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Treasure Stories   作者: 高坂青空
第四章
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第四章 7

第四章 7です

7

出勤は四時半過ぎだった。仕事内容は主に割れ物かそうでないかの分別とトラックへの積み込み。その他、内容確認などなどがある。統括はそれをしながら指示出しをしなければいけない。

出勤から約五時間後。

「終わった〜」

俺と宮崎さんは事務所の椅子で疲れきっていた。


高校生は十時には退勤しないといけない。それは法律だ。仕方ない。法律、万歳!

「お疲れ、青」

隣のパイプ椅子に座っていた宮崎さんが俺にそう言った。

「お、お疲れ様です。そして湯本さん含め他の大学生方、頑張ってください」

頑張ってくださいと言っても、後は後片付けのみだ。今日の仕事は俺達が上がる前に全部終わらせた。

俺は疲労感を言葉の中に無くそうとしたが、無理だった。だから、その分を今働いてる人達へのエールに変えた。

「いやー、最初の頃は間に合わないと思ったけど、さすが青だな、ナイス指示だしだわ」

「僕は大したことしてないですよ。皆さんの協力のおかげですよ」

俺は宮崎さんのお世辞に対し、俺は社交辞令のような返しをした。


「そんなことないよ、高坂。本当によくやってくれたよ、俺も間に合わないと思ってたんだけどな」

親方がパソコンから目を離して俺に視線を向けた。

「それじゃ、もう少し仕事量減らしてくだせーよ」

俺は若干のふざけ口調で親方に返した。

「はは、それは朝のメンツに頼むよ」

親方の乾いた笑いについ俺も笑う。


「よし、じゃー帰るか」

宮崎さんが先に立ち上がってそう告げるとそそくさと着替える。俺も同様に着替え始める。

「青、この後なんか食うか?」

「すいません、妹待たせちゃってるんで、申し訳ないっすわ」

上着を脱ぎ終わってから俺は少し申し訳なく断った。


「そっかー、じゃ、俺も直帰するか」

すると、宮崎さんが残念そうに大きく伸びをした。


着替え終わった俺達は事務所を出た。もちろん出る際にも親方の挨拶を忘れない。

「お疲れ様です」

「おつかれでーす」

俺と宮崎さんは同時にそう言うと、親方も右腕を上げてお疲れと返してくれた。


会社を出ると、四月だというのにまだまだ冷たい空気が体を震わせる。

「おーさぶっ。それじゃーな、青」

宮崎さんは体を震わせながら原付のエンジンを掛けて、先に会社の駐輪場を後にした。


俺も冷たい夜道を白い息を吐きながら帰る。

街灯の点滅、たまに通る車のヘッドライト、家々から漏れる光が今ここを照らしていた。ここが暗闇になるとどうなるんだろうなと、家に帰る道中ずっと考えた。

最近、考えることが意味分かんないな。


家に到着して、冷たくなったドアのぶを回すと中は暗かった。

どうやら、もう彩華も寝たようだな。ということは飯は自分で作ったのか。


彩華は基本自分の手を煩わせる作業はしないのだが、このようなどうしようもなく腹が減った時にはブツブツ言いながらも料理をする。

前に一度、彩華の料理完成と同時に帰ってきたことがあった。

その時に食べさせてもらったが、非常に美味だった。

なんで全然料理しないのに俺よりも上手いんだよ、と恨めしくなったが、食べ進めていくとその感情は消えていった。


その代わりに懐かしさが胸の奥底からこみ上げてきた。

食べ終わってから、久し振りに湯船に浸かったのだが自然とそこで涙が溢れ出てきた。

一人の空間になったからか、それとも体の異常か。

それか────まだ心の傷が癒えてないのか。

それは今になっても答えを見つけられずにいた。


俺は暗くなった玄関口の電気を付けて、靴を脱ぎ、脱衣所兼洗面所に向かう。

扉を開けると、そこにはパンツを履きかけていた、いわば裸の彩華が。


……大して気にすることもせず、選択籠に仕事用の服を入れてその場を後にした


扉をカチャリと閉めてから、数秒後。

『ぎゃゃゃゃ!!!!!!』

中から全く色気もクソもない悲鳴が聞こえた。

俺はすかさず閉めた扉を再度開けて、中の彩華の安否を確認する。


「彩華!どうした!誰かに襲われたか!?」

「いやぁぁぉ!!!!」

中にはパンツを足元に転がし、本当の全裸の彩華がそこにいた。全力の悲鳴をあげて。

「なんで何回も覗けんのよ!!」

そう叫んだ彩華は洗濯機の横の掃除機(重め)をこれまた全力で投げつけた。

もちろん、ほぼ零距離砲撃だ。俺に避ける暇などなかった。

掃除機(重め)の砲弾は俺の顔面を直撃。勢いに乗って脱衣所の向かいの廊下の壁に俺は体ごと持っていかれた。どこにこんな力が……


「お兄ちゃんの変態!シスコン!私の初めてが〜!」

と、半泣きになって彩華は全裸であることを忘れて脱衣所を出て自分の部屋へと駆け戻った。

「……やり過ぎ、だって……」

俺は渾身のツッコミも聞く者がいなければ、ただの独り言。俺はがっくりと項垂れて、体に載せっぱなしの掃除機を退かす。


ゴキゴキ痛む体を起こして、掃除機の命を確認。ふぅ、どうやら、無事のようだ。

それから掃除機を持ち上げて、元あった場所に返す。


それから、一つため息をついてから思ったことが自然と口から漏れた。

「鍵掛けろって言ったのにな」

そう、前にもこんなことがあったのだ。その際はギリギリ下着の状態だったから何とか選択籠を投げられるだけで済んだが、まさかあの時よりも酷い状態になるなんて。


ま、忠告を守らないあたりは俺の妹だなと思ってしまう。

俺は気を取り直して、彩華の散らかった服と下着を選択籠に投入しシャワーを浴びる。


仕事のある日はシャワーで済ませ、休みの日は風呂に入る。これが俺のルーティーンだ。

彩華も俺に合わせているらしい。だから、休みの日は学校から帰ってくるともう風呂が入れてあったりする。そういうところは気が利いている。

と、思うだろうが、彩華は自分の私利私欲の為だけにそうしているのだ。

だって俺が入る時にはもうぬるま湯だ。また追いだきしないといけない。

あー、腹が立つ。ま、いないよりかはマシか。


俺は脱衣所から出て彩華の部屋に向かう。

さすがに謝らないとな。なんせ、全裸を見てしまったのだから。

ドアをコンコンとノックした。だが、返答が返ってこない。

「おーい、彩華。俺が悪かったよ。返事してくれ」

「うっさい!変態!鬼畜!シスコン!」

中に向かって俺が言うと、間髪入れずにとんでもないボリュームで叫ばれた。

なんで、罵倒の項目に一つ増えてんだよ。と、ツッコミたい衝動を抑えて、許してもらうための餌を口にする。


「お詫びに冷凍庫にアイスあるからな。食べたい時に食べてくれ」

前に買っておいたアイスを犠牲に許してもらおうとした。

「……」

中からの返信はない。

俺は踵を返して、電気を全部消してから自分の部屋へと戻る。

目覚ましの確認をしてから、寝床についた。

明日は朝から仕事だ。

その最中、外からカサカサと袋を破るような音がしたのは、夢なのかどうかは分からなかった。


日常を描いています。

次から第五章は”部活”になります。


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