第五章 6
第五章 6 です
6
弁当を食べ終わり俺は静かに箸を置いて、手を合わした。
「ご馳走様でした」
俺は小声で食終わりの掛け声を掛けた。
隣にいる結衣からは照れの入ったお粗末様でしたが返ってきた。
「すげぇ美味かったよ、また作ってくれよ」
俺は結衣の顔を見て感想を述べた。
「うん……ありがと」
結衣は微かに微笑み、嬉しそうに目を逸らした。そのタイミングと同時に予鈴が鳴った
「さてそろそろ行くか」
「そうだね」
俺がそう言うと結衣と二人して立ち上がった。
ただ一人だけ依然と椅子に腰を預けている者がいた。
「どうしたんだ?行かないのか?」
俺はその当の本人である名無し先輩に向かって訊ねた。
「私は……サボるよ」
一時の間を空けて名無し先輩はヤンキー的なことを言った。それが意外だったのか結衣は鼻白んでいた。俺は名無し先輩を正面に見て、
「サボるって、あんた三年だろ?流石に一学期からサボりってどーよ?」
「はは、気にしなくていいよ。私は徹頭徹尾まで完璧な予定を頭の中で作り上げてるから」
「それはまた怜悧な奴だな」
「てっとう……てつび?れいり?」
語彙力のない結衣の頭から煙を上げていた。
説明するのも面倒だと感じた俺は結衣を華麗にスルーして話の続きをした。
「ホントに大丈夫なのか?俺が言うのもなんだけどここの教師はなかなか厳しいぞ?」
「俺が言うのも?もしかして高坂くんもサボり魔?」
初めて名前で呼ばれ少しばかり違和感を覚えた。でも言うほどでもないので俺は名無し先輩の質問に答えた。
「まぁそんなとこだ」
「君も人のこと言っちゃダメでしょ。それに授業はちゃんと受けた方がいいよ。受けたいって思っても受けられない子はいっぱいいるんだから」
「それってどういうことだよ?」
「気にしないで。さ、二人とも早く行ってらっしゃい!」
名無し先輩に背中を押されて俺達は部室を後にした。
廊下を二人で歩いていってたわいない会話をした。
「変な人だったな」
「ホントにね。それに……」
結衣は自分の胸に手を当てて溜め息をついた。
俺はそれを察して慰めてやることにした。
「気にしなくても女の魅力はそこだけじゃないぞ!それによう言うだろ?貧乳はステータスって!」
「誰が貧乳よ!」
慰めには失敗。思いっきりビンタされた。痛い。
そして本校舎と部室棟との別れ際の所まで来た。
さすがにここから先は生徒も多く入り浸る。見られても困るしここで別れることにした。
「ここで別れるか、弁当ありがとな、じゃーな」
「うん、バイバイ」
胸元辺りで手を小さく振る。
これがこの娘無意識だから怖いんだよな。まったくもって末恐ろしい。
教室に戻ると他の生徒は午後の授業の用意をしていた。
どうやら五時間目の時間割は数学らしい。
またしてもあの悪ババァの授業だ。
おっと、この言い方では皆に伝わらないな、失敬。
翔子先生の授業だ。
あの人後ろに目があるように生徒の状況が分かるからな。
自分の席に着いて俺は深く落ち着く。
頭と体ではひたすら昼食後の惰眠を貪りたい欲求に駆られていた。
分かってる、一学期のしかも通常授業開始五時間目でサボるのはダメなんだよな。分かってるよ。
ただ昼の睡魔とは悪辣なのだ。
俺は席を立った。
チャイムが鳴ると同時に我に返った。
あ、俺サボっちゃった。
ま、いいか。俺はフラフラしていると知らぬ間に文芸部室に足を運んでいた。特に意味はなかった。
俺は先程までの睡魔と一緒にドアを開けた。
以前と同じような風が吹いた。だが前程の驚きはなかった。
中には名無し先輩がぐっすりと机に突っ伏して眠っていた。
この人、他人には授業は受けなきゃダメとか言ってたのに自分は爆睡かよ。
と、言ってる俺も人には言えないのか。
俺は起こさないように昼と同じ席に座り同様に机に突っ伏して眠った。
春休みはバイト尽くしだったしな。今くらいは寝させてくれ。
学生の本分は勉強?知らん。人間の本分は半分睡眠と半分は食事。たまに性欲。
以上のことから睡眠を優先させます。おやすみなさい。
そして、俺はぐっすりと夢の世界にダイブした。
不思議と睡眠は深かった。
それから目が覚めるのは五時間目終わりのチャイムと同時だった。
徐々に物語は動き始めています。




