第四章 5
第四章 5です
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俺はなんてことを……
今、俺は家に帰ってきてソファーにうつ伏せで寝転んでいる。
「恥ずかしい……」
ぽつり心の本音を吐露していた。
二ヶ月に一回は洗濯しているソファーのシーツからは柑橘系の甘い柔軟剤の香りがする。そんなことはどうでもいい。
人生16年間、五月には17年になるがその中で初めて彼女ができた。
しかし……なんだあの臭い告白!何が俺と一緒に生きてくれ、だよ!
臭い!臭すぎる!臭すぎて草生える!
「うわぁぁぁ!!」
全力でソファーに向かって言葉にならない気持ちを喉と奥から絞り出した。その声はシーツによって弱った。
足と腕をバタバタさせて、周りから見たら変態にしか見えないだろうと思いつつも、家であることも要因だが、それよりも体が言うことを聞かない。
そして散々足と腕をばたつかせた後、全身が脱力した。
頭の中には結衣の顔が現れ出てきた。
「柔らかかったな……」
ボソッと零した。無縁の感触だと思っていたのに、まさかこんな早くに……
その後、また結衣が現れ出て、好きと言った時のあの照れ顔が俺の心に矢が突き刺さる。
「ぐっほっ!」
左胸にとてつもない痛みが……
「可愛すぎるだろ……」
確かに可愛い。可愛すぎる。俺のか、彼女は世界一だ。まさか、こんなリア充的なことが言える日がくるなんて思いもしなかった。
「会いたいな……」
「誰に?」
ソファーに顔を埋めていた俺は声のした方に顔を向けると、彩華の整った顔が目の前にあった。しゃがみ込んで俺の顔を見つめていた。俺は過去最大のピンチを迎えた。
「……」
「ん?」
彩華が首を傾げて、疑問符を浮かべている。
俺は無言のまま、何も言えずにいた。
「ねー、誰に会いたいの?」
「……え、あー、あれだよ……い、彩華に会いたいなった……」
咄嗟に出た言い訳はシスコン丸出しだった。
「気持ち悪っ……」
彩華はまるでGを見るような蔑んだ目で俺を見てきた。心にくる……
「おいおい、愛しき妹よ。兄にそんな思ってもいないこと言わないでくれよ」
俺はうつ伏せ状態で、できるだけカッコつけた。
「いや、お兄ちゃん、もちろん本音だよ。それにもうちょっとちゃんとした姿勢で言ってほしかったよ」
彩華は顔を左右に振りながら、俺の心をえぐり返してくる。
「それでホントは誰に会いたいの?」
「あー俺の彼女だ。彼女に会いたい」
俺は敢えて本当のことを言ってみた。これによって彩華は兄の大切さが分かるはずだ。きっと。
「彼女ね。なるほど、で、その虚像彼女はいつまでいるの?」
「虚像って、どんだけ俺を信頼してないんだよ」
俺は乾いた笑いを浮べた。
「だって、お兄ちゃん、中学まで野球しかしてなかったじゃん。ボールとグローブが彼女とか意味わかんない二股掛けてたじゃん」
「ちょ、最後のだけ聞かれてたら俺、ただの最低男になっちゃうから止めてくれ」
実際には確かに言ってたよ。でも、あの時は本気だったんだよ。彼女なんていらなかったんだよ……
はい、そーですよ!嘘ですよ!ごめんなさいね!彼女、欲しかったですよ!悪いですか??清純な男子がそんなこと言ってちゃダメですか??
「お兄ちゃん、二次元と三次元は違うよ?その彼女(仮)は触れるの?」
「なんだよ(仮)って!それにちゃんと触れるよ!」
「ま、まさか画面にそんことを……お兄ちゃん!ダメだよ!現実を見てよ!」
俺を両手で持って、体を揺らしてくる。
「俺はそんなに変態じゃない!ちゃんと存在するよ!」
俺は強めに指摘する。だって、この娘全然信じてくれないんだもん!
「じゃ、紹介してよ!実際にあって見せてくれないと信じないよ!」
謎の結末になりかけて俺は困惑した。見せてって言われても困る。
「そんなこと言われてもな……」
「はい、嘘確定―!」
彩華が立ち上がって指を指し、バカにする口調をしてきた。
横になっているから、立ち上がった彩華は上から俺を見下してきた。
腹立つな、こいつ。
俺は勢いよく立ち上がって、150cmない彩華の頭を両手で強く握った。
「い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!ごめんなさい!ごめんなさい!もう言いませんから!」
「お兄様は、どーした?」
彩華は浮いている脚をぶらつかせて、捕まれている頭に手を掛けて痛がっていた。
「お兄様ごめんなさい!私がバカでした!」
「よし」
俺は両手の力を抜いて、彩華を離し落とした。
「ひ、酷いよ……お兄ちゃん……こんなか弱い妹を……」
明らかに演技がかった彩華は床で泣いていた。もちろんそれも演技だ。
全くいろはの方は全然お淑やかな感じの女の子なのに、こいつときたらこんなんだから腹が立つ。大雑把と言ってしまえば短絡的だが、決してそんなことはない。
それが高坂彩華の特徴だと俺は言えると思う。
「今度、紹介してやるよ。だけどな、それには一つだけ問題がある」
「そうよね、だって画面越しでしか会えないもんね」
「あ?」
俺は両手を握ったり開いたりして、彩華を脅した。
「いえ、ごめんなさい。なんでもないです」
彩華は躊躇いつつ一歩下がって謝った。
こういうところは兄妹似てるなと分かる。これが新鮮さを感じないまでになるくらいに俺は彩華と一緒にいるのだ。
「それでその問題なんだけどな。お前、その人に会えるのか?」
「あ……」
そう彩華は人に会うことができないのだ。
彩華は自分から人に会おうとしない。いや、できないのだ。
だから、不登校になり外部からの人間との関わりを断ち切った。
俺は彩華との距離を詰めて、顔を下に向けていた彩華の頭にそっと手を添えた。
「無理しなくていいよ、最悪写真でもいいだろ?」
「……ダメ」
小さな声で彩華の否定する声が聞こえた。さっきまでのふざけ口調とは訳が違う。
「もしネットとかで拾われてたら困る。直接連れてきて会わせて」
彩華は決して大きくない声でそう言った。頭を上げて俺の目を真っ直ぐに見つめて。
俺はこういう場合を大切にしてやりたい。
彩華が自分自身で前に進もうとするこの場合を。だから、俺は肯定の意味を含めた笑みを浮かべてる。
「分かった、また彼女と相談して連れてこれる日を聞いてくるよ」
「うん」
彩華はまだ顔を上げている。素晴らしい成長だ。
間が空きましたがいいものにしあげてます
 




