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Treasure Stories   作者: 高坂青空
第五章
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第五章 3

第五章3です。

3

その後、俺達は大した会話もせず通学路に戻った。

もう、結衣の顔にあった涙の跡は綺麗に消えていた。

「そうだ、お前の連絡先を教えてくれよ」

俺は今思い出した。結衣の連絡先を知らないことを。

「連絡先?」

結衣はその問いに頭の上をハテナで埋め尽くす。


「そうだよ、スマホとか持ってるだろ?」

「あー、あれよね……えっと……あの、す、スマホよね!」

おっと、まさかコイツ……

「持ってないのか?てか、スマホ知らないわけないよな?」

「し、知ってるよ!」

「じゃー、なんの略称か言ってみろ」

俺はジト目に彼女を見つめる。だが、それには目を合わそうとせず、視線を遥か彼方に向ける。


「す、スーパーマーケット、ホーリデイ!」


驚愕一色、驚天道地、大驚失色。

まさかこの世にスマホを”市場の休日”と訳す奴がいるなんて思いもしなかった。

多分、この時の俺は最大級に笑える間抜けヅラだっだだろう。

だが、目の前の彼女が笑わないのは自明の理。俺を見ていないからだ。

目を地面に向け、(うずくま)っている。体調不良じゃなくて単なる恥ずかしさで。


「そ、そうよ!私は無知でバカよ!笑えばいいでしょ!スマホ?何それ!そんなの知らないわよ!」

コイツ開き直りやがった。

俺に恥を露顕されたことによって後悔の色で結衣は染められた顔を詰めてくる。

俺は彼女の肩に両手を載せて一定の距離を開けてから、

「ドンマイ」

と、ただ一言。

だって、もう言われたんだぞ、バカって!もうドンマイしか言えないじゃん!


「何がドンマイよ!スマホの略なんて知らなくても損はしないわよ!」

そのまま完全に開き直った彼女は腕を組み、そっぽを向いてしまった。

俺、まだカタカナ四文字分しか口を開いていない。


「悪かったよ、そうだな、損なんてしないな、この通りだから機嫌直してくれ」

俺は当惑の末に謝ることを決意。両手を合わせながらさすがにずっとこの状態はキツいと思った。

「ふん」

明らかに許しを乞うても許さないという空気を流してきやがった。


俺は一つ小さくため息を吐いてから、結衣の手を握って歩き出した。

「え……?ちょっ!」

動揺を隠せず、俺に引っ張られたまま結衣は抵抗する。

でも、女子の力だ。そう簡単に振り払えたりはしない。

「ま、まさか、私を人影のない所に連れ込んで、いやらしいことを……そしてあられもない姿に……」

泣き声混じりの声でとんでもない偏見を並べてきやがった。


「するか!」

俺はツッコまずにいられず、偏頗な考えを覆した。

「じゃ、なんで急に……」

目を少し潤ませて結衣は訊ねる。


「学校遅れそうだったし、置いて行くわけにもいかないからな。だから、とりあえずは手を取って行く選択肢しかなかったんだよ」

「何よ、それ……」

涙を拭いながらそう零す。

「それよりもあんなことで拗ねる方が絶対悪いと思うけどな」

俺はそう同じように零してから制服を翻して、先に行こうとする。


「ちょ、何よ!って、待ってよ!」

それに物申す勢いで結衣が俺の後をつけてくる。

隣に並んだ結衣に俺は再度質問した。

「スマホを知らなかったってことは、携帯電話を持ってないってことなのか?」

「そ、そうよ……」

侮られるのが嫌なのか、小さな肯定が返ってくる。

携帯電話はさすが知ってなきゃ日常生活に支障をきたすだろうな。


少し困ったな。結衣との連絡先を知らないとなるとこれからどう会うかとかが直接会って用とかを伝えるしかなくなる。

それは結衣のこれからの学校生活に関わることだ。

俺みたいな不良を相手にしていると分かったら、ある意味嫌な噂が流れかねない。


「どうしたの?」

返答を返し忘れていた俺に結衣は心配そうに訊いてくる。

「あー、これからどうしようかと思ってな。連絡が不便になるからな」

「別にいいんじゃないの、直接で」

コイツ、ホントに何も考えてないんだな。

「それはダメだ。俺みたいな奴と付き合いがあることがバレたらお前の学校生活に支障をきたすかもしれない」

「そんなこと────」

「あるんだ」

結衣の言葉を途中で遮って俺は無意識に強めに言った。

これ以上、俺と関わって苦しむ人を増やしたくはない。


「っ……わ、分かった」

少しばかり俺の怒気を孕んでしまった返しに結衣は渋々首肯した。

「わ、悪い、だけど、本気でこれだけは分かってくれ。俺のことでこれ以上苦しむ人を出したくないんだ」

「こっちこそごめんね、変に迫っちゃって」

そうしょんぼりされては逆に困る。

「ま、昼休みにどっかで一緒に飯くらいは食おうや」

結衣の頭にポンと手を置いて優しく撫でた。

「……上手いね、撫でるの」


少し猫なで声の様に結衣はラフに返してくる。

「妹がいるからな」

「そっか、シスコンか」

「誰がシスコンだ!」

結衣の頭から手を除けて、おでこにコンと指を突く。

「いてっ」

可愛い痛がり方だな、この野郎!いや、この女!


「ま、昼休みは屋上前の踊り場で待ってるよ」

俺はそう言うと、結衣は今度は大きく首肯した。

もうすぐで学校前の坂道に着く。

俺達はその前で別れた。そこから急激にうちの高校に通う生徒が増える。

知ってる奴に出会ってなんか言われるのも面倒だ。

小さく胸の辺りで手を振って結衣は俺の先を小走りで立ち去った。

俺はまだ咲く桜の木々を見上げた。

間からの木漏れ日が少し眩しかった。


久し振りに少ない間隔で書けました!

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