第四章 1
第四章 1です
第四章 軌跡(高坂青空)
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俺は体を捻って声のした方を見た。
「やっと喋ったか。で、どうしたんだ?」
桜が風に乗って空を舞った。それと同じく蛍原結衣の濃淡の茶髪が揺れる。
俺の問いかけが聞こえたのかは不明だが、彼女は下を向いて何も話そうとしなかった。
俺は下りてきた坂道をまた上った。彼女は動揺して、目線を左右上下に泳がせている。それに俺は目もくれずに彼女の前まで来た。
「どうかしたか?」
今度は絶対聞こえる距離で発したから、確実に聞こえてるはずだ。
「えっと……その……」
「なんだ?告白か?」
「んっ……!」
俺の冗談に蛍原は耳まで真っ赤に染めた。なんだ?照れたのか?図星、なわけないよな。
「何?その反応?」
「う……」
「う?」
「うっさい!この変態!」
「ぐほっ!」
蛍原の右手が俺のみぞおちに入る。数秒の間、呼吸ができずかなり焦った。
「な、何すんだよ……」
「あ、あんたが変なこと言うからでしょ!」
「冗談に決まってるだろ?」
「そ、それでもよ!この変態!」
まだ、顔を赤く染めてなかなか俺と目を合わそうとはしなかった。
「たっく。昔とは全然違うな」
「え?」
俺は昔の彼女を思い出して、今と比べる。その俺の独り言に蛍原は過敏に反応した。
「あんた、覚えてるの?」
「ん?何が?」
「私と、昔会ったことよ」
「当たり前だろ?あんな可愛い娘忘れるわけないだろ?」
昔の彼女は今よりも少し髪が首の付け根くらいまでの長さだったが、今は肩甲骨辺りまで伸びている。正直、今の方が似合っていて可愛い。
「何よ?それ」
目を逸らして、小さく呟いた彼女は儚い感じだった。
「ホントに可愛かったからな。ま、今も悪くないよ」
「うっさい!このド変態!」
今度はちゃんとみぞおちを避けて、脇腹辺りに拳が食い込む。
「いって!」
脇腹なら大丈夫と思っていた自分を恨みたい。クソ痛い。
「で?緊張はほぐれたか?」
とりあえず、かっこいい風でズキズキ痛む脇腹を撫でていた。
「ま、まーそうね……」
「それで、何か聞きたいことがあるんだろ?」
俺は彼女の目を真っ直ぐに見て尋ねた。それに彼女は今回も目を合わせようとはしない。
「あんたの過去に何があったか聞いた。あのキレイな先生に」
「は?俺の過去?」
なんだよ、翔子先生。話すなって言ったのに。
「私と似たような人生だったのね」
「私と、ってお前も」
「うん、ちょっとね」
「じゃー、昔会った時はもうそうだったのか?」
「まーね。それであんたのことについてずっと調べてた」
「俺のことを?」
「兄貴を病院送りにしたあんたを、ね。でも、なかなか名前を知れなかった。あんたずっと喧嘩してる時も名乗ってないの?」
思い出してみると、確かに俺は喧嘩してる時に名乗った記憶はない。唯一名乗ったのは、悠真と喧嘩した時のみだった。
「ああ。基本訊かれる前にそいつらは全員気絶してるからな」
「あんた、どんだけ酷いヤツなのよ……」
蛍原の呆れた目線が痛い。でも、事実なんだから仕方ない。うん、仕方ない。
「気にしても仕方ないだろ?そんな過去のこと」
「それで聞き込みをしてると、あんた凄いあだ名で呼ばれてたのよ。知ってる?」
「あだ名?何?」
「傍若無人の悪魔、よ」
「な、なんだ、そりゃ?俺、陰でそんな変なあだ名で呼ばれてたのかよ。中二病全開だな」
「ええ。それはもう酷いレベルね。ネーミングセンスも何もないわね」
「まったくだ。で、いつ俺の本当の名前を知ったんだ?」
「いや、なんだろ?夢、かな?」
「夢?」
「つい数日前に夢で誰かに言われたの。
“あなたの兄貴をボコボコにしたのは、高坂青空”だって」
「何?その超能力?お前、もしかしてすごいヤツなの?」
「私はそんな天災な者じゃないわよ」
「てか、お前それを信じたのか?」
だとしたら、こいつは冗談抜きで超能力者だぞ。実際、当たってるし。
「ふふ……」
「ん?どうかした────」
「あっははは!」
突然彼女は大爆笑し始めた。笑いながら、彼女は言う。
「そんなわけないじゃない、あんた、覚えてないの?自分で名乗ったじゃないの。私との別れ際にさ。あー、お腹痛い」
「え?確かに名乗ったとは思うけど……」
名乗ったのは覚えているが、小声だったぞ。よく聞き取れたなと、関心してしまう。
「お前よく聞き取れたな。それに、その時はまだ俺のこと知らなかったんだろ?なんでだよ?」
「私だってそんなにバカじゃないわよ?聞き取りとかしていったらなんとなく分かるわよ」
「なるほどな。よかったわ、お前がそんなバカじゃなくて」
「何よ!?偉そうに!」
「気にすんなよ」
「たっく。それで、その……」
急に言葉に詰まった彼女はそれっきりしばらく言葉を発さなかった。
「どうかしたか?」
「…………」
「おーい、蛍原?蛍原さーん?結衣ちゃーん」
「……あ、あんたの過去を教えて!」
「え?」
急に大きく発せられた声にもびっくりしたが、その内容にも驚きを隠せなかった。
初めて合った彼女の目は髪の色よりも濃い茶色だった。それから今度は俺が目を逸らしてしまう。
「先生から聞かなかったのか?」
「聞いた、けど、大体しか聞かせてくれなかった。だから、あんたに聞きたいの」
「……分かったよ」
俺は少し考えてから、承諾した。話す気なんてないのに、なぜだろうか。同じ立場の人に会えたことが無性に感動したのかもしれない
ここから、また青空編が再開します!
そして、次から書き方を少し変えて、間隔を多めにしようと思います!




