったらいい。

俺が全て解決してやる。全てな。

俺はその為の準備を始めた。手始めに俺の勉強だ。机に向かうのも数年ぶりだ。



時を同じくして、文芸部では────

「ごめんね、高坂くん、結衣ちゃん……嘘ついちゃってて」

その声は少し潤んでいた。誰にも聞かれない声。

名無し先輩の正体。その何もかもが分かる。

それは、知りもない、知りたくなかった現実。

彼女の名前は真礼。

五十嵐────真礼


五十嵐真礼、どういうことなのか

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