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Treasure Stories   作者: 高坂青空
第五章
36/38

第五章 12

第五章 12です

12

時間は分からないが体感的には長く感じた。だが、どうやら数秒のようだった。

「な、何言ってるの?高校生なんだから部活の一つや二つ入っててもおかしくないでしょ?」

表情は至って昨日と変わらない。多分、十人中十人全員がそう答えるだろう。

だけど、俺には何かその笑顔が苦笑いにも見えた。いや、どちらかと言えば愛想笑いってやつか。

「別に大した意味はないんだけど、なんとなくな」

「そっか、高坂くんも随分変わってるね」

「そうか?でも、周りからは色々言われてるけどな、落ちこぼれとかなんとか悪評高いよ」

「それを堂々と言えるのはかなり肝が座ってるね」

俺は座っている椅子を少し傾け、背伸びをする。


「まーな。もともと野球やってたからな。プレッシャーには強いのかもな」

「へー、意外だね。高坂くん野球やってたんだ」

「ああ、中学三年の夏までな」

椅子の傾きを戻して、名無し先輩が用意してくれたお茶に手を伸ばす。

少し苦味のあるお茶だが、悪くない味だった。

「なんで辞めちゃったの?」

名無し先輩が言い終わると俺も湯のみを机に置いた。

「受験も控えてたし仕方ないよ。それに……」

少々考えて俺は続ける。いや、正確には続けるのはやめた。

「いや、やっぱなんもない」

名無し先輩は俺の口調が少しシリアスになったのを察したのか、続きを催促することはなかった。

「そう?ま、仕方ないね」


俺はどこか息苦しくなりまたお茶でこの空気を濁した。

すると、ドアが勢いよく開く。

「お前、遅かったな」

姿を目視せずとも分かる。結衣だった。

「しょーがないじゃん、あんたの学年主任の授業いっつも遅いんだもん」

「あいつか、それはドンマイだな」

俺達の学年主任の授業は特に長いことで有名だ。しかも、無駄に怖い。何度か俺もお世話になってるいる。

「もー溜まったものじゃないよ。なんであんな長いの?」

「それを俺に聞くなよ。聞くなら本人に直接聞けよ」

文句を零しながら、結衣は定位置に腰を落ち着かせる。

そして、俺と同様に名無し先輩はお茶を用意してくれた。

「……あ、ありがとう、ございます」

小声で結衣はお礼を言った。

やっぱり前に怒ったことを気にしているのかもしれない。

名無し先輩も一瞬キョトンとしたが、すぐに微笑んで席に戻る。


「はい、これ」

結衣はお茶を飲んで一息つくと弁当の入った風呂敷を渡してくれた。

「ありがとよ」

俺はそれを味わいながら食べていく。この時間はなんだかんだ一番幸せな時間なのかもしれない。こんな時間がいつか振り返った時にかけがえのないものになるのかもしれない。


結衣の弁当を食べ終わりお茶でほっこりしていると、結衣が話題を提供した。

「ねーもう一週間ちょっと後にはゴールデンウィークだよ?二人ともどう過ごすの?」

「私は、まーとくに予定はないけど、家にいなきゃだめなのよね」

名無し先輩は苦笑いを浮かべていた。ずいぶんと過保護なんだな、と内心思っていると、名無し先輩は話題を俺に振る。

「青空くんは?」

「決まってないがたぶんずっとバイトだと思うよ」

「それで青春を過ごすなんてもったいなくないの?」

心配顔をするのは結衣だ。

「そんなことはない。バイトも学生の時にしかできないだろ?それも一応青春だよ」

「やっぱり自分のやりたいようにやってるね。さすが進学校唯一の不良」

結衣は少し笑った。名無し先輩もほのかに笑う。

「そう言う結衣はどうなんだ?」

俺が尋ね返す。そこまで言うならお前は相当やってるんだろうな。

残りのお茶を流し込む。

「全く全然決まってない」

お茶がむせた。

「お、お前、よく人のこと言えたな!」

「ははっ、それは面白いオチだね」

結衣だけでなく、名無し先輩も爆笑をかました。


「たっく、まさかの返答だったよ」

「いや、ごめんね。こんなことになるとは思ってなかったの」

ハンカチを差し出しながら、少しだけほんの少しだけ申し訳なさそうな顔を結衣は作る。

「あ、今思いだしたんだけど、午後の全校集会って何するの?」

「ん?あー確かそうだったな。この時期にするのって部活のなんかじゃないのか?新人歓迎会みたいな?」

「そうなの?」

結衣の顔が今度は名無し先輩に向いた。

「いつもならそうだけど、二時間も連続は今までなかったかな。例年なら一時間で十分だったんだけどね。どうする?高坂くん、不良退治だったら?」

「なんだよ?不良退治って」

たっく、どいつもこいつも不良不良いいやがって。


「ま、大したことは起きないと思うけどな」

「不良退治は大したことでしょ?」

結衣は机に肘を置いてからかうように言う。

「なぜ不良退治が前提になってるんだよ、第一俺は言うほど不良じゃない」

「それはどうかな?」

「なんだ?その意味深な言い方は?」

名無し先輩もまた俺をからかう。

「不良ってどこからが不良なの?」

結衣は唐突に話を斜め方向に傾けた。

「さーな、煙草やったら不良じゃねーのか?知らんけど」

「じゃー青空くんはセーフだね」

「だから元々不良じゃねーつーの」

こんな会話が昼休みの終了五分前くらいまで続いた。


そして、この後に待っている地獄を俺達はまだ知らなかった。

この空間を犯す妨害が。

この空気を汚染する陰謀が。

今の俺達は知らない。無知な存在だった。

刻一刻と迫り来るその時。

初めてこの物語で高坂青空の力が試される。


この後に起こることはなんなのか?

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